【第55回】お尻はいつも両方使う

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

普段クラスを教えている中で生徒のみなさんから寄せられる質問をヒントに、どうやったらうまく身体を使えるのか、どうしたら使い方をイメージできるのか、現役ダンサーの藤野先生ならではの視点で解説します。

しなやかに。流れるように動きから動きへと、美しく繋ぐアダージオ。
強く俊敏に。弾むように動き回る軸や、瞬時にダイナミックに舞い上がるジャンプなどのアレグロ。
踊りはテクニックのみならず、様々な手段で表現や彩りの方法を変えていかなければなりません。
けれども、動きが「速いか?ゆっくりか?」「大きいか?小さいか?」などの違いにより、体の使い方が全く異なってくるという事ではありません。むしろ「全く同じ使い方で、コントロールの仕方を変える」方を考えてみましょう。そのためにはまず「自分で自分の使い方をちゃんと理解する」ことが第一だと思います。

今回は様々なパターンに分けて、お尻の使い方、動かし方を研究してみましょう。

似たような形で地上と空中.jpg

お尻二つで自分を送る

お尻の役割は大きく分けて「脚を動かす」と「体を支える」の二つ。けれども踊りの中では、時に片方の脚が上がって反対は軸になり、すぐさまもう片方の脚が上がって軸足も交代する。目まぐるしく動き続けるうちに、何がなんだか分からなくなってしまう人が多いはず。
しっかり覚えていてほしいのは「両方のお尻が協力して一つの動きを成そうとする」ということ。どんなにもがいても「お尻はいつも隣合わせ」なので、動きをバラバラにしないように注意しましょう。

横に移動するステップで考えてみましょう。シンプルにタンジュ→タンリエで軸移動します。
軸の脚と軸お尻。動きお尻と動き脚は、イラストのように仙骨を頂点にして「虹のようなライン」で繋がっています。重要なポイントは「どこから動き始めて、どこへ繋ぐか?」になります。

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頭の中では「まず脚を動かす」ところにスイッチが入ってしまいますが、突然太ももが行動開始すると、イラスト1のように動きお尻がビックリして仙骨を引き、軸お尻がビックリして軸の脚をずらしてしまいます。反対にイラスト2のように、軸のお尻がしっかりしているのを確認してから、「脚をタンジュに出そう」と動きお尻に連絡してから動かすとどうでしょう?
要するに、足運びの動きをする際は、動かす脚によって振り回されずに、軸のお尻と軸脚の接続部に当たる「大転子」から丸ごと運ぶようにすると良いと思われます。

タンリエでの軸移動はシンプルなアダージオの感覚で練習できますが、ダイナミックな動きのグリッサードや他のアレグロのジャンプなどのお尻の感覚もご紹介しましょう。

タンリエ.jpg

グリッサード.jpg

シソンヌ.jpg

シンメトリーなお尻の動き

先程は「左右のお尻が協力して一つの方向性」のお話でしたが、今度は「シンメトリー(左右対称)なお尻の動き」についてです。
股裂きジャンプとでも言いますか、ガバッと開脚して跳ぶとか、グランバットマンのようにダイナミックにガバッと「開脚する動き」に適応する感覚です。

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センターの仙骨を感じて、前後または左右の開脚に対して、それぞれ「引き離すように」「反対方向に」お尻の動きや流れを生み出します。
理屈としては解ると思いますが、いざやってみるとなると、どちらかの動きに持っていかれて、軸がブレてしまったりするでしょう。仙骨をしっかり位置付けして、正確なイメージを持って動かすような集中力。練習あるのみですね。

前のグランバットマン.jpg

後ろのグランバットマン.jpg

軸メインで大きくロンド

三つ目は「脚を上げている状態で大きくロンド」などのお尻の役割を見てみましょう。
デブロッペ、またはストレートに高く上げた脚を、前→横→後ろなどの次のポジションへ、脚を上げたまま送っていきます。お尻(骨盤)はどのポジションでも、脚を高く上げた時点で相当傾いていますが、この傾きを今度は前横後ろの「それぞれの方向」へと向きを変えなくてはなりません。

股関節に乗る傾き....jpg

動きの始め。大きくロンドで脚を送っていく時も、実際にグイッと強い力を、上げている脚側のお尻に感じるでしょう。しかしロンド側のお尻に強い締まりが発生すると、軸側は引っ張られて振り回されることになり、ちゃんと立っていられない位置に持っていかれてしまいます。
軸脚の股関節を「先端が丸い杖」と考えて、その頂点に「股関節の受け皿」を上手に乗せる位置を探ってみましょう。そうすれば大転子を前(大腿筋膜張筋)、横(中殿筋)、後ろ(大電筋)の全方向から支えている状態になります。
その「股関節の受け皿」を支点にして、骨盤全体を回すようにイメージして、ロンド脚を前→横→後ろへ送ってあげましょう。

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骨盤を回してロンド.jpg

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>>> 【第55回】お尻筋膜ムーブ - エクササイズ-

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。
●藤野富村バレエアート代表
https://www.fujinotomimuraballet.com

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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