【第54回】ムキムキ太ももにならないように

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

普段クラスを教えている中で生徒のみなさんから寄せられる質問をヒントに、どうやったらうまく身体を使えるのか、どうしたら使い方をイメージできるのか、現役ダンサーの藤野先生ならではの視点で解説します。

誰もが描く理想のバレリーナの腕や脚と言えば「しなやかで細長いもの」であって「ムキムキモリモリのボディ」を求めてバレエのレッスンに励んでいる人は、なかなか少ないはず。そんな中でも、腰幅より広そうな「太い太もも」なんて、トップクラスの嫌われ者ではないでしょうか。

しかし太ももには、馬力を出して跳び出すパワーと、動きを完全に封じこむほどのコントロールが備わっているので「太ももはなるべく使わないで」とは思い込まない方が身の為です。

今回は「太もも周囲の環境」についてお話ししましょう。

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強い方がいいに決まっている

筋肉の大きさと強さは、決して比例するものではないのですが、例えば「前ももがすごく弱かったら?」一体どうなるのでしょう?
前ももは「力の入る順位ナンバーワン」と言えるほど、どんな小さな動きに対しても、一番最初に強い反応を感じられる部位です。その強い力は「激しい動きを生み出す=原動力」のように思うところですが、前ももの真の役割は「今ある状態が崩れないように制御する=抑止力」であり、「踏ん張り」のようなものと考えてみましょう。
2番ポジションのグランプリエで、前ももの筋肉はどうのような繋がりを持って、何を支えているのか?イラストで確認してみましょう。もし前ももが弱く、しっかり止める力が足りなかったら?たちまち尻もちをついて倒れてしまうでしょう。
前ももは「地面と自分を繋げる」重要な役割を担っています。強い前ももあっての、安定した踊りを育てていきましょう。

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行くか?戻るか?

前ももは大きい筋肉の塊に見えますが、大腿四頭筋(大腿直筋、内側広筋、外側広筋、中間広筋)という4つのメインキャラによって成り立っています。筋肉の役割としてはどれも「膝や股関節を曲げる(屈筋)」なのですが、立ち位置や動きの状況によって、使う部位も使い方も大きく変化が現れます。
前ももの筋肉も他の筋肉と同様に、グッと締める収縮(引く)の力と、ググッと張ろうとする伸長(押し)の力の、全く正反対の動きの性質があります。
言葉で考えても感覚を捉えるのが難しいと思いますが、シンプルに、単純明快に「前方に押し出す、行こうとする」と「後方に引き入れる、戻ろうとする」の「前か後ろか?」で、対称の力がはっきりと区分できます。
色々なパターンで押し引きの感覚のセルフチェックを行なってみてください。

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プリエからの立ち引き.jpg

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肝心なのは立ち位置

大腿直筋は上に引き上げる力。膝周りの筋肉は「大地と繋がろうとする力」。前ももは上下でビシッと張ることで最大の力を発揮します。となると、前ももの「上と下の起点」を考えて、繋がりを感じ、手綱を張るように構えることで、次の動きがより安定したものになります。
膝関節はなかなか前後に厚みのあるもので、前と後ろの方とそれぞれに、体重の掛け方でコンディションが変わって来ます。前の方とは「膝のお皿のすぐ裏」の辺りで、大腿四頭筋の「下の起点」。ビシッと鎖を繋ぐ部分です。後ろの方とは「膝裏の辺り」で、ちょっと気を抜いて立ってみると「沈んでいく」感じがして、その時に大腿四頭筋は、膝に向かって垂れるように落ちていきます。

「背すじを伸ばす」という指示の中に「背中を引く」という感覚を持つと、膝裏、かかと重心になってしまいます。
膝のお皿を感じ、その上方に股関節前部、そして上体を乗せにいくようにしてみましょう。

膝前と後ろに立つ違い.jpg

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バレリーナとして「綺麗に見せたいところ」がつま先であったり、背すじやアームスなど色々とある中で「太ももを綺麗に見せたい」という感覚は全くランキングに入ってこないようです。
つま先がグニュっと綺麗に伸びていても、太ももがドテッとぶら下がっていると、踊りにバタつきが見えてきます。
太ももは広範囲の立方体ですから、正面の前ももには「まるで顔が付いている」かのように、どのような表情を持って「どこに向いている?」かを考えてあげることで、踊り全体に大きなプラスの影響を与えてくれるでしょう。

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Check
>>> 【第54回】ももリフトUp&Down - エクササイズ-

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。
●藤野富村バレエアート代表
https://www.fujinotomimuraballet.com

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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