荒部 好

『ドン・キホーテ』K バレエ カンパニー

 2001年から熊川哲也はK-BALLET Companyに、古典全幕バレエを次々と演出・再振付けしてきた。その仕事もこの『ドン・キホーテ』で5作目となり、一区切りがついたのではないだろうか。 熊川にとって『ドン・キホーテ』は、東京のローザンヌ国際バレエ・コンクールでグランプリを受賞した時や、ロイヤル・バレエでプリンシパルに昇格した際に踊った特別の作品である。

『ドン・キホーテ』のDVDの映像を見ると、熊川の古典全幕バレエの演出・再振付の特徴がよく分かる。熊川は今日まで受け継がれてきた古典バレエの伝統に敬意を表し、尊重している。 自身の主張のために、古典バレエを解体して都合の良く再構成するようなことはしない。

たとえばこの『ドン・キホーテ』でも、初演のプティパ版にセルバンテスの原作のモティーフを加えて改訂したゴールスキー版の趣旨を生かして、ドン・キホーテ像を描いている。 プロローグに憧れの淑女、ドルシネアを登場させてドン・キホーテの旅立ちの目的を明確にする。ドルシネアはドン・キホーテの空想の中の人物として、キトリとは別のダンサーに踊らせる。 こうしてドン・キホーテの、風車を怪物と思い違えるような空想癖を作品全体に通底させた。キトリとバジルの結婚を祝福してドン・キホーテは、彼の空想の中のドルシネアを求めて再び旅立っていくのである。 これは今日上演されている『ドン・キホーテ』の中で、最も妥当な説得力のある演出といっていいのではないだろうか。

また熊川版『ドン・キホーテ』は、ガマーシュ、ドン・キホーテ、サンチョ・パンサ、ロレンツォなどの脇役に演技力のあるキャストを配しており、ダンスは要所で康村和恵と長田佳世が盛り上げるので、 シーンが音楽性豊かで流れが非常にスムーズである。荒井祐子、熊川のグラン・パ・ド・ドゥが見事なのはいうまでもなきが、全幕を通して見応え充分の『ドン・キホーテ』である。

 

演出・再振付・舞台美術・衣裳/熊川哲也
原振付/マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴールスキー
音楽/ルードヴィヒ・ミンクス
キャスト:キトリ/荒井祐子、バジル/熊川哲也、エスパーダ/スチュワート・キャシディ、メルセデス/松岡梨絵

『ドン・キホーテ』
K-BALLET COMPANY
発売元:ポニーキャニオン
¥8,190 (本体価格¥7,800)
2005年5月18日発売