(荒部 好)

『コッペリア』全2幕(パトリス・バール版)パリ・オペラ座バレエ団

パリ・オペラ座バレエ団によるパトリス・バール振付・演出の『コッペリア』のDVDが刊行された。
パトリス・バールはオペラ座でエトワールとして活躍した後、1980年代からバレエ・マスターに就任。様々なヌレエフ版作品などの指導にあたったほか、『ドガの小さな踊り子』ほかの自身の振付作品も発表している。

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『コッペリア』(1996年初演)は、従来のヴァージョンではコッペリウスは老科学者として登場する。しかしバールは、最愛の恋人を失った魅力的な中年の男性(コッペリウス=ジョゼ・マルティネス)とその家来である老科学者(スパランツァーニ=ファブリス・ブルジョワ)という二人の人格を分けた。
魅力的な中年の男性を登場させることにより、従来の登場人物の関係が微妙に変化する。今までは孫と祖父以上に年齢がかけ離れていて、恋愛に発展する可能性がなく、ただ妄想を燃やすだけだったコッペリウスとスワニルダが愛し合う現実性が生まれた。従来は老人と若いカップルだった主要登場人物に、魅力的な中年の男性が加わって、愛が生まれる可能性が一段と複雑になったのだ。フランツにもライヴァルが登場人物に加わった。これは元々『コッペリア』という作品の中に潜在していた題材が、別人格を一人投入することでドラマとして浮かび上がってきたということだろう。経験豊かなバールの老獪な作術劇といえる。

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しかし、一人新たな登場人物を作ることで、原作の音楽の場面構成ではどうしても描き切れなくなる。そこでドリーブのオペラから楽曲を援用することになったのである。
それはとにかく、たとえば第1幕ではスワニルダ(ドロテ・ジルベール)とフランツ(マティアス・エイマン)とマルティネスのコッペリウスが、コール・ド・バレエとともに3人で踊るシーンなどは、今までのヴァージョンよりははるかに変化に富んだ興味深い愛についてのニュアンスが生まれている。また、コッペリウスはマルティネスの優れた表現力により、初めて演じられたとは思えないほど魅力的な人物像が浮き彫りにされている。
エイマンも一見、ボーッとしているように見えるが、ダンスは余裕でこなし、なかなか繊細な演技を自然に演じている。ジルベールも好演してもちろん、全体にレベルは高いのだが、もう少しミステリアスな味がでるとさらにいいな、と感じた。
そしてコール・ド・バレエを踊っているオペラ座の若手が魅力的だ。まるで若い鹿たちが集っているかのように、若々しい活力が舞台上に溢れている。

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スタッフ&キャスト
演出・振付/パトリス・バール、原振付/アルチュール・サン=レオン、原作/E.T.A.ホフマン、音楽/レオ・ドリーブ、演奏/コーン・ケッセル指揮、コロンヌ管弦楽団、美術・衣裳/エッツィオ・トッフォルティ、照明/イヴェス・ベルナール。2011年3月パリ・オペラ座ガルニエ宮で収録。
特典映像「コッペリア」の秘密。95分+30分。
スワニルダ/ドロテ・ジルベール、フランツ/マティアス・エイマン、コッペリウス/ジョゼ・マルティネス、スパランツァーニ/ファブリス・ブルジョワ
価格税込5,040円