(関口紘一)

『バレリーナ 踊り続ける理由』

吉田都 著

1983年、17歳の時、ローザンヌ国際バレエコンクールでローザンヌ賞を受賞し、英国ロイヤル・バレエスクールに入学。88年にはサドラーズウェルズ・ロイヤル・バレエ(現英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ)のプリンシパルに昇進。95年には英国ロイヤル・バレエ団にプリンシパルとして移籍して2010年まで踊り、以後はフリーランスのバレエダンサーとして、今日まで踊り続けている、吉田都の新しい本が刊行された。

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全体を7章に分けて、トウシューズに憧れてバレエを始めてから世界最高峰の舞台でプリンシパル・ダンサーとして踊り、改めてフリーランスのダンサーとして踊り続けているい40年間の、何ものにも代え難い貴重な経験を、ごく平易な言葉で分かりやすく、読者に語りかけるように綴っている。
読み進むうちに、この1冊の本全体から、一流の技術と表現力を持つバレエダンサーでありながら、謙虚で女性らしい細やかな優しさが溢れる吉田都の人となりに包み込まれる。
そして「ごく一般的なサラリーマン家庭」に生まれた彼女が、ヨーロッパの競争社会の中でも一段と激しく姸を競い合っている檜舞台で、世界トップの座を20年以上も守りかつ輝かすことができたのか、本当に不可思議な気持ちにさせられる。しかしここにまた、バレエという芸術の、あるいはバレリーナというアーティストの秘密があるのかもしれない。
清純な未だ10代の女性がたった一人、見たことも聞いたこともない激しい競争社会の真ん中に立ち自分の進路を切り拓いていくために、どれほど心を傷つけたか、どれほど激しいホームシックにかかったか、それはおそらく言葉では決して表すことはできないだろう。こうした局面で多くの人たちが闘いを放棄してきたのだろうから。
しかし、吉田都は後には引かなかった。ひとつひとつ問題と立ち向かい、辛抱強く自分に問いかけ、解決策を見出して自身を高みへと導いてきた。

第3章までは「ライバルは、自分」として、自分の心へ問いかけてバレリーナとしての心身を形成していく物語。第4章は「引き出し合う関係」として、パートナーについて。現ロイヤル・バレエ芸術監督のケヴィン・オヘアから、ジョナサン・コープ、イレク・ムハメドフ、フェデリコ・ボネッリ、スティーブン・マックレーとパートナーたちを語り、自身の人生のパートナーに話が及んでいる。第5章では、ロイヤル・バレエ団でのサヨナラ公演の楽屋で起こったこと、そして最終章では、3.11の東日本大震災が起こった時にチャリティ公演を立ち上げたこと、などなどが淡々としかし深い気持ちを込めて語られている。
近年刊行された舞踊関係書の中で、最も胸を打たれた1冊である。

『バレリーナ 踊り続ける理由』
吉田都 著
河出書房新社 刊
本体 1,600円(税別)