荒部 好

『ワトソン・繁子 バレリーナ服部智恵子の娘』

鈴木れいこ 著、黒沼ユリ子/解説
 日本のバレエの先駆者の一人、服部智恵子はロシアのウラジオストックで生れた。ここで青春時代を過ごし、バレエを習った。父の仕事がロシア革命の影響を受けて不調になり帰国すると、やがて日本に帰化するロシア人エリアナ・パヴロバに師事した。その後、島田廣と服部・島田バレエ団を結成して活躍。戦後、ロシア語の力をかわれて、鳩山一郎の日ソ交渉同行したことは有名。パリでさらにバレエを研究した後、初代バレエ協会長となり後進の育成に努めた。服部智恵子は日本のバレエ界の人たちから尊敬と親しみやすさをもって、<ママさん>と呼ばれた。笑顔を絶やさず、鷹揚な人柄でバレエ界のリーダーとして、大きな功績を残した。
 この服部智恵子は、じつは恋多き女性だった。ウラジオストック時代にロシア人と恋をして、この本の主人公であるワトソン・繁子を身ごもったのだが結婚にまでいたらなかった。服部は帰国後、笹田数雄と結婚。繁子は笹田の家庭で、他の兄弟姉妹たちとともに育った。  繁子は実の父を知らない。服部は繁子に父のことを語らなかったが、彼女の容姿は西洋人で、美しく魅力的だった。
 やがて日本は太平洋戦争に突入する。外国人と見まがう美しい繁子に苦難の日々が訪れた。幼い頃は子供たちの好奇の的となり、成長してからは、憲兵に追究される。しかし、そうした危機が訪れるたびに、義父の笹田が献身的に守ってくれた。本文中、笹田が繁子に示した深い愛情を伝える行は、たいへん感動的である。
 やがて繁子は、服部・島田バレエ団に入団し、バレエを修得。美しいバレリーナに成長する。しかし、戦争とアメリカ軍の占領、激動する日本に生きた美貌の西洋人の風貌をした繁子には、波瀾に満ちた人生がまっていた・・・・。
 繁子が、日本で遭遇したさまざまの出来事は、クラシック・バレエが日本で出会った出来事と通底することがあるのではないだろうか。繁子の人生を通して、日本のバレエの先駆者たちが生きた現実を見ることができる。取材の行き届いた、なかなか読みごたえのある一冊である。



『ワトソン・繁子』
バレリーナ服部智恵子の娘
鈴木れいこ 著
黒沼ユリ子/解説
彩流社
定価¥1,890 (本体価格¥1,800)