荒部 好

『バレエの歴史』フランス・バレエ史

佐々木涼子/著
 やっと、日本人によって本格的なバレエの歴史が書かれたな、というのが一読後の印象。しかも女性らしい配慮のある読みやすい文章で、しかつめらしいボキャブラリーや気取った比喩的な言い回しがない。時折、加えられる軽い皮肉とユーモアのスパイスが利いていて、思わず頬がゆるむこともあり、ページも知らず知らずに進んだ。
 フランス・バレエ史と副題が付されているように、フランスに視点を据えた通史だが、この方法が「バレエ」の歴史を語る上では、やはりふさわしいのだろう。
 バレエはイタリアで発生してフランスに伝えられた、という通説が、一般的に無頓着に信じられている。古いことだからあまり目くじらをたてることもあるまい、といった風潮もあるかもしれない。しかし、筆者はバレエの発生に関する種々の研究をひもといて、フランス宮廷文化とバレエの関わりを懇切に説いている。そして、発生を詳細に検証することの中に「バレエ」の本質が非常に説得力を持って現れている。
 また、20世紀初頭のパリの文化的、風俗的環境がどのように、ディアギレフ率いるバレエ・リュスを受け入れたのか、を「バレエの殿堂」オペラ座の当時の姿と関連して論じている。ここには、バレエ芸術が確立されて世界に受け入れられていくプロセスのひとつの典型が見えていて、誠に興味深かった。
 特に、パリ・オペラ座バレエのトップ、歴代のメートル・ド・バレエあるいは舞踊監督については、近年のヌレエフ、デュポン、ル・フェーブルにいたるまで振付作品の内容や水準、主役ダンサーの特徴などが、分かりやすくかなり詳細に書かれている。その部分だけを追って読んでも「バレエ」の運命というものが実感できるかも知れない。
 21世紀に至って、ますます混沌としているともみえるバレエ芸術の将来を見通すために、確乎とした視点から述べられた明快な通史がなければ、軸を失ったピルエットのように、日本のバレエも崩壊してしまうだろう。その点この一冊は、過去と現在と未来のバレエにとって、たいへん示唆に富んでいる



『バレエの歴史』
フランス・バレエ史----宮廷バレエから20世紀まで
佐々木涼子/著
Gakken 刊
3,150円 (本体価格3,000円)