荒部 好

『バレエ読本』『バレエを志す若い人たちへ』
『わたしのバレエ遍歴』

オリガ・サフィア著
 チャコットが主催した「オリガ・サファイア展」は大好評だった。7月25日にチャコット渋谷本店で行われた、オリガの記録映画上映会およびレクチャーは超満員でもう一人も入場できないくらいの混雑ぶりであった。
 展示品は、ロシア革命以前に作られた超貴重な書籍(革張りでレリーフ付き表紙と一枚づつ手貼りのカラー挿し絵が付いたトルストイ全集、シャリアピン伝、ロシア・バレエ資料集ほか)、数々の珍しいバレエのための楽譜、バクストの手描きの衣裳画、ロシア時代の貴重な写真などなどで、みなさんたいへん熱心にご覧になっていた。

 オリガは1936年に日本に来て、当時の日劇でクラシック・バレエを教え、自身で踊り、振付けした。57年に日劇を退職してからも大森の自宅で少数の生徒にバレエを教え、81年に帰らぬ人となった。
 その間に3冊のバレエに関する本を出版しているが、それが所謂、オリガのバレエ三部作といわれた書籍である。
 まず最初に出版されたのが『バレエ読本』(50、第一版)である。ここでは、古典バレエの歴史、ロシア・バレエの歴史、アンナ・パヴロワやイサドラ・ダンカン、プティパ、ディアギレフ、フォーキン、ニジンスキーなどについての解説。日本人の特徴とバレエについて、音楽と振付、バレエの劇場についてなどが書かれている。クラシック・バレエの基本的な知識、バレエを習うにあたって知っているべき事柄を書き記しているのである。
 続いて出版されたのが『バレエを志す若いひとたちへ----あわせて、その両親の方たちへ----』(53)。この本では、バレエ志望者たちの手紙に答えたり、バレエを学ぶということはどういうことなのか、を生徒だけでなくその両親にも語りかけている。さらにバレエ学校の授業プログラムを、1年から6年までに分けて写真入りで解説している。また、教える教師の心得などもきちんと記されている。
 最後は、『私のバレエ遍歴』(82、清水威久 訳・監修)。第一部では、オリガ自身の生い立ちにまで立ち返り、最初に入学したミクロス男爵のバレエ学校から、オリガの恩師であるヴォルインスキーのバレエ学校、さらにアカデミー舞踊学校(現ワガノワ・バレエ学校)への編入について、さらには舞踊史に名を残す錚々たる同級生たちのこと。第二部では日劇時代のことを、オリガが初めて日本にもたらした「四羽の白鳥」の振付けのこと、戦争によって中断し再開したこと、日劇以外の仕事について書いている。第三部は、バレエについての追憶と断想として様々の思い出について書いている。そしてこの本は、オリガの夫君で外交官のロシア語に精通した清水威久が、愛妻が歴史的に正確な評価を受けるために、オリガの生前の言葉に基づいて書き記したものである。

 オリガの著書を読むと、とりわけ日本のバレエの問題点について書いていることなどは、まったくそのまま今日にも当てはまるところも多い。当然のことだが、単に時間が過ぎたからと言って、何かが進歩するわけではない、そんな想いにかられる。
 これらのオリガの著書は、残念ながら一般の書店で購入することはできない。また古書店の店頭に並ぶこともあまり多くはない。したがって、ご興味のある方は図書館などで読んでいただきたいと思う。







『バレエ読本』
オリガ・サフィア著

『わたしのバレエ遍歴』
オリガ・サフィア著
清水威久 訳・監修