荒部 好

『週末はバレリーナ』

大人からのバレエ推進委員会/著
 これは素晴らしい本である。もちろん、華やかな舞台で素晴らしいプロポーションの身体が夢のように美しいラインを描く、のがバレエである。しかし、広く一般のごくふつうの人々が身体の美しさを発見するのもまた、まぎれもないバレエである。
 それはバレエ自身が必ず教えてくれる。大人からのバレエ推進委員会は、何百年も掛けてサグラダ・ファミリアの大聖堂を建築しているように、過去のバレエに関った人々が積み上げてきた、バレエだけがもっている身体と美に関する叡智を、感得する知恵と感受性と謙虚さをもっているのである。というと大袈裟で、なにやら政治のプロパガンタの文句のようでガックリだが、それは私の表現が稚拙だから、ごめんなさい。

 実際、大人からバレエを始める楽しさを知ったサイトの管理人さんが中心となって結成された、「大人からのバレエ推進委員会」の動きが、今、話題のテレビドラマ『プリマダム』元になった、というではありませんか。
 まず冒頭の神田うのと小林十市との対談。
「私は体の条件とか感性はバレエ向きだったのですが、性格はバレエ向きじゃなかったみたい。練習もあまり好きじゃなかったし‥舞台は大好きだったけど」と神田。
「僕はその逆で、体型はバレエ向きじゃなかったけど、性格だけが向いていたんですよ。つらいのが好きっていうか‥。ダンサーだけど、武道家みたいなところがあって、道を見つけ、壁を乗り越えるが快感なんです。‥‥‥」と小林。
「考えられない~!‥‥‥」と神田。
 そんな風に、同じようにバレエに携わって一流になった人でも、バレエに向き合う姿勢はまったく正反対だったとは。これがバレエの懐の深さ、伝統の叡智なんじゃないでしょうか。

 バレエを学びたい人たちのQ&Aもじつにいい。質問と回答を読んでいるとまるで真剣勝負を見ているよう。
 いわく、「バレエを始めたいけど年が年だし体力に自信がない」「運動音痴、リズム音痴なのですが‥‥」「主婦なので子育てと両立できるだろうか」「仕事が忙しいのでレッスンが続けられるだろうか」「体が固かったり、O脚だったり、太っていたりと、体のコンプレックスの固まりなのですが」などなど。しかしこれは、回答者が「経験者がいうのだから」という伝家の宝刀をもっているから、勝敗は明らかだった。
 こうした会話の中に、バレエがどれほど人間を魅了するものか、そしてバレエの美とテクニックがいかに普遍的なものか。そういうことが巧まざる形で現れているのである。だからこの一冊はバレエと同じくらい素晴らしい。



『週末はバレリーナ』
大人からのバレエ推進委員会/著
健康ジャーナル社刊
1,365円  (本体価格1,300円)