荒部 好

『偉大なるバレエ教師』

G.W.ワーレン/著 里見悦郎/訳
  ここのA5判・横組で400ページにおよぶ『偉大なるバレエ教師』は、バレエ教師として25年のキャリアを持つグレッチェン・ワード・ワーレンが、著名なバレエ教師10名を取材して書いた本である。南フロリダ大学のダンス科の教授でもあるワーレンは、バレエ教師として「何が優秀なバレエ教師を育むのか」「どうしたら愛されるバレエ教師になれるか」という疑問を解決するために、この取材を思いついった。

  そしてまず、多くのバレエダンサーたちに尊敬するバレエ教師の名前をあげてもらい、その中から、言葉の問題や年齢など諸々の条件を配慮して10名を選んだ。結果、森下洋子が学んだマリカ・ベゾブラゾワを始めとして、バリシニコフ、ギエム、マラーホフなどに縁りのある、ウィリアム・クリスチャンセン、ジャニナ・クノーヴァス、ガブリエラ・ターブ-ダーバッシュ、デビッド・ハワード、ラリー・ロング、ラリサ・スクリャンスカヤ、アレクサンダー・ウルスクリアク、クリスチアーヌ・ヴォサール、アン・ウォリアムズをとりあげている。

  取材はなかなか徹底しており、それぞれのバレエ教師のプロフィールはもちろん、クラスのルポと念入りのインタビュー、教授法のルーツの詳細な図解、直接教えを受けてバレエダンサーとなった生徒への質問、簡潔なアドヴァイスの言葉などがまとめられている。また、10名のバレエ教師たちのクラス・レッスンのアンシェヌマンもバー、センター、ポワントまで細かく収録されている。

  優れたバレエ教師は、教室に入ってきただけで生徒たちのバレエへの情熱をかりたてる、といわれるが、ワーレンも教師たちのクラスの独特の雰囲気を活写しようと試みる。練達のバレエ教師たちはユーモアをまじえ、煌めくアフォリズムを語る。教師はダンスのテクニックを磨くだけでなく、芸術家として目覚めさせ、ダンサーであるかぎり舞台に立つことへの情熱を燃やし続けさせなければならない。ダンサーの人生は、たえず挫折し行き詰まる。その時こそ、これら教師たちの愛情に満ちた言葉が役にたつに違いない。

  どこを開いても、バレエを習う人、教える人にとって有益な一冊であるし、経験豊かな教師たちのキャリアには、舞踊史を彩ったさまざまのスターの名前もたびたび登場し、興味深いエピソードも挿入
されており、読み物としてもおもしろい。
  ただ一言、苦言が許されるとすれば、人名の表記はなるべく一般的に使われているものにしてもらいたい、と思った。



『偉大なるバレエ教師』 20世紀を代表する10人
G.W.ワーレン/著 里見悦郎/訳
大修館書店 3,800円