(荒部 好)

『牧神----或は 東 勇作----』

東 勇作 同門会 編
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日本のバレエの先駆者、東勇作に関する本『牧神---或は 東 勇作---- 』(私家版)が刊行された。
東勇作は、日本ではまだバレエというものがどのようなものか、一般には知られていない頃からバレエダンサーを志した。バレエにとって極めて乏しい環境の中で苦労して情報を集め、大変な努力によって、バレエの上演に漕ぎ着けた。
特に良く知られているのは、『ジゼル』を上演しようと思って手を尽くしても楽譜を入手することができず、種々調べたうえで、ショパンのピアノ曲を自ら編成し、第2幕を『ジゼル幻想』として上演した、というエピソードである。
実際、東勇作と交流の深かったやはり日本のバレエの先達の一人、蘆原英了は本書に掲載されている弔辞の中で、<君が一度も見たことのない外国の名作バレエを振付ける時、それがまったく原作を見るように振付けられていたのには、僕は何時も驚嘆していた。君が戦前、「ジゼル」や「レ・シルフィード」や「薔薇の精」「牧神の午后」などを振付けたのを見た時、よく原作の味を生かし、しかも馥郁たる香りまでただよわせていたのには舌をまいたものである。>と述べて、その死を惜しんでいる。

東勇作は、エリアナ・パヴロワの内弟子(住み込みの弟子)となって、初めてバレエの舞台に立った。橘秋子は、やはりパヴロワの内弟子として七里ケ浜のスタジオで<同じ釜のご飯を食べた>が、<東さんは「ポプチカ」という愛称で皆さんに親しまれておりました。世話好きで親切でしたからエリアナ先生からも愛されておりました。>と、東勇作舞踊生活40周年記念公演のプログラムで振り返っている。こうした人柄の魅力は、厳しく訓練を積んだ見事な舞台写真の背後からも感じとることができる。
その後は、益田隆、梅園龍子とともに益田トリオなどで活躍。さらに日劇で、オリガ・サファイアの相手役を務めた。ここで松尾明美、松山樹子と踊り、後に二人とも東勇作のバレエ団の主要メンバーとなった。

この本では舞踊家、東勇作の活動は、薄井憲二の回想とともに資料編として、東博子が精緻に整えている。年表はもちろんだが、ポスターやプログラムの再録、同時代に活躍した舞踊家たちのコメント、そしてなによりも東勇作の素敵な舞台写真がふんだんに掲載されている。さらに東勇作自身が踊る(声も聞くことができる)、モンテヴェルディの『オルフェオとエウリディーチェ』他の映像を収録したDVDが付いている。東勇作とその舞踊を知るためには、私家版としては破格の至れり尽くせりの贅沢な一冊である。

晩年はあまり恵まれなかった東勇作の入院治療に至るまでにすべてに尽くしたのは、一時は活動を別にしていた松山樹子だったという。窮地に陥っていた東勇作は、松山バレエ団の教師となって糊口を凌いだ。そして清水哲太郎に『牧神の午後』を指導し、1969年には定期公演で上演されているのである。

『牧神----或は 東 勇作---』
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