(荒部 好)

『ショパンとヴァルス』Chopin et la valse

平林正司/著
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『「胡桃割り人形」論』、『十九世紀フランス・バレエの台本』の著者、平林正司の「汲めども汲めども涸れぬ夢想の泉」であるショパンの『ヴァルス』嬰ハ短調、作品六四ノ二への讃美の思いから書かれた一冊である。
(ヴァルスは)「近代ヨーロッパ文明の産物であって、歴史がショパンとヴァルスの邂逅をもたらした」という視点から、全体は第1部「ヴァルスの諸相」、第2部「ショパンとヴァルス」という構成になっている。
第1部では、フランスの詩、舞踏、舞曲、音楽劇、演奏会用としてのヴァルスを論じており、ルネッサンスの古代ギリシャの理念の復興と中世の民衆の娯楽という両面から、ヴァルスの歴史的変遷を明らかにしている。第2部では、民族性と普遍性、喜悦と悲哀、ショパンとサロン、ショパンのヴァルス、『ヴァルス』嬰ハ短調、といった章を設けてショパン論を展開し、通説への批判も試みている。
例えば第二章の「舞踏としてのヴァルス」では、アラベスクというパが絵画やほかの芸術とも関連して解説されているが、ヴァルスという文明の所産が美学によってバレエとも深く関わっていることが理解できる。
ヴァルスについては、その言葉がドイツ語、フランス語、英語、イタリア語そして日本語、それぞれに意味合いがあるということを知るだけでも意味があるだろう。
しばしば音楽の専門用語が使われるので、私のような無知な人間には読む努力が必要となるが、通説に煩わされぬ精緻な論が展開されている。濃密な内容を持った一冊である。

慶応義塾大学出版会
定価(本体3,800円+税)