(森 瑠依子)

『バレエ物語集 あこがれの代表作10』

ジェラルディン・マコックラン 著
井辻朱美 訳 ひらいたかこ 絵
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2016年もとうとう12月。劇場では様々なバレエ団による『くるみ割り人形』の公演が始まっている。そしてクリスマスを前に、本屋の店頭でも子供たちへのプレゼントにぴったりの『くるみ割り人形』の絵本は人気。今月ご紹介するのは、その『くるみ割り人形』も含まれる『バレエ物語集 あこがれの代表作10』だ。有名なバレエ10作――白鳥の湖/コッペリア/ジゼル/シンデレラ/ラ・シルフィード/くるみわり人形/ロメオとジュリエット/火の鳥/ペトルーシュカ/眠れる森の美女――の物語がつづられている。作者のジェラルディン・マコックランはイギリスの児童文学作家で、『不思議を売る男』(1988年)でカーネギー賞とガーディアン賞というイギリスの権威ある児童文学賞を受賞した実力派だ。

この10作はペロー童話やシェークスピア作品など有名な物語に基づくものばかりだが、マコックランは原作ではなくバレエの一般的なあらすじを土台にして、自らの物語を書き上げた。バレエでは語られない部分の説明を加えたり、登場人物の心理を細かく描いたりしているため、ストーリーが生き生きと、深みをもって伝わってくる。

その中から印象に残った物語を2つあげると、まず『ジゼル』。バレエの第1幕は省かれ、第2幕のウィリーとなったジゼルが墓の中から出てくるところから始まる。ジゼル、ミルタ、ヒラリオン、アルブレヒトそれぞれの真摯な思い、激しい感情が丁寧に描写されており、命がけでアルブレヒトを守るジゼルのけなげさが心に残る。

『ペトルーシュカ』の原作はディアギレフのバレエ・リュスのために作られたオリジナルの物語。主人公のペトルーシュカはロシアの伝統的な人形芝居のキャラクターで、バレエでは魂をもった道化の人形として描かれる。マコックランは現実と幻想が入り交じったこの物語に〈人生劇場〉で役者が演じる芝居という独自の設定を採り入れた。読者は〈人生劇場〉の客席に座って舞台を鑑賞しているような気持ちで、3体の人形たちの間で起こった悲劇をはらはらしながら見守ることになる。

本書はカテゴリーとしては児童文学に入るが、バレエ初心者から公演のあらすじを読み飽きてしまったバレエ・ファンまで、大人にもお勧めしたい、バレエをもっと好きになれる一冊だ。

『バレエ物語集 あこがれの代表作10』
偕成社
定価:本体1400円(税別)