(関口 紘一)

『偉大なるダンサーたち』〜パヴロワ、ニジンスキーからギエム、熊川への系譜〜

ジェラール・マノニ 著 神奈川夏子 訳

20世紀の偉大なダンサー53人を論じたジェラール・マノニの『偉大なるダンサーたち』の日本語訳が刊行された。
ジェラール・マノニは、1980年代には「コチジアン・ド・パリ」と言う日刊紙でオペラと舞踊の評を書いていたが、この新聞が廃刊になったため、現在は主としてネットに執筆している。当時パリでは、ヌーヴェル・ダンスの花が咲き競っていた頃であり、バレエ雑誌「セゾン・ド・ラ・ダンス」のアンドレ・フィリップ・エルサンや女流批評家マルセル・ミッシェルなどがダンス評論をリードしていた。彼らの中でマノニはどちらかといえば舞踊史に関心を持ち、着実にクラシック・バレエを中心に論評を展開していた。私は当時ダンスマガジンの編集長だったこともあり、マノニにパリ・オペラ座バレエ団などの評論を執筆してもらっていた。特にオペラ座のダンサーは、フランス人でしかなかなか知り得ない情報があるので、その意味では助けてもらった記憶がある。

1503book.jpg

さて、マノニによる20世紀の『偉大なるダンサーたち』には、53人の舞踊史上に名高いダンサーがピックアップされている。マノニも序文で縷々述べているように、一冊の書籍の中に採り上げるダンサーの取捨選択は、それぞれのキャリアが違う中で決めなければならず、なかなかたいへんな仕事だったであろう。
瞥見したところで言うと、例えばマティルダ・クシェシンスカヤとかウラジーミル・マラーホフが選ばれていないことは多少の不満を感じるが、概ね妥当な選択だろうと思われる。マノニの舞踊に関する執筆活動は40年のキャリアがあるというが、彼が舞台を観ることが叶わなかった20世紀初頭に活躍したダンサーは、ロシア人でパリのソルボンヌ大学で教えた著名な舞踊評論家アンドレ・ルヴァンソンやパリ・オペラ座バレエの芸術監督を長く務めたセルジュ・リファールなどが、著作の中に残した批評を頼りに選出したと思われる。それは彼らの文章の本文中への引用の多さからも推測できる。
一番最初に採り上げられているのは、オペラ座で多くの作品を踊ったカルロッタ・ザンベリで1875年生まれ。最も若いのは、1979年生まれのスヴェトラーナ・ザハロワ。その間、およそ100年である。日本人の舞踊家では、大野一雄と熊川哲也の付二人が名を連ねている。ダンサーとしての偉大さと影響力の大きさから言って妥当な選択だろう。
ダンサーの紹介内容は、だいたい同様のスタイルで書かれている。それぞれのダンサーとしての偉大さを紹介し、代表作とダンサーとしての特徴、クリエーター(振付家)がそのダンサーを評する文章の引用などで構成されている。これまでにはあまり公にされていなかったこと----たとえばバリシニコフに4人も子どもがいるとか----も散見されて、なかなか興味深い。しかし、やはり偉大なダンサーのカタログであるからやむを得ないのだが、賞讃の言葉ばかりを読んでいると、いささか辛口の言葉も読みたくなってくるものである。
巻末には、この本に登場した偉大なダンサーたちの踊りを垣間見ることができる、DVDなどの映像リストが付されている。

『偉大なるダンサーたち』〜パヴロワ、ニジンスキーからギエム、熊川への系譜〜
ジェラール・マノニ 著 神奈川夏子 訳


株式会社ヤマハミュージックメディア 刊
本体+税2,500円