(荒部 好)

『バランシン・テクニック』BALANCHINE TECHNIQUE

スキ・ショーラー 著 上野房子/里見悦郎 訳

この『バランシン・テクニック』という本は、著者も文中で述べているように単なるバレエ・テクニックの解説書ではない。リンカーン・カースティンの要望に応えて、新大陸アメリカにバレエ芸術を創設しようとしたバランシンの極く身近で、いわば同志にも似た強い意欲を燃やした著者の人生を凝縮している1冊である。

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著者、スキ・ショーラーは、1959年、サンフランシスコ・バレエ団のメンバーとして既にソリスト級の役がつき始めていた。にもかかわらず、「私もあのように迅速に、ゆったりと、華麗に、明瞭に、美しく踊ることを切望し」て、バランシンが主導するニュ−ヨーク・シティ・バレエ団(NYCB)にコール・ド・バレエの一員として加わった。当時、最も感銘を受けたのは『コンチェルト・バロッコ』と『セレナーデ』だった、という。
以後、常にバランシンとともにあって、レパートリーを踊り、やがてクラスを教え、NYCBの付属バレエ学校であるスクール・オブ・アメリカン・バレエの教師となり、NYCBの外部のスクールで教えるレクチャー・デモンストレーションの責任者を23年間に渡って務めた。
そのため随所に散りばめられている有名なバランシンの金言というか、常に独特のユーモアを香らせたアフォリズムは、それが生まれた状況をふまえて語られるので、彼の教養や気質、美意識、人間性を活き活きと感じさせる。彼のひとつひとつのテクニックは、バランシンという偉大な山の一部であって、決して切り離して取り扱われるべきものではないのだ。
たとえば練習用のウエアについて、ポワントシューズについて、クラスではどのように音楽に向き合うべきか・・・バレエに関するありとあらゆる事象が深い洞察と豊かな経験をともなった箴言によって語られている。バランシンはその手の大仰な表現は決して認めなかったかも知れないが、そこにはまぎれもなく、バレエ芸術の思想が脈々と息づいているのである。つまりこの本は自ずと、テクニックを手がかりとして、「バランシン・バレエ」という小宇宙を集成しようと試みているのである。

構成は、序章から第6章まで全7章に分けられている。順番に項目を挙げると、「バランシン・テクニックを学ぶ心構え」「バーレッスン」「上半身」「ポワントワークとルルベ」「ジャンプ」「パートナリング」となっている。章にまとめられたそれぞれのテクニックについては、プレパレーションに至る際の気持ちの持ち方から非常に細部に渡って解説され、バランシン・テクニックの特性のディテールが理解されやすくなっている。さらにひとつひとつの項目には、注意点が箇条書きにまとめられているのでたいへん明快明瞭である。
邦訳の本文はA4判に横組で460ページにおよぶが、ダーシー・キスラーとニコライ・ヒュッぺ、ウェンディ・ウィーランとジョック・ソトのパートナリングと、ピーター・ポール、ダナ・ハンソン、ディアンナ・マクブレァティのモデル写真が、難しいテクニック理解に一役買っている。

『バランシン・テクニック』BALANCHINE TECHNIQUE
スキ・ショーラー 著
上野房子/里見悦郎 訳

大修館書店 刊
定価 本体7,800円+税