(荒部 好)

『二十世紀の10大バレエダンサー』

村山久美子 著

タイトルの通り、20世紀を代表する10人のバレエダンサーを評した一冊だが、それに加えて別の1章を設けて国際的にも活躍した日本人バレエダンサー3名についても語っている。
そろそろ21世紀の舞踊がその相貌を表わそうとしている今日、20世紀の10大バレエダンサーを選ぶのは、なかなか困難なことは明らかだ。実際、著者も20世紀の10大バレエダンサーを選定することは難しかった、と述べている。そこで著者は、長年にわたって舞台を見続けてきたこと、研究や舞台評などの執筆活動で得た「自分の目」に基づいて選択した、という。

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その結果、ウリヤーナ・ロパートキナ、ウラジミール・マラーホフ、シルヴィ・ギエム、ファルーフ・ルジマートフ、ミハイル・バリシニコフ、ジョルジュ・ドン、ルドルフ・ヌレエフ、マイヤ・プリセツカヤ、ガリーナ・ウラーノワ、ワツラフ・ニジンスキーが20世紀の10大バレエダンサーとして選ばれた。.さらに別枠で森下洋子、吉田都、熊川哲也が加えられている。おそらくこの10人+3人の中で著者が実際の舞台を観ることが叶わなかったのは、ガリーナ・ウラーノワとワツラフ・ニジンスキーだろう。
ニジンスキーは例え映像が残っていなくても、天才の証拠は多く残されているから選ばれるのは当然だが、ウラーノワが入ってアンナ・パヴロワやマーゴ・フォンテーンがどうして外れているのだろうか、と疑問に感じる人はあるいはいるかもしれない。
しかし、そこにこの一冊の特徴がはっきり表れている。旧ソ連時代のバレエについてはたいへん情報が少なく、一種の空白地帯になっているし、おそらく世界的にみても正当な評価はなされていない。
クラシック・バレエは19世紀のロシアでほぼ極点まで花開いたが、20世紀初頭のロシア革命によって一転して絶滅の危機に瀕した。ところがまさにその時に、崩壊した時代の文化を継承して、ワガノワ・メソッドという最も優れたバレエ教育のシステムが生まれた。そしてそこからウラーノワという一輪の名花が巣立ったことにより、もちろんそれだけが要因ではないが、クラシック・バレエは新しい時代に生き延びることができたばかりでなく、今日の隆盛の礎を築いたのだ。
著者は豊富なロシア・バレエの知識に基づいて、ガリーナ・ウラーノワの芸術の素晴らしさだけでなく、舞踊史上の重要性をも配慮しているのである。
そして10人の偉大なバレエダンサーは、女性らしい優しさを秘めた目により、その人物と芸術が紹介されている。とりわけマラーホフやバリシニコフは幼い頃受けた名教師の教えや、彼らの言葉などを混じえながら描かれ、その少年時代を彷彿させる。さらにロパートキナの高度の技術に裏打ちされた芸術の分析は優れており,20世紀のバレエの一つの理想を巧まずして語っている。

『二十世紀の10大バレエダンサー』
村山久美子 著
東京堂出版
本体2,400円+税