(荒部 好)

『小森敏とパリの日本人----近代日本舞踊の国際交流----』

茂木秀夫 著

『小森敏とパリの日本人』は近年刊行されたこうした研究書のなかでは、たいへんに広い視野をもって論じられている。バレエ、モダンダンス、日本舞踊、レビュー、オペラや東西の音楽、演劇、美術、評論、俳句など広範囲に渡って目が届いているし、海外も今まで取り上げれることの少なかったイタリア未来派やスペインのアーティストについても触れている。
主として日本の舞踊を中心とした芸術と西洋の芸術との関わり合いを論じているが、1917年から36年まで日本を離れ、アメリカから渡ったパリを拠点として舞踊家として活動した小森敏が、その軸となっている。小森敏の資料は少ないが、声楽家志望から舞踊家となり、オペラ、バレエ、リトミックを学び、日本舞踊も採り入れた舞台を創ってかなり長期間、パリの観客と勝負したことから現れた表象に着目している。

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小森敏は、帝劇歌劇部第一期生として石井漠らとあるいは三浦環、山田耕筰、小山内薫らとも交流があり、日本の舞踊や演劇、オペラなどの成立を目指す先進的な運動とも関わっている。また、パリでは自身で生きて行くためにも舞台活動を行い、来仏した多くの日本人とも関わり、世話もしている。そしてその背景には、ヨーロッパで隆盛だったジャポニズムの流れがある。
こうした観点から小森敏を追っていくと確かに、パリでの日本人同士の意外な繋がりや思いがけない日本文化の捉えられ方、それがどのようなところから生まれたのか、といったじつに様々な事柄が現れてきて興味は尽きない。
小森敏は種々の舞台活動を行っており、多くは日本的素材を扱った舞踊だったようだが、そのうちの一番のヒット作は『浦島』だった。これが坪内逍遥が新しい楽劇を創造する試みた『新曲浦島』とどのように関連があったのか、と言う点も著者の問題意識のひとつとなっている。
資料が少ないためになかなか確定できないこともあり著者自身も歯がゆい想いをされたのではないかと想像するが、こうした分野では博覧強記といえるパワーを駆使して、広範囲の資料を集成した快著である。

『小森敏とパリの日本人----近代日本舞踊の国際交流----』
茂木秀夫 著
創栄出版 発行
星雲社 発売
定価2,000円(本体1,905円+税)