(荒部 好)

『帝劇ワンダーランド』/『音楽の殿堂』

『帝劇ワンダーランド』発行・監修:東宝株式会社演劇部
『音楽の殿堂』編:東京新聞

東京を代表する劇場、帝国劇場と東京文化会館が100周年と50周年のアニヴァーサリーを迎え、記してふりかえる書籍が刊行されたのでご紹介しよう。

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『帝劇ワンダーランド』
帝国劇場開場100周年記念読本

『帝劇ワンダーランド』は今年創立100周年を迎えた帝国劇場の歴史とこの壮大な劇場空間のすべてを紹介した一冊。
帝国劇場は1911年(明治44年)に、世界の一流国の仲間入りをするためには西欧諸国並みのオペラハウスを作って国賓を接待しなければならい、という使命感の下に、伊藤博文や渋沢栄一によって建設された日本最初の近代的劇場だった。横河民輔が設計を担当した外観の斬新さばかりでなく、当時は芝居茶屋などが座席や食事などを仕切っていたのだが、それを現在のように指定席として一般に売り出し、電話や書面でもチケットを注文できるようにした。あるいは貞奴がコンセルヴァトワールをモデルに設立した帝国女優養成所を吸収して当時珍しかった女優劇を上演するなど、まさに新時代の劇場だった。
そしてV・ローシーを招聘してオペラ、バレエの上演を目指したことから、石井漠、伊藤道郎などの日本のダンスの草創期の優れた人材が生まれ、アンナ・パヴロワや梅蘭芳、ラ・アルヘンティーナなどのアーティストが帝劇の舞台で踊って、日本のバレエ、ダンスの歴史が幕を開けた・・・まず、こうした日本が受容してきた新しい舞踊の黎明を告げた歴史の記録が、この『帝劇ワンダーランド』から華やかな写真とともに垣間見ることができる。
さらに日本のミュージカルの歴史は、この劇場で刻まれてきた、といっても過言ではないほど、重要な国民的作品が綺羅星のように輝くスターたちのコメントとともに紹介されている。
古くは松井須磨子が歌って「カチューシャの歌」が大ヒットしたトルストイの『復活』、世界的に評価された朝鮮舞踊の崔承喜のリサイタルも開かれたし、日本で最初に『白鳥の湖』の全幕バレエを東京バレエ団が上演、『風と共に去りぬ』『屋根の上のヴァイオリン弾き』『ラ・マンチャの男』『レ・ミゼラブル』『エリザベート』などなどタイトルを挙げていけば数えきれない。
またその舞台を彩ったのは、三浦環から益田太郎冠者、歌舞伎界の重鎮、宝塚歌劇のスター、越路吹雪、菊田一夫、山田五十鈴、山本富士子、美空ひばり、森光子、浜木綿子、佐久間良子、森繁久彌、鳳蘭、大地真央、蜷川幸雄、山口裕一郎、そして堂本光一、滝沢秀明、亀梨和也という若い三大エンタティナーまで、こちらも名前を挙げていけばきりがない。
つまり、日本の舞台芸術に関心をもっている人がこの本が作っている<ワンダーランド>に入っていくと、なかなか出てくることが難しい、そんな一冊といえるだろう。100年間の上演演目の年表と瀬奈じゅんと井上芳雄が案内する「帝劇ナビ」のDVDが付いている。

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『音楽の殿堂』響きあう感動50年
東京文化会館ものがたり


もう30年もバレエを見続けてきているが公演会場を確認するたびに、それが東京文化会館だと分かると、やはりほっとする。ほとんどどこから観ても舞台はよく見えるし、なにより音が良く響いて照明も映え、バレエの動きの美しさを心から楽しむことができる。
今日では驚くほど立派なホールが各地に造られていて無神経なブラボーが乱発されたりすることもあるが、やはり、公演会場としての東京文化会館の安心感は、フォワイエの広さ、天井の高さなどを含めてすべてに群を抜いている。

東京文化会館は1961年にオープンしたが、それは言うまでもなく60年安保の翌年であり、3年後に東京オリンピックを控えた高度成長時代のスタートを切った時期だった。
その以前は、世界の一流の音楽家が来日すると多くは日比谷公会堂を使っていた。しかしここは演説会場用につくられた場所であり、今では想像するのも難しいくらいだが、充分に設備の整ったコンサートホールは首都東京といわず全国にも皆無だった。
1952年に東京商工会議所会頭の藤山愛一郎から「コンサートホールの建設に関する意見書」が東京都知事に出された。その後、紆余曲折はあったが、1956年が太田道灌の江戸城を築城以来500年に当たることから、開都500年記念事業となり予算がついて建設が一段と進むことになった。
設計に当たったのは、ル・コルビジェの高弟、前川國男だった。その後、オペラ、バレエも上演可能なホールという使用上の趣旨、上野駅の電車の音とどのような距離をとるか、その他の数々の難問をクリアして1961年4月7日のオープンに漕ぎ着けた。
『音楽の殿堂』東京文化会館ものがたりは、まず、そうしたプロセスを辿った設立のエピソードを、第1部「音楽の殿堂を造った人々」として貴重な写真とともに紹介している。
第2部「東京文化会館と私」では、この会場にまつわる思い出を、中村紘子を始め小林道夫、外山雄三、海野義雄、堤剛、宮本文昭ほかの音楽家たちが語り、バレエ界からは牧阿佐美、谷桃子、石井清子、森下洋子、熊川哲也ほかが登場している。
また、マリエッラ・デヴィーア、ウラジミール・アシュケナージ、ワレリー・ゲルギエフなどから祝福のメッセージが寄せられていることも目を惹く。
第3部「時代を超えて」は、大賀典雄、遠山一行の新旧館長の言葉や音楽資料室などの事業の案内、そして1961年から昨年までの主要公演記録が掲載されている。
巻頭の30ページ以上にわたって掲げられた「名演奏家たちの瞬間(とき)」と題されたカラー・グラビアを繰っていくと、印象深いステージを残したアーティストたちの姿が、まるで昨夜のことだったかのように甦って感慨深いものがある。

『帝劇ワンダーランド』
帝国劇場開場100周年記念読本

発行・監修:東宝株式会社演劇部
発売・企画:ぴあ株式会社
定価:本体2,190円+税

『音楽の殿堂』響きあう感動50年
東京文化会館ものがたり

編:東京新聞
発行:東京新聞
定価:本体524円+税