荒部 好

『ダンスは国家と踊る----フランス コンテンポラリー・ダンスの系譜』

アニエス・イズリーヌ 著 / 岩下綾・松澤慶信 訳
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『ダンスは国家と踊る----フランス コンテンポラリー・ダンスの系譜』は、17世紀には「踊る太陽」ルイ14世を頂いたフランスのダンスの概念を本格的に論じている。著者はフランスのダンス雑誌「Danser」の編集長アニエス・イズリーヌ。

まず、ルネッサンス期、カトリーヌ・ド・メディシスから説き起こし、ルイ14世時代のクラシック・バレエの誕生、ロマン主義などのダンスの政治史的側面が論じられる。
そして20世紀ドイツの表現主義舞踊とアメリカのモダン・ダンスの起源が紹介され、コンテンポラリー・ダンスへの発展過程に至って、マース・カニングハムとピナ・バウシュによるダンスの革新が語られる。
さらに一世を風靡したフランスのヌーヴェル・ダンスと国家の文化政策の、非常に興味深い関係----国家がダンスを利用し、ダンスは国家を利用した----が明らかにされる。
最後には、現在のコンテンポラリー・ダンスが個々に渡って分析され、ダンスの今後にについての考察が行われている。

この一冊のハイライトは、マース・カニングハムによるダンスの「コペルヌクス的転回」を説明し、それにピナ・バウシュが「予想外の方法」で合流した、と言う点を論じた部分である。その際のポストモダン・ダンスの位置づけも説得力がある。このことは今日のダンスの歴史をある程度、進化の過程として捉えるとするならば、最も重要な、欠くべからざる視座だろう。
90年代に次々と来日して日本のダンスにも大きな影響を与えた「ヌーヴェル・ダンス」(今では懐かしい数々の名前に再会した)が、フランスのどのような文化政策によって生成したのか、といったこともよく理解できる。また、最近では来日するコンテンポラリー・ダンスはほとんどベルギー・ダンスばかり、といった現象まで生んだそれぞれの振付家についても分析がなされている。
翻訳に関わる言葉の多少の読みにくさもあるが、21世紀からの視点により、これだけ明快にコンテンポラリー・ダンスの全貌を描き出した本はこの一冊に尽きるだろう。
巻末の人名解説もだが、とりわけフランスのダンス年表は有用である。

『ダンスは国家と踊る----フランス コンテンポラリー・ダンスの系譜』
アニエス・イズリーヌ 著 岩下綾・松澤慶信 訳
慶応義塾大学出版会
定価2,800円+税