【第49回】逆立ちで引き上げる - エクササイズ-

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

普段クラスを教えている中で生徒のみなさんから寄せられる質問をヒントに、どうやったらうまく身体を使えるのか、どうしたら使い方をイメージできるのか、現役ダンサーの藤野先生ならではの視点で解説します。

体中のどの部分にとっても、この地球上で生きている限り、重力で引き下げられていて「引き上げる」という感覚を知らない限り、肉も皮も骨も長い年月を掛けて沈んでいきます。「引き上げる」という行為を「沈まないための抵抗力」と考えてみてはいかがでしょう。

例えば、ソフトクリームを持っていて、しばらくすると溶け始めて形が崩れ、溶け出したものは下へ下へと流れ落ちてきます。仕方ないですよね。このソフトクリームを元の形に戻したいとして、慌てて手で搔き上げてみても、うまくいかないのが想像できると思います。
「元のお山のような形に戻す」という条件を満たす手段としては、「ソフトクリームを逆さまにする」という方法があります。話の流れが見えてきましたでしょうか?

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天井にならえ

まずは仰向けになって、両腕を天井に向かって「前にならえ」にしてみましょう。中指の先へと向かって、腕をまっすぐに。地面から垂直に。しばらくじっとしていると、手首から肩口へと、まるで長袖がずり落ちてくるように「骨を取り巻く肉や皮が」ゆっくりズルズルと垂れてくる感じがすると思います。これを「自然な筋膜の動き」として、その感覚を覚えてみてください。
そこで腕が下がってきてしまうと「ただ落ちる」ということになります。最初に設定した「前にならえ」の腕の高さを全く変えずに、深呼吸を繰り返しながら「感じてみてください」。
肉や皮を「骨を取り巻くハチミツ」だとしたら、天井に向かってゆっくりと「骨をズボーッと抜き取る」という意識を入れてみましょう。

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脚もならえ

同じ仰向けで、今度は両脚を上げます。慣れてきたら写真のように脚をまっすぐ伸ばすと良いですが、無理な力を抜くためのエクササイズですから、「膝を曲げる」「壁に脚を掛ける」などのオプションも紹介します。
太ももの骨を垂直にすることに意識を向けて。膝が天井、骨盤背部が床に当たっているところを意識してみましょう。骨を動かさないようにしばらくじっとしていると、これも腕と同じく肉や皮が「垂れ落ちてくる」感じがします。
その状態でいることに落ち着いてきたら、足の裏に意識を向けて。そうっと足の裏を天井に向けたり、壁に向けたりするという感覚を入れてみてください。脚全体がじんわり伸びていくような気がしませんか?

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そしてチャレンジできそうであれば逆立ちしてみてください。
僕が思う、引き上げの感覚のための、最高のエクササイズです。
しばらくじっと動きを止めて。肉や皮がドローリとハチミツのように垂れてくる感覚を味わいながら。先ほどは足の裏と言いましたが「普段は下を向いている。下に位置している骨」を、天井に向けている意識を入れてみましょう。例えばお尻だったら坐骨や尾底骨。背骨だったら腰の辺りの腰椎。肋骨の一番下の段など試してみましょう。

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逆立ちで得た「垂れ落ちてくる筋膜の流れ」を覚えて、普段の立ち方に戻った時に「鯉の滝登り」ではないですが、骨はそこにいるのに、筋膜はゆっくりと「逆流して登ってくる」という感覚を試してみましょう。

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Check
>>> 【第49回】筋膜の流れのように〜潜在意識の開花〜

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。
●藤野富村バレエアート代表
https://www.fujinotomimuraballet.com

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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