【第49回】筋膜の流れのように〜潜在意識の開花〜

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

普段クラスを教えている中で生徒のみなさんから寄せられる質問をヒントに、どうやったらうまく身体を使えるのか、どうしたら使い方をイメージできるのか、現役ダンサーの藤野先生ならではの視点で解説します。

筋膜とは?

最近ではフィットネスでも本屋さんでも「筋膜」というワードをよく見たり聞いたりしますが、多くの人が「筋膜って何?」か分かってはいないと思います。簡単に説明すると「体内にあるものがその形を成すために、表面を覆っている膜」ということ。例えばソーセージは腸にミンチ肉を詰めるからソーセージの形になる。粉薬はオブラートに包むから形になる。ただの水もポリ袋に入れれば形にとどまる。それらの表面膜があるから形になって、なければ流れて無くなってしまう。
要するに「筋膜」とは、体内外に存在する「境界線」であり、知ることで、感じることで「動きのある場所」「動きの性質」「存在感」「存在意義」を示す部分と言えます。
とってもとっても難しいお話です。今回の「筋膜のテーマ」が、皆さまにとって「新しい自分の発見」になることを祈ります。

体内編

どこの筋肉をどうしろ、というお話ではありません。
体内にははっきりとした形、個体にとどまる硬質性の「骨」があり、条件により形を変える、軟質性の「筋肉、内臓等」があります。そこには「骨膜と筋膜」という境界線があり、体内で「動きの発生するポイント」として最も感じやすい箇所であります。
実際に動かして感じてみましょう。
片腕を上下させて腕っぷしをじっくり感じてみると、「動き」として捉えられるのは骨の表面であり、筋肉や血管の存在を捉えるのは難しい。骨盤を左右に、ふるいにかけるようにシェイクダンスしてみると、骨盤の外表面からお尻や脚の筋肉で押す感じや、骨盤の内表面で揺れる内臓部が「触れる感じ」がするのは、骨盤の骨の外殻。肋骨をクネクネさせてみると、肋骨の外壁面から骨を掴んで動かす感じと、内壁面で肺をウネウネさせる感じの違い。それでも肋骨の「骨膜」と肺の外殻=「筋膜」擦れ合う感じを捉えることができても、肺の中心辺りを感じることはできないはずです。

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奥まった筋肉や内臓は、感覚があまりないとはいえ「何もない」訳ではないので、形を「創造して」動かすことで、徐々に「思い通りの形、動き」へと成長していきます。
動きを感じてその質を吟味するには、まずは「集中して、意識すること」が大事。
普段、なかなか感じることのない部位で、いくつかのイメージパターンを紹介します。

骨とハチミツ

棒状の骨にハチミツを絡めてしばらく放置すると、ハチミツはゆっくりドローリと垂れて流れていきます。基本的に重力に引かれて、上のものから下のものへ。この流れが筋肉の進行方向や、動きのクオリティーの感覚になります。自然に流れるのを受け入れるか?流れをピタリと塞き止めるか?流れを逆流させるか?条件によって「締める、開く」「伸びる、縮む」など大きな変化となります。
二の腕と裏ももで感じてみましょう。直立して自然に流れ落ちる時と、腕脚を上げてしまい、関節の上下関係が逆転した時に出る「ハチミツの自然な流れ」を比較してみましょう。

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輪ゴムの引っ張り

手をパーにして見てみましょう。手首から指の分かれ目まで、手のひら内には「扇子の骨組み」のように、枝分かれした指の骨が入っています。それら一本一本の隙間に「輪ゴム一本ずつ」が張ってあるとして、均等にゴムを引っ張るようにパーにしてみましょう。それが全身にとっての「伸張、伸びる力」の目安となります。
手をパーにして「ゴムを張っている感覚」を保ったまま、下の写真のように「上腕と下腕」、「脇下と二の腕」の角度を、指の隙間と同じくらいのVの字に保ち、輪ゴム一本を引っ張る程度の力をキープする。指と腕と胴体の「張り具合を均一にする」意識を入れてみましょう。
足のゆびの隙間も同じようにイメージして、左右の内ももの間も同じように張れるか意識してみましょう。

指腕胴体のVの字1.jpg

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重ねたページの分厚い本

足の裏を感じてみましょう。裸足で立って、床に割と近く触れる感じがするのはゆび先、ゆびの付け根、踵の骨で、あとは分厚い肉や皮で覆われていて、地面に届かない感じがします。
足底部の骨で、土踏まずの筋肉を「踏んづけている」と考えてみましょう。デュミポイント(ヒール足)にゆっくり起こしてみて、土踏まずの動きを意識します。
一枚の瓦(かわら)をめくる感じはどうでしょう?単調で偏った動きが目立ちます。
一枚のプリント用紙をめくる感じはどうでしょう?まるで力が入っていない、ペランとした感じ。
何十ページもある、分厚い電話帳をめくる感じはどうでしょう?
ページ同士の摩擦の具合や、ページ同士がスライドする感覚もイメージしてみましょう。

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「集中して自分の体を感じる」ということは、一見「行動=アクション」として捉えられない人もいて「何もしていない」と認識してしまう。動きの性質が単調なものになってしまい、何を踊っても同じに見えてしまう。音楽の場合、全く同じ曲でも違う奏者によって、演奏の仕方や曲調は、全く異なってくる。体を使った演奏のバレエも、曲調の強さ弱さのみならず、様々な想像によって動きを生み出しましょう。

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バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。
●藤野富村バレエアート代表
https://www.fujinotomimuraballet.com

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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