【第34回】 大きな筋肉は大らかに~大殿筋の本領~

アルデンテお尻で「表ふっくら中しっかり」などの表現で、大殿筋などの表面の強い筋肉(表層筋)には「あまり力を入れない」とお伝えしてきました。それから生徒さんに「力を入れてはいけないのですか?」とよく質問を受けます。筋肉の力、働きなくしては体は動かないので、「全く力を入れない、脱力状態ではない」という答えになりますが、かなり曖昧で理解できない方が多いと思います。
今回は大殿筋などの「大きな筋肉の使い方」のイメージをお話します。

「大きな筋肉の使い方」「力と動きの違い」

筋力があるかないかという判断を「そこに強そうな筋肉がついているか?」「とある動きの時にそこに力が入っているか?」という「力をベース」に考える人が多いのですが、バレエのように、その身ひとつをしっかり動かして踊る、「動きをメイン」として考えると、「力と動き」ではそもそも使い方が根本的に違う。と捉えるのが良いでしょう。

大きい筋肉をギュッと締める感じは「収縮(短く縮む)」。肩周りの三角筋、上腕二頭筋(力こぶ)、外肋間筋など。股関節周りでは大殿筋、大腿筋などの「外から包むように大きい筋肉」に強い収縮の力を入れると、腕や脚を付け根に向けて「引っぱる」、付け根の関節へと「固める」というアクションを起こします。

「力と動きの違い」「力と動きの違い」今から腕を白鳥のように広げよう、脚を高く上げようとするプレパレーション時に、先に肩周り股周りの筋肉をグッと収縮すると、腕や脚が出る方向とは逆に体の方に引いてしまう。上がらないように関節にブレーキを掛けてしまう。結果的に起こすアクションとは逆になってしまいます。知らず知らず「脚が上がらない〜」と、もがいている理由の一つになります。

「腕や脚を更に長く」「滑らかに、軽やかに上げる、出す」とする為には、これらの強力な筋肉を如何に「引っ張らずに、押し出す方へ」動かす、「伸張(伸ばして押す)」流れを作るかを知る必要があります。

「力と動きの違い」「力と動きの違い」

「収縮と伸張の違い」

腕や脚を引っ張ってしまう収縮と、押し出す伸張との根本的な違いは、その流れの方向性にあります。
体中を張り巡る様々な筋肉たちの、絶対的な共通点は「最低でも2点の、どこかとどこかを結ぶゴム」であります。だから「ここが始まり(起点)」「ここで終わり(終点)」という「両端」があり、どっちからどっちへ力が向かっていくかで、縮むのか伸びるのかが決まります。
その「縮むのか?伸びるのか?」のどちらかを知る、とってもシンプルな法則があります。

ひとつの筋肉の両端を決めて、
・体の中心、センターにより近い側(内側)に寄せていくのが→収縮、縮む&固まる
・体の中心からより離れた、末端部に向かっていく側(外側)に送り出すのが→伸張、伸びる&動く

「収縮と伸張の違い」

今回の肩、お尻周りの筋肉をイラストで内外の側と、どちらが縮むか伸びるかを確認してみましょう。内側へグッと締めてから腕脚を持ち上げると、付け根へ向けて引っ張り込む、付け根の関節をガチッと固める流れを生むので、腕や脚がそれぞれに肩とお尻以上の高さに上がらないようにブレーキを掛ける。つまり「90度以上に上がるワケがない」という力を先に入れていることになります。
そこで外側へ向けることで「関節ごと腕脚を上げていく」のですが、注意がひとつ。つま先や膝先などの、外の末端をグッと突き出すだけでは、やはり筋肉がグッと締まり、引っ張り返しを受けてまた内へと返ってきて同じ結果となり「縮みます」。
「伸ばし出す」ための良いイメージは、その筋肉を末端部の方向へ、まるで船が泳ぎだすように「ゆったり丸ごと動かす」を、大らかな呼吸と共に行うのが分かり易いと思います。

「エイッ!と突き出しは緊張の素」

「届けたい想ひは手のひら足の裏から」

「流れは背骨から」

全身の筋肉は隣から隣へと、重なり合い、縫い合わさり、カラダのボディスーツという、ひとつの大きな筋膜で繋がっています。その一番大きな縫い目体の中心ラインの「背骨」です。従って腕や脚は、付け根からではなく「背骨から」出ていく」という流れがあって、良い動きを生み出せます。
バーレッスンで片手でしっかりバーを持ち「軸を感じて、しっかり固める」という観念を強くしてしまうと、腕や脚は軸に向かって短く引き込んできます。
バーレッスンでは握っている側と動く側を「背骨を境界線」として半分に分け、動く側の腕と脚は「背骨から流れを持って出す」と考えて、レッスンに励みましょう。

描くボディライン

バーレッスンにてカラダのライン

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バレエ・ピラティスによるカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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