明けましておめでとうございます。
本年も「Dance Cube」を、微力ながらよりいっそう充実させるべく努力を重ねていく所存です。 特に内外の<ダンサーの声>をできるだけとりあげ、日々変化する情報をお伝えしてまいりたいと思います。至らない点も多いとは思いますが、どうか暖かい目で見守っていただきたいと存じます。どうぞどうぞ、よろしくお願いいたします。
太刀川瑠璃子の80歳を祝うスターダンサーズ・バレエ団の公演
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| 「アレグロ ヴィーヴォ」 |
スターダンサーズ・バレエ団の2007年12月公演は、カンパニー創設者の太刀川瑠璃子の傘寿を祝うもの。会場には、若き日に舞台で活躍した太刀川の英姿颯爽とした数々の写真が飾られ、太刀川の影響によってバレエの道に関係した人々がお祝いの言葉を贈ろうと集い、華やかな雰囲気に包まれていた。
当初は、吉田都とロバート・テューズリーがマクミラン振付の『ロミオとジュリエット』のバルコニーのパ・ド・ドゥを踊ることになっていたが、怪我のため中止となった。代り予定になかった小山恵美振付の『アレグロヴィーヴォ』(音楽ビゼー)が踊られた。また、佐々保樹振付『ゼファー』(音楽リスト)、関直人振付『陽炎』(音楽シベリウスの「トゥオネラの白鳥」)といった、太刀川と縁の深い舞踊家の作品が上演された。
そして最後に上演されたのはストラヴィンスキー音楽の『火の鳥』。かつて最も長期にわたってスターダンサーズ・バレエ団の芸術監督を務めた遠藤善久の振付で、現在はマルセイユ国立バレエ団で踊っている子息の遠藤康行が追加振付を行っている。
舞台構成にドナルド・リチーの名がクレジットされていて、オリジナルを尊重してフォーキンの台本に従って創られた、とプログラムに解説されていた。しかしまた、遠藤康行の手が加わり、林ゆりえ(火の鳥)、新村純一(王子イワン)、松坂理里子(ツァレブナ姫)という若いダンサーが踊り、装置、衣裳もこの公演のために新しく製作されているためか、今日風の印象を残す舞台だった。
新村のイワンは若さのエネルギーが感じられて良かったし、王子と姫の出会いから始まるパ・ド・ドゥもなかなか新鮮だった。
特に動きは、頭に触れたりするコンテンポラリー・ダンスにも見受けられるものや、女性ダンサーがフロアに腰を落として回るなど独特のものが織り込まれていた。そうした動きと、1910年にこの作品で一躍名を上げたストラヴィンスキーの音楽との共振は、私にはもうひとつだったが、できればもう一度観て確かめてみたい、と思う。
ロシアの民話を素材とする『火の鳥』は、多くの振付家を触発して舞踊化されている。それはもちろん、ストラヴィンスキーの音楽が素晴らしいからだが、そのほかに金色に輝くロシアならではの独特の色彩感と、象徴性を秘めた神秘的な物語世界が魅力的だからだろうと思う。
太刀川瑠璃子が日本のバレエ界に尽くした功績については、今更あれこれ述べるまでもなく、公演プログラムにも丁寧に記載されている。
日本を代表するプリマとして踊り、後にナショナル・バレエの確立を目指してバレエ・プロデューサーとして意欲的に活躍した太刀川のバレエ人生は、「日本バレエは、良かれ悪しかれ観客と共に歩んで行かざるを得ない」と、暗黙のうちに語っている。
1964年に始まるスターダンサーズ・バレエ団の公演記録には、チューダーを始めとする20世紀の重要な振付家、ヨース、バランシン、トバイアス、ロビンズ、ライト、フォーサイスなどと共に、多くの日本人振付家の名前が並んでいる。
ただ単に、ひとつのカンパニーが創設されてこのような公演が行われた、という事実だけに限って見ても、そこに太刀川の過酷な闘いがあっただろうことは、簡単に推察できる。そしてそこには、次の世代が背負う課題のアウトラインが示されている。
(12月1日、ゆうぽうとホール)
ウクライナから、キエフ・バレエ団の『ライモンダ』
シェフチェンコ記念ウクライナ国立キエフ・バレエ団が3年ぶりに来日した。
旧ソ連時代は、キエフ・バレエというと寒さの厳しいロシアの中でも、南方の解放的な雰囲気を感じさせる唯一のカンパニー、と想っていたと記憶する。しかし今日では、かつてのリファールやニジンスカにも匹敵するザハロワやラトマンスキーといった、現代ロシア・バレエの中心で活躍する舞踊家を輩出する地、として注目を集めている。
今回の来日公演では『くるみ割り人形』『白鳥の湖』とともに、このカンパニーの主要ダンサーとして日本の観客にも良く知られるヴィクトル・ヤレメンコが、台本に関わり演出・振付けた『ライモンダ』が上演された。十字軍で遠征中のジャン・ド・ブリエンヌの婚約者、ライモンダにサラセンの騎士、アブデラフマンが情熱的に愛を語り、やがて遠征から戻ったジャンと対決するという物語。あるいは、このシンプルな愛の物語が『ライモンダ』の人気の秘密のひとつなのかもしれない。
ライモンダをエレーナ・フィリピエワ、ジャン・ド・ブリエンヌをセルギイ・シドルスキー、アブデラフマンをマリインスキー・バレエのプリンシパル、イーゴリ・コルプ、白い貴婦人を田北志のぶが踊った。
フィリピエワは、美貌のプリマとして日本の観客に人気がある。作品全体に配慮の行き届いた丁寧な踊りでソツのない舞台。ゲストダンサーとして、アブデラフマンに扮したコルプは、キャラクタ−を活かした渾身の踊りで、ライモンダに力強い愛を捧げる。さすがにマリインスキー・バレエのプリンシパルらしい明快な表現で、舞台の流れを大いに盛り上げた。
シドルスキーは、コルプに遠慮したのかやや控え目な感じだったが、長身で気品のある騎士の印象を残した。ただ、キャスティングのバランスからか、ライモンダがアブデラフマンを愛してしまったのではないか心配になり、なかなかスリリングだった。
そしてやはり、フィリピエワの演じるライモンダの愛の心理の微妙な変化が、グラズノフの色彩豊かなシンフォニックな曲と共鳴して、どのように舞台空間を染めるか、それがこのバレエの見所。装置も作品の生命線ともいえる舞台空間の彩りを大切にした作りで、コール・ドにも若さが感じられ、成功を収めた舞台だった。
(12月4日、Bunkamura オーチャードホール)
勅使川原三郎のソロ『ミロク MIROKU』
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| 「ミロク」 |
漠然とだが、最近の作品では勅使川原自身がソロで踊る時間が短くなっているような気がしていた。勅使川原作品の場合は、それぞれの演出の手際がじつに鮮やかなので、舞台のヴィジュアルが印象の大きな部分を占める。しかし私は、勅使川原がソロで踊るシーンが好きだ。そこでは、勅使川原の身体に宿っている動きの流れの美しさが、彼独特のダンスによって直裁に観ることができる。
新作『ミロク MIROKU』は、稲垣足穂の自伝的小説『弥勒』に想を得た、という。演出・振付・美術・照明・音響・衣裳、そして選曲まで舞台のほとんどすべてを勅使川原が仕切っている。
舞台に正方形のフロアを白く浮かび上がらせ、高く三面を囲んで色彩の光りを走らせる。
最初はじつにゆっくりとした動き。遥か彼方から軋んだピストンのような音響がリズムを刻む。スローな柔らかい動きが次第に、しかし時間をかけつつ速くなっていく。動きが速くなるに連れて、鮮やかなブルーの光りが三方の壁面をめまぐるしく走る。やがて、勅使川原が踊っているスペースに小さな正方形のピンスポットが当たる。彼はそのスペースから逃れ、背後の壁面にへばりつく。
一瞬のうちにに色彩の光りが消えて、再びフロアが白い光りに浮かび上がる・・・。
人々が弥勒という美しい像を通して仏の魂を感得するように、観客は勅使川原が鮮烈に描いた美しさによって始めて、ダンサーの身体に宿る踊る魂を見る、そんな気持ちが湧いた舞台だった。
勅使川原率いるKARASは、今年6月、『MIROKU』を持ってヨーロッパを回るという。ヨーロッパに観客は、ミロクに何を感じるだろうか。
(12月8日、新国立劇場 小劇場) |