【第45回】錯覚ではない実感覚を得る

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

普段クラスを教えている中で生徒のみなさんから寄せられる質問をヒントに、どうやったらうまく身体を使えるのか、どうしたら使い方をイメージできるのか、現役ダンサーの藤野先生ならではの視点で解説します。

まずはこちらのイラストをご覧ください。

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見ているだけで不思議な「目の錯覚」ならぬ、「体の感覚の錯覚」のような「イメージすることで変わってくる動きの性質」について、お話します。

ストリートに立って両サイドに並ぶ建物を眺めたような「遠近法」を用いて描いた上のイラストですが、どこを見るか?によって、感覚が変わってきます。

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壁が合わさっていく中央の空間を眺めていると、何か体の芯を集めていくような、しかし動きが「小さくなるような」「止まってしまうかのような」感覚が入ってきませんか?
対して、両サイドの壁の黒いところを眺めていると、体の両側が「広がっていくような」「関節間がフワ~と浮いていくような」体が動いていく感覚が入ってくるかと思います。

体を3つに区分する

上のイラストに近い感覚に。体を「真ん中と両の側」の3つに分けて考えます。頭は「真ん中の国」にすっぽり入っているべきなので、頭の両端である「耳たぶ」を国境のラインとします。耳たぶから真っ直ぐ地面へ。床まで届くイヤリングを付けていると思って、縦線2本を引いて。その2本線の外側を「右の国」「左の国」とします。
その縦線2本のライン上には、裏側ですが「肩甲骨の内壁」と「股関節のソケット部」という、腕と脚の「根っこの根っこ」が乗っていることを知りましょう。

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目の前には割れた海が見える

正面を向いて眼前に、足元から壁を伝い、天井へと伸び上がっていく柱のような「耳たぶ幅の2本線」を引いてみましょう。そして先ほどのイラストのような「真ん中と両サイド」に分けた景色を想像します。まるでモーセの十戒のような「割れた海」を眺めているように。
2本線の内側「真ん中の裂け目」を見ていると、体の芯を感じるような。真ん中ではない、「割れた海の両壁面」を見ていると、肩軸と股関節から、腕脚が伸び広がっていくような感覚が入ってきませんか?

モーセの割れた海が見える.jpg

国境は続くよどこまでも

このように、体の芯の部分は中央の国で動かし、右と左の腕脚は「耳たぶより向こう側の国」で動かしてあげることで、体は良質な動きと広がりを覚えます。
しかし、まっすぐ正面を向いて、両腕脚を広げているだけではバレエになりません。5番に脚をクロスさせたり、アームスが頭上を超えていくなど、中央の国を跨いでいくこともあります。
それでもそんなに簡単に「耳たぶの国境線」を超えてはなりません。
眼前に広がる景色を動かないものに固定してしまわずに、道は都合の良いものに、曲線にもなるし、角度も変わっていきます。
「耳たぶから伸びる線」をイメージした方向に向けて、その境界線の外側で腕脚を扱っていきましょう。

2_正面の国境.jpg

3_脚4番アンオーの国境.jpg

今回は「目の前に広がる空間」を意識することを「モーセの割れた海」でイメージしました。
実はこの感覚は「舞台上から客席ホールを見る」という景色に酷似しています。
目の前の鏡に映る自分の姿の一点に視点を止めず、舞台の上で広い空間に目を向けている。こういった想像力や感覚を普段のレッスンから、是非取り入れてみてくださいね。

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Check
>>> エクササイズ[ 45 ]「空間に目を向ける- エクササイズ-」

バレエ・ピラティスによるバレリーナのカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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