【第26回】背中の引き上げはオーラの源

〜背筋を伸ばす、引き上げる〜
人として「良い姿勢」を作るためのキーワードのような台詞ですが、果たして背中の何を、どのように上げるのか?
今回は「背中の使い方」から魅せる踊りへの変化。舞台で存在感、オーラを上げる方法をご紹介します。

「引けていないか?」


背中は弛むと丸くなる。ということで、背筋を起こすときには自然と、背骨を後方へ引こうとする力が生じます。特に頭と胸椎が前に出ると「猫背」になるので、それを防ぐという意味でも、人は頭や背中上部をグッと引いてしまいます。その際に背中の筋肉は、サスペンダーを後ろに引っ張るように、首や肩を後ろに引き下げようとする「緊張タイプの締まり方」として使われます。このように背中がギュッと締まる、首がギュッと締まる瞬間って、私生活でいうとどのような時でしょうか?そう、ふいに後ろに倒れそうになるときです。
背中は後ろに引くと「締まる」ので「開く」ためには前方にそっと起こしてあげる感覚が必要になります。

「背中の使い方」

「背中の使い方」

「背骨に芯を通す」

背骨はどこにある?というと自然に背中を考えるでしょうし、実際に骨に触れるのは背中側です。でもそれは背骨の表面であり、骨の太さ、つまり前後の「厚み」を考えると、特に腰椎は体の中心に届くほど奥行きがあります。
従って「背筋を起こす」とは、表面的に後ろに引っ張るというよりは、背骨という「柱を立てる」と考えると良いでしょう。
力を抜くと、好きなようにグニャリとしなって落ちてくる背骨であるならば、「背骨というホース」に下から支柱のような「芯を通して起こす」というイメージを使ってみましょう。

「背骨に芯を通す」

「前は進め。後ろは止まれ」

人は前にこけそうになると、腕や脚を前に出して転倒を阻止するように「動く」のに対し、後ろにこけそうになると腕や脚は前に飛び出してバランスを保とうとする。全身が「固まって」なんとか堪えようとするのは理解できますか?
頭を後ろに引くと、首に力が入る。肘や膝を引くと肩や股関節。お尻を引くと色々なところに力が入る。
このように体中どこを引いても「後ろには倒れたくないシステム」が作動して、どこかで強く筋肉が締まり、関節が動かないように「固定する」意識が入ります。
全身の筋肉は各部を経由して、すべて背骨に繋がっています。背骨を引くとチャックが閉まるように。後ろの柱にくくり付けてしまうように固まるのであれば、逆に「背骨から広げてあげる」ように動きを生み出す必要があります。

「前は進め。後ろは止まれ」

「前は進め。後ろは止まれ」

「背中から広がる世界」

今回は広げ始めの主要ポイントを3つご紹介します。本当は背骨のどの部分をとっても同じように考えて欲しいのですが「頭、腕の起点、脚の起点」で考えてみましょう。
「腕の起点」は肩甲骨の間。「脚の起点」は仙骨の中心です。写真でラインを確認して下さい。「起点」部分を直接後ろへ引くと腕や脚は「引っ張られる」ように緊張の力を生み出します。腕や脚の「滑らかな動き」を生み出すには、起点部分からは波紋が広がるように。前方へ向けて「大きい筒状に」送り出すように使ってみましょう。

「前は進め。後ろは止まれ」

頭に関しては想像力を必要とします。
スタジオで鏡を見ていると大丈夫なのに、舞台に立って客席の暗闇を前にすると、背中や首が引けて「煽られる感じ」を経験したことがありますか?
これは、目を頼りに距離感を作ってしまうせいです。目がしっかりと焦点を結ぶことができると顔を固定できて、逆に暗闇や青空を眺めると頭がフラつく、という現象です。手を伸ばして何かをしっかり掴めるときと、掴むものが無いときと同じです。
「頭の起点」から前へ送り出すイメージは、本当の目は無視して「後頭部に目がふたつ」あると思って。その後頭部の目が「前の景色を見ている」と想像してみて下さい。

今回ご紹介した「背中から筒状に前方へ」の感覚は、筒のサイズをあまりにも大きくイメージすると、意識が届かなくなってしまいますので、「前方1メートル」くらいに終点を考えてみるとよいでしょう。

「後頭部に目がふたつ」

「背中から広がる世界」

Check
>>> エクササイズ[ 26 ]「背骨体操~!動かす、捻る-エクササイズ-」

バレエ・ピラティスによるカラダ講座

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[文 & 写真]藤野 暢央(ふじの のぶお)

12歳でバレエを始め、17歳でオーストラリア・バレエ学校に入学。
当時の監督スティーブン=ジェフリーズにスカウトされて、香港バレエ団に入団。早期に数々の主役に抜擢され、異例の早さでプリンシパルに昇格する。
オーストラリア・バレエ団に移籍し、シニアソリストとして活躍する。
10年以上のプロ活動の中、右すねに疲労骨折を患い手術。復帰して数年後に左すねにも疲労骨折が発覚し手術。骨折部は完治するも、激しい痛みと戦い続けた。二度目のリハビリ中にピラティスに出会い、根本的な問題を改善するには、体の作り、使い方を変えなくてはならないと自覚する。
現在は痛みを完全に克服し、現役のダンサーとして活動中。またバレエ・ピラティスの講師として、ダンサーの体作りの豆知識を、自身の経験を元に日々更新し続けている。

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[イラスト]あゆお

仙台市在住。マンガ家・イラストレーター。
著書に謎の権力で職場を支配する女性社員「お局様」について描いたエッセイマンガ「おつぼね!!!」。
イラストを担当した書籍に「一生元気でいたければ足指をのばしなさい」。
趣味はロードバイクで走ることです。

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