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関口 紘一 
[2015.10.28]

シルヴィ・ギエムに「さよなら」を言うために

シルヴィ・ギエム。私は、彼女がヌレエフとともに1985年にパリ・オペラ座のエトワールとして、初めて来日した時の記事会見の一コマをよく思い出す。

1510guillem_02.jpg photo:Nobuhiko Hikiji

当時、パリ・オペラ座の芸術監督だったヌレエフは、ギエムの並外れた技量を見抜き、わずか19歳でエトワールに抜擢した。そして彼女は、東京バレエ団のゲストとして『白鳥の湖』のオデット/オディールを踊るために来日。そこで開かれた記者会見での質問は、当時はアンナ・パプロワの再来とも騒がれていたギエムに向いた。19歳のエトワール、ギエムはヌレエフの助けを借りながら、当時は「ジャパン・アズ・No.1」などもてはやされ、その一方では「エコノミック・アニマル」と顰蹙をも買っていた日本のジャーナリストたちの質問に応じた。
そして、彼女の被っていた革製の帽子について聞かれ、ヌレエフが愛用していた帽子に似たものが、アンカレッジ(!)のトランジットの時に見つかり嬉しかったと答えた。すると、「ちょっとその帽子を脱いでくれ」という、不躾な声が掛かった。するとギエムは「ノン」ときっぱりと拒んだ。冷静だが気に入ったから身に着けてきた帽子を脱ぐ必要はない、という明快な意思表明である。これこそ、「マドモアゼル・ノン」の日本での第一声だった。
そしてその後、ギエムはフォーサイスの『イン・ザ・ミドル・サムワット・エレヴェイテッド』をパリ・オペラ座の舞台で踊り、20世紀のバレリーナのイメージを完全に一新した。今でこそ当たり前のようにフォーサイス作品は若いダンサーたちにも踊られているが、当時、19世紀に創られた舞台が中心だったクラシック・バレエの世界に、突如として現代そのものを息づかせた衝撃は大きかった。フォーサイスの優れた現代的な作品を見事に具象化することができたのは、シルヴィ・ギエムという希有のダンサーによって初めて可能だったのだと私は思う。
ギエムは1988年には、パリ・オペラ座から英国ロイヤル・バレエへと突然、移籍した。ギエムはここでも、カンパニーに理由なく拘束されることを拒否し、ダンサーの生き方として一つの新しい指針を示した。またその後は、『ボレロ』を始めとするモーリス・ベジャール作品、『カルメン』などのマッツ・エクの作品を踊っている。

1510guillem_03.jpg photo:Nobuhiko Hikiji

英国ロイヤル・バレエでは、『マノン』や『田園の出来事』『マルグリットとアルマン』などのドラマティック・バレエを演じて、一時代を築いた。しかしまた、ロイヤル・バレエの核心的作品の作者であるマクミランとの対立も厭わなかった、とも伝えられている。
近年は、アクラム・カーンやラッセル・マリファントなどのコンテンポラリー作品を踊っていたが、その人気は群を抜いており、20世紀末から21世紀にかけてのバレエ・ファンにとっては、唯一、絶対的な存在といえるダンサーだった。
日本には1985年以来、度々来日し、東京バレエ団とともに<シルヴィ・ギエム・オン・ステージ>公演を全国各地で行い、絶大な人気を集めた。ギエムは、日本の文化に親しみを感じ、大いに理解を示していた。そして2011年には、いち早く東日本大震災復興チャリティ・ガラとして「HOPE JAPAN」プロジェクトを立ち上げ、東京のみならず、被災地の福島、岩手も回って、日本人を励まし勇気づけてくれた。そして2015年10月20日、高松宮殿下記念世界文化賞を授賞した授賞式の合同記者会見では、「35年前から愛している国で授賞できることを嬉しく思います」とコメントした。(初来日はパリ・オペラ座バレエ学校時代)

そしてついに、不世出のダンサーとして活躍したシルヴィ・ギエムのさよなら公演の時が近づいてきた。さよなら公演は「ライフ・イン・プログレス」として当初、パリ、ロンドン、東京で行われる予定だったが、次々と公演都市が増え、3月のイタリアを皮切りに、9月にはパリ、シャンゼリゼ劇場で行われた。
東京公演は、12月17日から20日まで東京文化会館で行われる。また、「この作品(『ボレロ』)を最後に踊る場所、それは日本以外にあり得ません」という『ボレロ』を踊る「シルヴィ・ギエム ファイナル」公演も全国各地で開催される。さらに、「東急ジルベスターコンサート2015-2016」でも、ギエムの『ボレロ』が踊られることが決定した。

1510guillem_04.jpg photo:Nobuhiko Hikiji

<ライフ・イン・プログレス>
プログラム http://www.nbs.or.jp/stages/2015/guillem/index.html
マッツ・エック振付『バイ』Bye シルヴィ・ギエム、
ラッセル・マリファント振付『ヒア・アンド・アフター』Here & after ギエム、エマヌエラ・モンタナーリ、
アクラム・カーン振付『テクネ』シルヴィ・ギエム、
ウイリアム・フォーサイス振付『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』東京バレエ団(初演)、
イリ・キリアン振付『ドリームタイム』東京バレエ団、
ウイリアム・フォーサイス振付『デュオ』ブリーゲル・ギヨーカ、ライリー・ワッツ
追加公演が決定し、12月16日(水)19時〜 東京文化会館。

<シルヴィ・ギエム ファイナル>
プログラム http://www.nbs.or.jp/stages/2015/guillem_final/index.html
ラッセル・マリファント振付『TWO』シルヴィ・ギエム、
モーリス・ベmargin: 2px 0px;" oncontextmenu="alert('画像の転載はお断りしております');return false;"ール振付『ボレロ』ギエム&東京バレエ団、
イリ・キリアン振付『ドリーム・タイム』東京バレエ団、
ウィリアム・フォーサイス振付『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』東京バレエ団(初演)
12月30日16時〜 神奈川県民ホール
その他の全国公演は
http://www.nbs.or.jp/stages/2015/guillem_final/schedule.html

<東急ジルベスターコンサート2015-2016>
http://www.bunkamura.co.jp/topics/orchard/2015/10/_2015-2016.html
2015年12月31日(木)22時開演。Bunkamuraオーチャードホール

1510guillem_BYE01.jpg  「バイ」photo/Bill Cooper