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関口 紘一 
[2016.12.27]

マクミランの『アナスタシア』から始まロイヤル・バレエのシネマシーズン、6作品を上映

英国ロイヤル・オペラハウス2016/17シネマシーズンが17年1月より始まり、注目のケネス・マクミラン振付『アナスタシア』をはじめ6作品が上映される。
『アナスタシア』は、ロシア革命により一家全員(ニコライ II 世、アレクサンドラ皇后、4人姉妹、末弟)が惨殺されたとされたが、皇女アナスタシア(末娘)の生き残りだ、と主張して世界中を驚かせたアンナ・アンダーソンの事件に基づいて創られた全三幕のバレエ。

1612Anastasia02.jpg ⓒROH2016 Phtographed by Tristram Kenton

もしアンナ・アーダーソンがロシア皇帝の娘だと証明されれば、多くが係累で繋がっているヨーロッパの王族にとっては、遺産相続などで多くの問題を抱えることになり、世界中の注目を集めた。英国のBBCが詳細な取材に基づいたドキュメンタリー番組を制作したほか、関連出版物も相次いで上梓され、イングリッド・バークマン(アカデミー主演女優賞受賞)、ユル・ブリンナー主演で『追憶』(原題”Anastasia” 1956年)というハリウッド映画も公開されて大ヒットし、20世紀最大のミステリー、と言われた出来事を題材にしている。ただ、非業の死を遂げた人物の生き残り伝説は多く、よく知られるところでは、義経が生き延びて大陸に渡ったというもの。ほかにも西南戦争で敗れた西郷隆盛の生き残り伝説にも諸説があった。一例を挙げると、当時の皇太子でのちのロシア皇帝ニコライ II 世が日本を訪れる際に、その艦隊が、まず、鹿児島に寄港することになった。そこには生き延びた西郷が同船している、という噂が広まったことがある。もちろん、西郷はいなかったが、ニコライ皇太子は日本の狂信的な警官の襲撃を受けた大津事件が起きた。その後、日露戦争が勃発するなどニコライ II 世は日本とは微妙に関わることが多い。ロシア革命の際にも日本の特務機関の助けによってニコライ皇帝一家はアメリカに逃れた、という説がささやかれたことすらある。
もう一つ。バレエ『アナスタシア』にも実名の役で登場するマチルダ・クシェシンスカヤは、ニコライ II 世の皇太子時代の愛人であり、皇室の人たちを見知っていたので、アンナ・アンダーソンが本物のアナスタシアであるかどうかの首実検に駆り出されている。その結果は詳かではないが、クシェシンスカヤがすでに高齢だったために曖昧のうちに伏せられてしまった、とも伝えられている。
結局、アンナ・アンダーソンの主張は彼女の死後の1994年に行われたDNA鑑定により認められなかった。

1612Anastasia01.jpg ⓒ ROH2016 Phtographed by Tristram Kenton

ケネス・マクミランは『アナスタシア』を1967年にベルリン・オペラ・バレエに、まず1幕作品として振付け、リン・シーモア主演で初演した。その後1971年に英国ロイヤル・バレエ団に第1幕と第2幕を加えて全3幕作品としてコヴェント・ガーデンで上演している。ここでもシーモアが主演した。
新たに加えられた第1幕では皇室専用のヨット、スタンドル号の華やかな船上、第2幕はアナスタシア(ナタリア・オシポワ)の社交界デビューを描きながら、栄華を誇ったロマノフ王朝による帝政ロシアの崩壊を、皇帝一族を中心に描いている。第3幕は精神病院が舞台で、アンナ・アンダーソン(ナタリア・オシポワ)が幻影に苛まれる場面。そこでは革命の実写フィルムが上映され、夫の死や子供を奪われるシーン、ラスプーチン(ディアゴ・ソアレス)の不気味な姿などが、皇族たちの華やかな生活とともに泡沫のように現れては消える。最後は彼女がラスプーチンの幻影を追い払い、皇帝一家の人たちの幸せな姿の幻が浮かぶ・・・・。
音楽は第1、2幕はチャイコフスキーの交響曲、第3幕はボフスラフ・マルティーヌの電子音などの入る曲を使用している。スタンドル号の傾いたマストやあらぬ方角を向いたシャンデリアなど、重厚だが不安定な世界を表した舞台美術は、ロブ・クーリーが担当して製作されている。
このバレエのもうひとつの話題は先にも述べたが、プリマバレリーナ・アッソルータとして舞踊史に名前を轟かすマチルダ・クシェシンスカヤ役(マリアネラ・ヌニュス)か登場し、かつての愛人だったニコライ Ⅱ 世の前で華麗なダンスを被歴するシーンがあること。結局、ニコライ皇太子はアリックス大公女と結婚したが、その後もクシェシンスカヤは皇帝との関係を背景に、マリインスキー劇場では絶大な力があった、と言われている。
また、ニコライⅡ 世が4人の皇女を得た後にやっと授かったアレクセイ皇太子(男性にしか皇位継承件がなかった)は、生来の血友病で、怪僧ラスプーチンの祈りによって辛うじて生きのびているかのようだった。それを良いことに、ラスプーチンはこともあろうに后妃に近づきその関係が取り沙汰されるまでとなった。

1612Anastasia03.jpg ⓒROH2016 Phtographed by Tristram Kenton

『アナスタシア』は、帝政ロシアの終末期のそうした状況を背景として、マクミランが台本を書いて制作されたバレエである。
映画では幕間に、かつてのプリンシパルでクシェシンスカヤ役を踊った経験もあるダーシー・バッセル他がナビゲーターとなり、ロイヤル・バレエ芸術監督のケビン・オヘア、指揮者のサイモン・ヒューエット、かつてアナスタシア役を踊り今回の舞台の指導にもあたったヴィヴィアナ・デュランテ他のスタッフにインタビューしている。
舞台評はhttp://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-tokyo/tokyo1209b.html http://www.chacott-jp.com/magazine/world-report/from-london/london0406g.html 。クシェシンスカヤ自伝「ペテルブルグのバレリーナ」書評は
http://www.chacott-jp.com/magazine/dance-library/book/1202book.html

1612roh01.jpg 『眠れる森の美女』 ⓒRoyal Opera House 2016.

2016/17のシネマシーズンは、その後は、ローレン・カスパートソンとフェデリコ・ボネッリの踊るピーター・ライト版『くるみ割り人形』、アレッサンドラ・フェリ、サラ・ラム、ナタリア・オシポワ、高田茜、スティーブン・マックレーが踊る『ウルフ・ワークス』は、ウエィン・マクレガーがヴァージニア・ウルフの3本の小説に基づいて創作したもの。さらにマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフが踊る『眠れる森の美女』、ベアトリス・スティックス=ブルネル、ラウラ・モレーラ、ヴァレリー・ヒストリフ、平野亮一が踊る『ジュエルズ』、そして『真夏の夜の夢』『シンフォニック・ヴァリエーションズ』『マルグリッドとアルマン』というトリプルビルが予定されている。
上映予定は
『アナスタシア』2017年1月13日〜
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/anastasia.html
『くるみ割り人形』2017年2月10日〜
以降は順次発表される。
http://tohotowa.co.jp/roh/

1612roh04.jpg 『くるみ割り人形』ⓒRoyal Opera House 2016. 1612roh05.jpg 『真夏の夜の夢』ⓒPhoto Johan Perssons
1612roh03.jpg 『ジュエルズ』ⓒRoyal Opera House 2016. 1612roh02.jpg 『ウルフ・ワークス』ⓒRoyal Opera House 2016.

また、ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2016ー2017 によるライヴビューイングも、すでに始まっている。
上映予定は
2016年12月14日(水) 19:30〜 『くるみ割り人形』 2014年12月収録上映
2017年2月8日(水) 19:30〜 『眠れる森の美女』 新作ディレイ上映
2017年2月 22日(水) 19:30〜 『白鳥の湖』 2015年1月収録上映
2017年3月 29日(水) 19:30〜 『明るい小川』 2012年4月収録上映
2017年4月19日(水) 19:30〜 『現代の英雄』 新作ディレイ上映
2017年5月17日(水) 19:30〜 『コンテンポラリー・イブニング』 新作ディレイ上映
となっている。お問い合わせは http://bolshoi-cinema.jp/