ニュース

その他ニュース: 最新の記事

その他ニュース: 月別アーカイブ

三光 洋 
[2011.08. 1]

衝撃の立体映像にピナ・バウシュを悼む! ヴェンダーズ監督の映画『PINA 3D』

観客のいないヴッパタールのタンツテアターの舞台が映し出される。奥にはタバコを手にしたピナの写真がかかっている。
「ピナに、私たち全員からの想いをこめて」という字句が画面に浮かぶ。アコーデオンを持った裸の女性、それから夜会服の男女の列が姿を現す。

ちょうど二年前の6月30日にピナ・バウシュは亡くなった。25年前に知り合った時から、『パリ・テキサス』(1984年)や『ベルリン・天使の詩』(1987年)で知られる映画監督のヴィム・ヴェンダーズ監督は、ピナ・バウシュとドキュメント映画をいっしょに製作する約束を交わしていた。ピナの急逝にヴェンダースは衝撃を受け、一時撮影を中止した。二ヵ月経ってから思い直して作業を再開し、ヴッパタールのタンツテアターの団員の協力により完成にこぎつけた。
この映画には3Dの技術が舞台芸術のドキュメンタリーとしては初めて利用された。数多いピナの作品からここに収められているのは『春の祭典』『カフェ・ミュラー』『コンタクトホーフ』『満月』(フルムーン)の4作品で、その間に団員たちの短いインタヴューと、1973年から劇団の拠点となっているヴッパタールの街頭の映像が挿入されている。
作品として最初にあらわれるのは『春の祭典』だ。
ダンサーの汗が飛びちり、赤い土の香りが立ち上ってくるかと思えるのは立体映像の効果だろう。ガルニエ宮で初めてこの作品に接した時の衝撃が鮮やかに蘇ってきた。カメラがダンサーの身体にぴたりと寄り添っているために、あたかも客席の最前列で舞台を見ているかのようだ。ダンサーのエネルギーが直に迫ってくる。『カフェ・ミュラー』の人物たちの感情の交錯も過不足なくカメラにとらえられている。
団員たちがピナの思い出をカメラに向かって語るインタヴューでは、寡黙なピナが発したわずかな言葉から振付家と踊り手の絆が自然にみえてくる。そして、今なおダンサーたちを支えているのは、いまだに脳裏から消えることのないピナの眼差しだということが語られている。
ピナ自身の踊りも『カフェ・ミュラー』の映像にとどめられた。短いが貴重な記録だ。
モノレールや工場跡、ロータリーの芝生、採石場の跡地といったヴッパタールの街のあちこちでダンサーたちが踊る場面は、一見無駄だと感じられるかもしれない。しかしこれは、ベルリンやミュンヘンといった文化的な都会を避けて、荒涼とした斜陽の工場街で団員たちとともにダンスと向き合ったピナの人生の背景、ピナのダンスのエネルギーを育んだ土地ヴッパタールへのオマージュだろう。
わずか1時間43分とは思えない密度のある時間にピナのダンスが結晶しており、繰り返して見直したい映像だ。

1107pina01.jpg
1107pina02.jpg1107pina03.jpg

『PINA 3D』 (原題))2012年 日本全国公開
© 2010 NEUE ROAD MOVIES GMBH, EUROWIDE FILM PRODUCTION
 
監督脚本/ヴィム・ヴェンダース
出演/ピナ・バウシュ他、ヴッパタール舞踏団ダンサーたち