ドキュメンタリー『新世紀、パリ・オペラ座』公開

2015〜16年におよそ1年半にわたってバスティーユとガルニエ宮のパリ・オペラ座の激動の日々を記録したドキュメンタリー映画『新世紀、パリ・オペラ座』が12月9日よりロードショー公開される。 フランスでオペラ座のドキュメンタリー映画史上No.1記録を樹立し、モスクワ国際映画祭でドキュメンタリー映画賞を受賞したという話題作で、芸術の殿堂での様々な出来事と、すぐれた舞台を提供するために日々奮闘する人々の姿が描かれる。

監督のジャン=ステファヌ・ブロンはこの映画を撮影するまで、オペラにもバレエにもほとんど知識がなかったという。そのため世界的なスターの出演や常識的な題材にこだわらず、新鮮な視点で自身が興味をもった対象を描き出している。たとえば『ラ・バヤデール』でスポットライトを浴びるのは、エトワールたちではなくコリフェのファニー・ゴルスだ。ソロを踊った後、彼女は舞台袖で倒れ込み、激しくあえぎ続ける。舞台上で優雅に美しく舞っているダンサーが、笑顔の裏でたいへんな疲労に耐えていたのだという事実が強く印象に残る。なお、この『ラ・バヤデール』は、2015年11月13日に起こったパリ同時多発テロ事件の4日後に初日を迎えた。それに先立つ公開ゲネプロの折、出演者、観客、食堂のスタッフにいたるまで、劇場全体が被害者のために真摯に黙祷を捧げている様子も記録されている。

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 バレエを扱った部分は短いが、舞踊監督のバンジャマン・ミルピエが自らも踊りながら、新作『夜の終わり』をアマンディーヌ・アルビッソン、エルヴェ・モローとリハーサルしている場面が興味深い。その後、監督業より振付活動を優先したいという理由で、ミルピエの突然の退任騒動が持ち上がる。劇場総裁が彼に直接電話をして進退をどう考えているのか説明するように迫ったり、後任のオレリー・デュポンを交えての退任会見で記者から辛辣な質問が飛んだりと、息をのむような展開が待っている。
オペラの登場人物で最も印象的なのは、ロシアのウラル地方出身の純朴そうな青年、ミハイル・ティモシェンコだ。若手アーティストの育成プログラムであるオペラ座アカデミーのオーディションを受けるためにパリにやってきた彼は、すばらしいバス・バリトンの歌声でオペラ座の首脳たちを魅了する。リサイタルの後で「最低だった」と落ち込んだり、同じ声域の世界的なスターから激励されたり、日々新しい経験を積む彼は、一流のオペラ歌手への階段を上っていくことを期待させる。オペラ・ファンならずとも要注目の存在だ。
ミルピエの退任騒動以外にも、シェーンベルクのオペラ『モーゼとアロン』で牡牛を登場させるやっかいな演出、本番の2日前に突如降板したオペラの主役の代役探し、ストライキによる公演中止と、総裁はじめスタッフたちは降りかかった様々なトラブルを乗り越え、観客の喝采を浴びる使命を帯びている。ブロン監督は「このオペラ座という社会を構成する人々が、一つのプロジェクトのために力を合わせる、どんなことが起ころうとも幕を上げる。その原動力となる熱意を見せたかった」と語っているが、本作はオペラ座で働くすべての人への熱いエールでもあるのだろう。

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© 2017 LFP-Les Films Pelleas - Bande a part Films - France 2 Cinema - Opera national de Paris - Orange Studio - RTS

2017年7月のファニー・ゴルスのインタビューで、本作の撮影時のエピソードが紹介されている。

『新世紀、パリ・オペラ座』
12月9日(土)Bunkamura ル・シネマほか、全国順次ロードショー


公式サイト:http://gaga.ne.jp/parisopera/

監督:ジャン=ステファヌ・ブロン
主な出演者:<オペラ座総裁>ステファン・リスナー、<バレエ団芸術監督>バンジャマン・ミルピエ、オレリー・デュポン、<音楽監督>フィリップ・ジョルダン、<オペラ演出>ロメオ・カステルッチ、<オペラ歌手>ブリン・ターフェル、ヨナス・カウフマン、ミハイル・ティモシェンコ、ブランドン・ヨヴァノヴィッチ、<バレエダンサー>アマンディーヌ・アルビッソン、エルヴェ・モロー、ファニー・ゴルス

配給;ギャガ GAGA 
原題:L'Opéra/2017年/フランス/111分

ステージ & ワークショップ/シネマ

森 瑠依子

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