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浦野 芳子 
[2012.03.26]

地方発・世界へ。『ふじのくに⇔せかい演劇祭』で黒田育世が新作を上演

ようやく日本にも“劇場法”が導入されようと言う今(3月21日付の朝日新聞でも、関連ニュースが報じられていました)。

SPAC-静岡県舞台芸術センターは、それに先駆け今から15年前、1997年に劇団を所有する専用公立劇場としてスタートした。“日本の芸術文化を衰弱させないためには、文化の東京一極集中の打破が必要”初代芸術総監督・鈴木忠志の理念を5年前に受け継ぎ芸術総監督を務める宮城聰のもと、2000年より「Shizuoka春の芸術祭」と銘打って開催されてきた演劇祭事業が、2011年より「ふじのくに⇔せかい演劇祭」と名称を改め、新しくスタートを切った。2回目となる2012年の演目・見どころについて3月16日、東京・日仏学院にて記者発表会が行われた。

地方から世界へ。

文化芸術には、国境や人種を超えて、人と人との間に直接、関心や感動を芽生えさせる力がある。“ふじのくに⇔せかい”という新しいタイトルには、富士山麓に抱かれた静岡県と世界が、“東京”や“国旗”を背負わず、世界の人々との豊かな文化芸術交流を目指すという意味が含まれる。

毎年開催されるこの演劇祭に、世界各国から芸術家、観客などさまざま人がやって来る―その扉、道、そういうものを持つ新たな意味について、昨年の東日本大震災以降、宮城は思いを新たにしたという。

「演劇、舞台芸術というものは非日常としてのイベント、という意味合いが強く、ある意味日常の裂け目のような存在。しかし、昨年3月11日に、その裂け目が実際のモノとなり、目の前に立ち現れたのです。そんなとき、地域、というコミュニティの中に常に裂け目みたいなもの、つまり非日常的集団が存在し続けているという事実は、ある意味本質的なことなのではないのかと」。世界中から、ちょっとわかりにくい人たちが訪ねてくる、SPAC。「そこは、一般生活者の視点から見ればある種“変わり者たち”の集まる家。非日常という裂け目が、日常の片隅にリアリティを持ち存在することを、意味します」。また、舞台芸術は、たとえ同じ作品でも一回一回が生まれては消えていく刹那。変わり続けてゆくもの。「舞台芸術がコミュニティの中に常に存在するということは、地域の人たちの安心感を形成するのではないかと」。今日と同じ明日は無い。それを感じさせる存在は、不安定さを受け止めて生きるという強さにも、つながるのだ。「新たな意味での心の拠り所、お寺のようなものでもあると、私は思うんです」。

1203kuroda02.jpg 『春のめざめ』
Photo/Marc Vanappelghem

で、今年のラインナップはというと。

SPAC芸術監督・宮城聰の演出による2作品『マハーバーラタ』、コロンビア公演からの外旋となる『ペール・ギュント』をはじめSPACに9度目の登場となるオマール・ポラス演出の日本初演作品『春のめざめ』など、10か国から12演目のラインナップとなる。中でも英語版が高く評価された野田秀樹演出の話題作『THE BEE』(日本語バージョン)などは早くも一般売りチケットは完売とか。記者会見会場では、キャストを一部新しくして今回の日本語バージョンに臨む野田からの、ビデオメッセージも紹介された。ほかに原作に忠実に、シェイクスピアのユーモアや猥談を余すところなく再現するという、オリヴィエ・ピィの『〈完全版〉ロミオとジュリエット』、普通の人のありのままの日常を音楽劇に再現したという『ライフ・アンド・タイムズ-エピソード1』など、新たな試みに注目したいところ。

これは新しい! と思わせるのが、イタリアからやってくる自転車演劇『旅』。自転車に乗った男たちが、移動しながら街角でパフォーマンスを繰り広げるというのである。イタリアの各地で高い評価を得ているという、そのパフォーマンスの一部を映像で見た感じでは、モノクロのシネマの中の大道芸が自転車にまたがって突然あなたの街に現れる、といった感じだろうか。演出・脚本のアナ・スティースゴーは、静岡県内の各所をロケハンして周り、パフォーマンスの舞台を8か所選ぶという。記者会見の時点では、そのうち1カ所が伊豆であるということ。伊豆と外国人と自転車大道パフォーマンス、いう異色の組み合わせは、ベタになったらきっと退屈。私ごときの貧相な想像力を超えて余りある展開をぜひ観たい! いや体験してみたい、と思うので今から伊豆の温泉宿でも予約しておこうか、おっ、“旅”というタイトルが意図するところはこういうことだったのか?(たぶん、全然違うと思います)。

この作品は、演劇祭のプレイベントとして4月28日〜5月6日、静岡県内を巡るそうだ(詳細は公演公式サイトにて)。

さて。

今回、ダンス作品としてせかい演劇祭に参加するのが黒田育世とBATIK。『おたる鳥をよぶ準備』という作品を上演する。

おたる鳥。

そんな鳥、知らない、と思っていたらこれは黒田の造語なのだそうだ。おたる、とは踊る、の語源。それが鳥になり、自由に空を飛びまわり、世界中に新たな命の種をまく…「死を迎えた自分の身体に、おどりの鳥、“おたる鳥”が舞い降りついばみ、どこか新たな場所へ飛んで行ってはウンチをする。鳥の存在を借りて世界中のあちこちにばらまかれる自分の身体が、新たな命の種となっていく」、死を、そんな再生のイメージでとらえた作品らしい。考えてみれば、生きる、ということは確実に死に向かっている、ということでもある。人は、死に向かって、生きているのだ。「毎日がクライシス、つまり人は死ぬ準備の中で生きている。それをいかに否定せずに、否定に飲み込まれることをせずに、生きていくか、踊っていくか」。それが、おたる鳥=使い終わった自分の身体を新たな生命の種に変えるものを、呼ぶ準備、なのだ。

舞台は、野外劇場“有度”。上演は6月30日と7月1日。梅雨の真っただ中である。「降るな~という予想のもとで作品作りを進めています(笑)。しかしそれを逆手に取り、床が水で滑る状況下でも踊れるよう、人工芝を使おうと考えています」。有度、は日本平の豊かな自然を背景にした、緑の中にある。そこが、黒田の言うところの“逆手”の発想なのだ。「美しい森の中に現れる嘘臭さ、非日常の中の、リアル」。無反省に、あどけない表現を、できたらいいなと言葉を続けた。

あどけない…その言葉を黒田は、記者会見の中でたびたび繰り返した。無邪気さ、子供っぽさを意味するこの言葉が表すように、死を呼ぶ準備は、ピュアな、ありのままの姿としてのイメージの中に在るのかも知れない。この日、記者会見の壇上に上がった黒田が、ますます透明感が増して美しく感じられたのは、気持ちがその“あどけなさ”へと向かっているせいなのだろうか…。

見どころいろいろの演劇祭は、6月2日から7月1日まで、静岡芸術劇場及び舞台芸術公園にて開催される。

詳細は、SPAC公式サイト http://www.spac.or.jp
問い合わせ先 SPACチケットセンター TEL:054-202-3399

1203kuroda01.jpg 『マハーバーラタ』撮影:内田琢麻
1203kuroda03.jpg 『THE BEE』(2007年 日本版初演 舞台写真)撮影:谷古宇正彦
1203kuroda04.jpg 『<完全版>ロミオとジュリエット』写真:Alain Fonteray
1203kuroda05.jpg 『ライフ・アンド・タイムズ-エピソード1』Photo/Reinhard Werner-Burgtheater
1203kuroda06.jpg

『旅』Photo/ROBERTO PALERMO

1203kuroda07.jpg 『あかりのともるかがみのくず』黒田育世2010年作品 Photo/石川純