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関口 紘一 
[2011.09.12]

クランコ、マクミランが創った『パゴダの王子』にビントレーがチャレンジ

新国立劇場バレエ団の芸術監督デヴィッド・ビントレー振付、ベンジャミン・ブリテン音楽による新作『パゴダの王子』の制作発表が行われた。
振付のビントレー、美術のレイ・スミス、照明の沢田祐二、皇帝役で特別出演する能楽師の津村禮次郎に、小野絢子、福岡雄大、長田佳世、米沢唯、菅野英男、湯川麻美子、川村真樹、本島美和、M.トレウバエフという、記者発表の当日の朝に脚の故障で降板が発表された王子役の山本隆之以外の、豪華なスタッフとダンサーの顔ぶれが雛壇に並んだ。新国立劇場バレエ団がこの作品に賭ける意気込みが感じられる制作発表となった。

1109pagodas01.jpg 撮影/瀬戸秀美

まずビントレーが、英国バレエ界の大立て者だった故ニネット・ド・ヴァロワにこの作品の振付を薦められた話、バレエにはそれぞれの文化的な背景が必要だが、この新作『パゴダの王子』は、英国と日本の文化を融合するものとしたい、といった作品の趣旨説明があった。
今年『War Horse』(演劇)でトニー賞を受賞したレイ・スミスは、ビントレーから美術で物語を語ってほしい、と言われて、鎖国や日本の美などいくつかのテーマを与えられたこと。またこのバレエの作曲者ブリテンは、英国の独特の世界をイメージして作曲を進めていたが行き詰まり、旅に出てガムランの音楽に出会い、この豊かな曲を完成することができたこと。スミスは25年前に来日して以来、歌舞伎、文楽、能に深い関心を持ち、歌川国芳の美術展も観ているので、ブリテンのひそみにならって、このサラマンダー的世界と歌川国芳の美の融合を果たしたい、と語った。具体的には日本の伝統的衣裳をダンスにどのように用いるかには大いに苦労したそうだ。

続いてダンサーたちがそれぞれコメントを語った。時間の関係で一人一分以内に制限されていたが、かい摘まんでご紹介する。
さくら姫を踊る小野絢子は「『アラジン』よりもさらにアイデイア豊富でおもしろいです。でもこの音楽で踊るのはなかなか難しいです」。
王子役の福岡雄大は「世界初演の作品の主役を踊るので緊張してます」。
さくら姫の長田佳世は「日本人だけど能のことなど良く知らないので、ビントレーさんとどんなコラボレーションになるのか楽しみです」。
やはりさくら姫の米沢唯は「新しい大作が少しづつ出来上がっていくのが見られて楽しい。私はビントレーさんの絵に色を塗っていく感じです」。
王子の菅野英男は「ビントレーさんの作品の主役を踊るのは初めて。一生懸命やります」。
女王エピーヌを演じる湯川麻美子は「まず、ビントレーさんに<エピーヌ・イズ・ベリー・バッドウーマン>と言われました。悪役は初めてですが人間を超越したものを表したいです。次々と姿を変える七変化みたいなところもあるのでセットの中ではどのように見えるのか、とっても楽しみです」。
同じエピーヌ役の川村真樹は「<悪>をダンサーとしてどう表現していくのか、重要人物なのでとてもやりがいがあります」。
もう一人のエピーヌ役の本島美和は「悪役には憧れていました。執念深い人間の負の部分のパワーを表したい。また悪役が倒されるシーンでは自分がどう死んでいくのか、楽しみにしています」。
皇帝役のトレウバエフは「とてもスパイシーな役で興味深いです。皇帝役は津村禮次郎さんとダブルキャストなので教えてもらいながら頑張ります」。ということだった。やはり、実際に踊るダンサーは、役作りのために具体的に肌で感じ、考えているので、それぞれのコメントが興味深かった。

1109pagodas02.jpg 撮影/瀬戸秀美

会見終了後には、公開リハーサルが行われた。
第2幕のさくら姫がパゴダの国へと旅する途中で継母の女王エピーヌが邪魔をする場面。旅では、火の中やら雲が出てくる天空などさまざまな場面があるが、その海のシーンがビントレーの指導のもとにリハーサルされた。
ダンサーはエピーヌ役の湯川麻美子と厚地康雄、貝川鐵夫、そして本島美和と芳賀望、古川和則の二つのグループが、それぞれに振りを行った。エピーヌ役を二人でリフトして、回転させながら下ろすという、かなり複雑な動きとバランスが要求されるところ。ビントレーの指導方法をダンサーたちがよく理解していて、次第に3人の役割が決まり、動きの流れが創られていった。ダンサー個々の身体性よりも物語の流れが優先して創られる、ビントレーらしいリハーサルだった。

ジョン・クランコが19世紀のプティパが完成したバレエの変革を志して構想し、ベンジャミン・ブリテンに作曲を委嘱した『パゴタの王子』。その後、クランコに兄事していたマクミランが、クランコへのレクイエムとして振付けたが、成功を収めることができなかったこのグランド・バレエに、ビントレーが挑む。
ビントレーはこの『パゴダの王子』を、日本の龍神の玉取りの神話を描いた歌川国芳の浮世絵からインスピレーションを得て創るという。その構想に沿って、能楽師、津村禮次郎が特別出演することになった。
英国と日本にをバレエ芸術により、文化的な絆で結ぼう、というやや構想が肥大化しているのではないか、と懸念がないではないが、期待を込めてその新しい力作の世界初演の幕開きを待とう。

1109pagodas03.jpg 撮影/瀬戸秀美
1109pagodas04.jpg 撮影/瀬戸秀美