ローザンヌ国際バレエコンクール2018ファイナル 1位にシェイル・ワグマン(カナダ)

第46回ローザンヌ国際バレエコンクールの決勝が行われた3日、21人の決勝進出者の中から入賞者8人が選出された。1位を射止めたカナダ人のシェイル・ワグマン(17)の高い技術と豊かな表現力は群を抜いており、踊り終わるや客席からブラボーの歓声と拍手が起こり、しばらく鳴り止まなかった。2、3、5位を勝ち取った韓国、中国の女性ダンサーの優美なクラシックの踊りにも観客は酔いしれた。小池バレエスタジオの森脇崇行(15)と大木愛菜(17)は、惜しくも入賞を逃した。

発表直後のカーテンが降りた舞台の上で、1位のメダルを胸にしたシェイル・ワグマンは感動で涙ぐんでいた。「このメダルが自分の胸で輝いていることがまだ現実とは思えない。ローザンヌに出ることが小さい頃からの夢で、それがかなった上にメダルまで受けるとは...」とまだ興奮のただ中にあった。

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感動で涙ぐんでいるワグマン 撮影・里信邦子

 ワグマンは6日間のコーチでも人目を引いた。あるときはコーチのパトリック・アルマンにクラシックの『ドン・キホーテ』第3幕バジルのバリエーションを指導され、何度も質問をして細部をやり直し、その後自ら進んで全部を踊った。その瞬間、周囲の関係者から思わず拍手が起きた。こうした姿を初日からじっと見詰めていた人が4年間彼を指導してきたプリンセス・グレース・アカデミーの芸術監督ルカ・マサラ。「シェイルはとにかくバレエが大好きで、だから何でも吸収しようといつも一生懸命。働きすぎる時がある。それに17歳にしては人間ができていて、他人を思いやる優しさと寛大さを持っている」と褒めた。
ワグマンの優れた表現力に関しては、「実は表現が大げさすぎるところもあって、抑えて抑えてと、この1週間言い続けた」と微笑む。そして、シェイルだけでなく他の生徒にも「ダンサーとは何か? 結局、寛大さに溢れた人間になって観客に喜びを感じて貰う職業だ」と言い続けていると話した。
入賞者の中でも特に1位は自分の行きたいカンパニーを選ぶことができる。ワグマンは、イングリッシュ・ナショナル・バレエに行きたいと話した。

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同じバレエ学校のナム・ミンジとワグマン
撮影・里信邦子

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右端がワグマン、隣に指導者のルカ・マサラ
撮影・里信邦子

惜しくも入賞を逃した森脇崇行と大木愛菜に対し、審査委員の1人だった加治屋百合子は、「2人は非常に高いレベルにあり将来とても有望なダンサー。今年はたまたま他のダンサーのレベルが彼らより多少高かったので選ばれなかっただけ。決勝進出者21人の中に選ばれたことだけで素晴らしい。それは一つの到達点に達しているということ。だからこのことを栄養にしてぐんぐん成長していって欲しい。素晴らしいバレエ人生はこれから花開く。可能性は無限にある」と激励した。

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ファイナリストの大木愛菜と森脇崇行 撮影・里信邦子

大木は、「自分としてはコンテンポラリーが昨日よりよく踊れたと思うし、クラシックが昨日よりよかったと言ってくれる人もいて、今日は全力を出せた。だから入賞しなくても悔いはない。ここまで残れ21人のファイナリストに選ばれただけでも嬉しい」と、しっかりと明るくコメントした。

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5位のチャオ・シンユエ 撮影・里信邦子

今回、シェイルに続く5位までの入賞者は、韓国人2人と中国人2人だった。その内3人が、背が高く均整の取れた身体をもち、テクニックの上でも表現力においても優れた美しいダンサーたちだ。2位の韓国のパク・ハンナ、3位の中国のグオ・ウェンジン、同じく中国人で5位チャオ・シンユエは、それぞれが特にクラシックにおいて、ポジションがきちんと決まり音楽性にすぐれた繊細で優雅な踊りを展開した。
副審査委員長を務めたニーナ・アナニアシヴィリは、3日目のインタビューで「今年は、中国と韓国のダンサーたちがロシアのクラシックの伝統を受け継いで、表現力豊かに優雅に踊ってくれているので見ていて気持ちがいいし、嬉しい」とコメントしていた。

 そのため、アナニアシヴィリが入賞の喜びに沸いているアジアの女性ダンサーたちのところへ近づいてきた時、筆者は先輩のトップダンサーとしてテクニック的なアドバイスをして激励するのかと思った。するとアナニアシヴィリは「あなたたちはみんな美しい。それなのにどうして厚化粧するの? 目の周りなんかアイシャドーで真っ青じゃない。お化けみたいに見えてしまうのよ」と真剣に言った。英語が理解できないダンサーもいて、アナニアシヴィリは自分の目の周りに手をやって、何度もこう言っている。その姿に、「受け継いできたロシアバレエの伝統を若いダンサーに伝えていくのが自分の任務だと思っている」と語っていた言葉を思い起こした。

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副審査委員長のアナニアシヴィリ 撮影・里信邦子

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ダンサーにメイクのアドバイスするアナニアシヴィリ
撮影・里信邦子

 最後に、審査委員長を務めたオランダ国立バレエの芸術監督テッド・ブランセンは今年のローザンヌ国際バレエコンクールを総括して次のように話した。「今年はここ2、3年で一番レベルが高かったように思う。一方、毎日生徒の踊りは伸びていった。そして昨日も今日も舞台の上に立つとまるで別人のように高い表現力を発揮する生徒もいて、われわれ審査員を驚かせた。そういう驚きは嬉しいものだ。たくさんのことを吸収して毎日伸びていく姿こそ、ローザンヌ国際バレエコンクールの真髄なのだから」

第46回ローザンヌ国際バレエコンクール2018入賞者
1. シェイル・ワグマン WAGMAN Shale / カナダ/ 17歳9ヶ月
2. パク・ハンナ PARK Hanna / 韓国 / 15歳5ヶ月
3. グオ・ウェンジン GUO Wenjin / 中国 / 16歳8ヶ月
4. リ・ユンス LEE Junsu / 韓国 / 16歳1ヶ月
5. チャオ・シンユエ ZHAO Xinyue / 中国 / 17歳11ヶ月
6. ミゲル・アンヘル・ダビド・アランダ・マイダナ ARANDA MAIDANA Miguel Angel David / パラグアイ / 18歳6ヶ月
7. カロリネ・ガウボン GALVAO Carolyne / ブラジル / 17歳5ヶ月
8. アヴィヴァ・ゲルファー=ムンドゥル GELFER-MÜNDL Aviva / アメリカ/ 16歳1ヶ月

 

ステージ & ワークショップ/コンクール

[ライター]
里信邦子

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