2018 パリ・オペラ座バレエ昇級コンクール詳報

2018年度コール・ド・バレエ昇級コンクールが3月2日、3日にオペラ・ガルニエで開催された。くじ引きにより、苗字の頭文字がアルファベットのUからのスタート。男女ともコリフェの空席数が2、スジェの空席数が2、プルミエの空席は1という、狭き門だった。

この数年、12月ではなく11月に開催されていた昇級コンクールだが、2018年度は諸般の事情から秋の開催が無理で3月となったそうだ。11月に開催の場合は9月に入団したてのダンサーたちはまだ正式団員ではないためコンクールに参加できないが、今回は 研修期間が終わり正式団員となっているために 参加ができることになった。カドリーユのコンクール参加者数が通常より多かったのは、それゆえである。なお、11月のコンクールの場合は翌年1月1日が昇級日なのだが、今回のコンクールで昇級を決めたダンサーたちがいつから新しい級に正式に上がるのかは今のところ発表されていない。
以下に昇級者とその自由曲、そして毎回発表される6位までの席次を紹介しよう。

◎女性カドリーユ(コリフェ空席2/ 参加者17名)
課題曲 レオ・スターツ『祭りの夜』
1 .Caroline Osmont (キャロリーヌ・オスモン)コリフェに昇級
自由曲モーリス・ベジャール『アレポ』
2. Bianca Scudamore(ビアンカ・スクダモア)コリフェに昇級
自由曲 ハロルド・ランダー『エチュード』
3. Naïs Duboscq (ナイス・デュボスク)
4. Seohoo Yun(セオホー・ユン)
5. Célia Drouy(セリア・ドゥロイ)
6. Héloise Jocqueviel(エロイーズ・ジョクヴィル)

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キャロリーヌ・オスモン
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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ビアンカ・スクダモア
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

◎女性コリフェ (スジェ空席2/ 参加者8名)
課題曲 ピエール・ラコット『パキータ』のグラン・パ
1. Roxane Stojanov(ロクサーヌ・ストヤノフ
スジェに昇級
自由曲 ルドルフ・ヌレエフ『白鳥の湖』
2. Aubane Philbert(オーバーヌ・フィルベール)スジェに昇級
自由曲 ローラン・プティ『カルメン』タヴェルナのヴァリアション
3. Juliette Hilaire(ジュリエット・イレール)
4. Charlotte Ranson(シャルロット・ランソン)
5. Jennifer Visocchi (ジェニフェール・ヴィゾッキ)
6. 該当者なし

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ロクサーヌ・ストヤノフ
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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オーバーヌ・フィルベール
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

◎女性スジェ(プルミエール・ダンスーズ空席1/ 参加者9名)
課題曲 アグリッピーナ・ワガノワ『ディアナとアクテオン』

プルミエール・ダンスーズへの昇級者なし

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◎男性カドリーユ(コリフェ空席2/ 参加者10名 )
課題曲 ピエール・ラコット『ラ・シルフィード』第1幕のヴァリアション
1. Axel Magliano(アクセル・マリアーノ)
コリフェに昇級
自由曲 ジュール・ペロー&ジャン・コラリ『ジゼル』第2幕
2 . Simon Le Borgne(シモン・ル・ボルニュコリフェに昇級
自由曲 ウィリアム・フォーサイス『パ・パーツ』
3. Isaac Lopes-Gomes(イザック・ロペス= ゴメス)
4. Andrea Sarri(アンドレア・サリ)
5. Giorges Foures(ジョルジオ・フーレス)
6. Julien Guilemard (ジュリアン・ギユマール)

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アクセル・マリアーノ
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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シモン・ル・ボルニュ
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

◎男性コリフェ(スジェ空席2/ 参加者9名)
課題曲『オネーギン』第2幕レンスキーのヴァリアション
1. Francesco Mura(フランチェスコ・ムーラ)スジェに昇級
自由曲 ルドルフ・ヌレエフ『ドン・キホーテ』第1幕最初のヴァリアション
2. Pablo Legasa(パブロ・レガサ)スジェに昇級
自由曲 ハロルド・ランダー『エチュード』マズルカ
3. Thomas Docquir(トマ・ドキール)
4. Hugo Vigliotti(ユーゴ・ヴィリオッティ)
5. Mickaël Lafon (ミカエル・ラフォン)
6. Alexdandre Gasse(アレクサンドル・ガース)

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フランチェスコ・ムーラ
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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パブロ・レガサ
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

◎男性スジェ (プルミエ・ダンスール空席1/ 参加者7名)
課題曲『マノン』第1幕 デ・グリユーのヴァリアション
1. Paul Marque(ポール・マルク)プルミエ・ダンスールに昇級
自由曲 ルドルフ・ヌレエフ『ライモンダ』第3幕ジャン・ドゥ・ブリエンヌ
2. Jérémy-Loup Quer(ジェレミー=ルー・ケール)
3. Marc Moreau(マルク・モロー)
4. Daniel Stokes(ダニエル・ストークス)
5. Allister Madin (アリスター・マダン)
6. Fabien Révillion(ファビアン・レヴィヨン)

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ポール・マルク
photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris

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ポール・マルク
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

3月2日に開催されたのは女性のコール・ド・バレエのコンクール。コリフェへの昇級を1位で獲得したキャロリーヌ・オスモンは2009年に入団した、美形のダンサーである。これまで彼女の個性が生かされることはあまりなかったのだが、ちょっとコミカルな面を持つキャロリーヌに目を止めたのはアレクサンドル・エクマン。昨年12月に公演のあった『Play』で、ボールを散らかす子供たちを叱り付ける指導者といった風に舞台上で一人セリフをしゃべり続けていたキャロリーヌは、強い印象に観客に残した。自分の道が見えた、という感じに今回の自由曲に演技者的一面がものをいう『アレポ』を彼女が選んだのは、正解だったようだ。課題曲は丁寧に踊る姿が美しかった。

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キャロリーヌ・オスモン
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 2位のビアンカ・スコダモアは昨年の学校公演で、すでに注目を集めたダンサーである。課題曲『祭りの夜』は技術的に見せ所が多く含まれていて、特にピアノ演奏が始まってから舞台に登場するので存在感が問われる。その点でビアンカは大きく他者を引き離していた。彼女の自由曲は、難易度の高い『エチュード』。自信のほどを感じさせる セレクションではないだろうか。最後にちょっとしたミスがあったものの、見る者をひきつける魅力あるパフォーマンスだった。明るい笑顔、舞台上で輝きの持ち主の彼女は、オペラ座の将来の明るい希望である。

3位のナイス・デュボスク。 上層部の期待を担ったダンサーであることは、『オネーギン』のオルガ役に配されたことですでに明快だが、あいにく今回の昇級は叶わなかった。4位のセオホー・ユンは、課題曲でも自由曲(『パキータ』)でもしっかりとしたテクニックの持ち主であることを証明。表現力にいささか欠けることから、4位にとどまったのだろう。
昇級は果たせなかったがエロイーズ・ジョクヴィルとクレマンス・グロは自由曲において語るべき物を持つダンサーであることを感じさせた。今後コール・ド・バレエの中でどのような活躍をするかに期待しよう。

女性コリフェの課題曲は『パキータ』のヴァリアションだった。たいそうなテクニックを要するラコットの振付に、参加者全員が苦戦した様子だ。もっとも審査員からすると、こうした課題曲はダンサーを判定しやすいものなのだろう。その中で健闘したのは、カトリーヌ・ヒギンズ、シャルロット・ランソン、そしてロクサーヌ・ストヤノフだった。

1位で昇級を決めたロクサーヌが自由曲に選んだのは『白鳥の湖』で、テクニックと芸術面にみるべきものがあり、このヴァリアションを踊りこんでいるように見えた。2位で上がったオーバーヌ・フィルベールは2004年の入団なので、14年目のキャリアを持つダンサーである。課題曲、自由曲の『カルメン』ともに強い印象を残すパフォーマンスとは言い難かったが、舞台数をこなしているダンサーだけあり、無難にまとめていた。

3位のジュリエット・イレールはオペラ座ではクラシック作品より、コンテンポラリー作品に配役されることが多い。ショートパンツ姿で重心を床近くに構えて、といった踊りで彼女を見慣れている目を驚かせるかのように、 課題曲はジェローム・ロビンズの『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』。柔らかなドレスで軽快に、感情をこめて舞台空間を流れるように移動し、魅力的なダンスを見せた。

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ロクサーヌ・ストヤノフ
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

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オーバーヌ・フィルベール
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 2日午後はプルミエール・ダンスーズの1席をめぐり、女性スジェ9名が競ったのだが、該当者なし、という結果に終わってしまった。コンクールの規定にあるように3回のやりなおし投票の結果、誰も絶対過半数を得られなかったということである。参加者をコンクール登場順に 名を挙げると、リディ・ヴァレイユ、イダ・ヴィーキンコスキ、マリオン・バルボー、エロイーズ・ブルドン、アリス・カトネ、シャルリーヌ・ジゼンダネ、ファニー・ゴルス、シルヴィア・サン=マルタンといういずれも日頃舞台での活躍がめざましい9名。しかし、それはスジェとしてである。果たしてこの中の誰がプルミエール・ダンスーズとしての器の持ち主かというのを計るために、アグリッピーナ・ワガノワの『ディアナとアクテオン』という テクニック的に難題な課題曲にしたのであろう。この作品はパ・ド・ドゥなので、日頃オペラ座で踊られる機会がない作品。正確さがダンスの美しさを生む、と思わせたのはシャルリーヌ・ジゼンダネだった。さらに彼女は自由曲の『ドン・キホーテ』でも、文句のつけようのない素晴らしいテクニックを披露。 このコンクールは彼女にとって昇級の好機だったのだが、残念なことだ。

さて、前回のコンクールで自由曲にマッツ・エックを選んだエロイーズ・ブルドン。クラシックが、今回はクラシックの王道たる『眠れる森の美女』で挑戦。美しいポール・ド・ブラは健在で、また、課題曲では他の参加者には見られなかった一瞬の中にディアナが弓を引くポーズを彼女はきれいに見せ、作品にしっかりと意味を持たせたことが印象的だった。シルヴィア・サン=マルタンは『カルメン』の寝室のヴァリアションを自由曲に選び、可能性の大きさを見せた。下馬評の高かったマリオン・バルボーの自由曲は、『ジゼル』の第一幕のヴァリアション。プルミエール・ダンスーズへの昇級をかけたコンクールとしては、見せ所に欠ける物足りないセレクションだったといえる。
オペラ・ガニルエでは『オネーギン』、オペラ・バスチーユでは『ミルピエ/ベジャール』が踊られている時期のコンクール。9名全員がどちらかに配役されている。準備も大変だったろうし、またコンクールの前夜は両劇場で公演があり遅くまで働いていた彼女たち。こうして頑張った身にとって、該当者なしという結果を受け入れるのは辛いことだったのではないだろうか。

3月3日は男子コール・ド・バレエのコンクール。カドリーユの課題曲は、『ラ・シルフィード』の中でも最もテクニックを要求するジェームスの最初のヴァリアションだった。それゆえに、各人の技量の違いは一目瞭然。テクニック的に素晴らしかった上位3名において、アクセル・マリアーノは正確さ、シモン・ル・ボルニュは力強さ、イザック・ロペス=ゴメスは清々しさというプラス・アルファーの違いが面白かった。2014年に入団したアクセルが自由曲の『ジゼル』でみせたのは、 優美な爪先の仕事、第5ポジションのドゥミ・プリエの美しい着地。今後、彼のクラシック作品での活躍に期待しよう。2位のシモン・ル・ボルニュは2016年5月にダンサーインタビューで紹介したときは、まだ臨時団員だった。もっぱらコンテンポラリー作品に配役されている彼であるが、課題曲のピュアなクラシック作品を下肢の強さを生かし、跳躍もきれいに決めていた。自由曲はフォーサイスの『パ・パーツ』で彼の得意な分野である。舞台空間を満たす大きな踊りだった。自由曲でいえば、イザックの『エチュード』、アンドレア・サーリの『リーズの結婚』も良い出来であった。

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シモン・ル・ボルニュ
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

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アクセル・マリアーノ
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 次のクラス、コリフェの課題曲は『オネーギン』第2幕のレンスキーのヴァリアション。今回のコンクールでテクニック的に難しい課題曲が続いたのに対し、このクラスではテクニックより芸術性を問う課題曲が選ばれた。1位はフランチェスコ・ムーラ。2015年に入団し、初のコンクールでコリフェに上がり、そして今回の二回目のコンクールでスジェに、と、とんとん拍子でオペラ座のピラミッドを上がっている。昨年の年末公演『ドン・キホーテ』ではジタンの首領役を精悍に、動物的に踊り、満場の拍手を得た彼。今回の課題曲ではテクニックに優れているだけでなく、表現者としても優れていることを見せる機会となった。自由曲にはいつか主役を踊りたいと夢見ている『ドン・キホーテ』からのヴァリアション。丁寧さと敏捷さが共存する完成度の高いパフォーマンスだった。

2 位のパブロ・レガサ。自由曲の『エチュード』のマズルカを確実なテクニックを見せながら、なんと伸びやかに踊ったことだろう。彼のパーソナリティが感じられる踊りは目に快適だった。空席が3つあったら、と思わずにはいられなかったのは、3位のトマ・ドキールだ。また4位のユーゴ・ヴィリオッティは素晴らしいテクニシャンであり演技者なのだが、なかなかその真価を発揮できるチャンスに恵まれていない。コンクールは自分の可能性を上層部に知らしめる機会だと語るダンサーが多いが、彼が踊った深みのあるレンスキーのソロ、 『アルルの女』のフレディのソロは正にそれだった。女性のコリフェに比べ、男性のコリフェの層の厚さが感じられ、なかなか見応えがあった。

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フランチェスコ・ムーラ
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

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パブロ・レガサ
photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 午後はスジェ7名がプルミエ・ダンスールの1席を競った。課題曲の『マノン』もテクニック的に難易度の高いというタイプではなく、パーソナリティをいかに演じるか、という芸術的クオリティや感情表現を問うヴァリアションである。ポール・マルクとジェレミー=ルー・ケールという7名中の最年少2名が、テクニック面での巧みさ、そしてデ・グリューのマノンへの高揚する思いを感じさせた。二人とも『オネーギン』でレンスキー役を踊ったばかりである。良い配役を得て、彼らは上層部の期待通りに着実に成長しているということだろう。ジェレミー=ルーは自由曲の『フォー・シーズンズ/ 秋』をテクニックに振り回されることなく余裕を持って踊り、過去のコンクールではみせたことのない自信を感じさせた。プルミエ・ダンスールの空きが2席あれば、と思った人は多いことだろう。

昇級を決めたのはポール・マルク。入団以来毎年上がっている彼で、これは下馬評通りであった。自由曲には技巧満載で、コンクールで課題曲に使われることもある『ライモンダ』第三幕のヴァリアションを選んだ彼。技術的に優れ、また優美に踊る自分を知っての選択だ。舞台空間をしっかりと埋める存在感、常にア・プロンの安定した姿勢、これ以上は望めないというしなやかな爪先・・・文句なしに美しいパフォーマンスだった。昨年末は『ドン・キホーテ』ですでにヌレエフ作品の主役を体験済みの彼。今後エトワール任命の時まで、彼がどのように配役されてゆくかを楽しみにしたい。
前日の女性のコンクールが少々貧弱に感じるほど、この日の男性のコンクールは見応えのあるものだった。両日に共通していたのは、自由曲にピュアなクラシック作品を選んだダンサーが多かったことだろうか。最後に今回のコンクールの審査員を以下に紹介しよう。バレエ団員の審査員は抽選によって選ばれた5名。彼らはコンクールに参加せず、参加者の指導に関わらないのが条件となっている。

審査員
ステファン・リスネール(パリ・オペラ座総裁)
オレリー・デュポン(パリ・オペラ座バレエ団芸術監督)
クロティルド・ヴァイエ(パリ・オペラ座バレエ団バレエ・マスター)
エリック・キユレ(ボルドー国立オペラ座バレエ団芸術監督)
アンジュラン・プレルジョカージュ(振付家、エクサン・プロヴァンスのPavillon Noir芸術監督)
ミリアム=ウルド・ブラーム(パリ・オペラ座バレエ団エトワール)
ローラ・エッケ(パリ・オペラ座バレエ団エトワール)
シリル・ミティリアン(パリ・オペラ座バレエ団スジェ)
ローレーヌ・レヴィ(パリ・オペラ座バレエ団コリフェ)
エルワン・ル・ルー(パリ・オペラ座バレエ団カドリーユ)

ステージ & ワークショップ/コンクール

[ライター]
大村 真理子

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