英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2017/2018 気鋭の3人の振付家による「バーンスタイン・センテナリー」がいよいよ公開される

6月8日には、英国ロイヤル・オペラ・ハウスのシネマシーズンとして、ロイヤル・バレエの3人の振付家が振付けた「バースタイン・センテナリー」が、北海道から福岡まで各地の映画館で公開される。
この「バーンスタイン・センテナリー」は、ヘルベルト・フォン・カラヤンと並び称された20世紀の偉大な作曲家、指揮者、ピアニストでありニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の音楽監督を務めたレナート・バーンスタインの生誕100年を記念して、ロイヤル・オペラ・ハウスで上演された。
周知のようにバーンスタインは、小澤征爾、佐渡裕などの日本の作曲家にも影響を与え、札幌ではPMFを行って音楽家の育成にも努めている。彼の音楽は折衷主義とも言われ、ジャズからユダヤ音楽まで様々な音楽が採り入れて構成し、多くの名曲を生んだ。バレエでは『ファンシー・フリー』をはじめ『ウエスト・サイド・ストーリー』に至るまで、ジェローム・ロビンズとともに多くの傑作を生んでいる。

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Corybantic Games. Artists of The Royal Ballet. © ROH, 2018. Photographed by Andrej Uspenski

 「バーンスタイン・センテナリー」は、ウェイン・マクレガー、リアム・スカーレット、クリストファー・ウィールドンという英国ロイヤル・バレエが誇る3人の気鋭の振付家が、バーンスタインの音楽と人生をモティーフに振付けた作品によるトリプルビル。マクレガーは「チチェスター詩篇」により『幽玄 Yugen』を振付け、ウィールドンは「セレナード(プラトンの饗宴による)」によって『コリュバンテスの遊戯』を振付け、ともに世界初演を行った。スカーレットの交響曲第2番「不安の時代」による『不安の時代』は、2014年に初演されたものである。
マクレガーの『幽玄』では、高田茜と桂千里が踊り、ウィールドンの『コリュバンテスの遊戯』では『冬物語』でも主演した平野亮一が出演している。日本人ダンサーたちが活躍する姿を大画面で見ることができるのは大きな楽しみだ。

最初はマクレガーの『幽玄』で、1965年に作曲された合唱曲「チチェスター詩篇」に振付けている。この曲は、英国のチチェスター大聖堂に委嘱されたもので、旧約聖書の「詩篇」を題材としている。
マクレガーの振付は、大きな長方形の透明なボックスが左右移動する背景の中で、ゆるい赤い衣装を着けた11人のダンサーによって踊られる。自在にダンサーたちが動き波のようなラインを描き、高らかな合唱と共振する。この波動のような流れのことを<幽玄>というのだろうか。
スカーレットの『不安の時代』は交響曲第2番「不安の時代」に振付けたもの。20世紀に詩人、W.H.オーディンの詩に触発された音楽で、第二次大戦中のニューヨークで女性1人と男性3人が登場する。4人はバーで酒を飲みながら、自分たちの人生と戦争と信仰喪失の問題などをそれぞれ語る。

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The Age of Anxiety Sarah Lamb & Alexander Campbell
© ROH. Photographed by BIll Cooper

 サラ・ラムとアレクサンダー・キャンベル、ベネット・ガートサイド、トリスタン・ダイアーが踊る。時代の雰囲気を感じさせるバーのカウンターと客席で、4人が闊達に踊る。スカーレットの多彩なダンス・ボキャブラリーが際立って、観念的なことがらがうまく身体表現によって表され観客に実感させるところが実に見事だった。後半はアパートで4人のパーティーが繰り広げられるのだが、「仮面劇」と題されているように、それぞれの心は裏腹。結局、4人は孤独な心を癒されぬままそれぞれの日常に戻って行く・・・。時代性とジャズ的な感覚が鮮やかな印象を残した。
最後はウィールドンが「セレナード(プラトンの饗宴による)」に振付けた『コリュバンテスの遊戯』。「プラトンの饗宴」はエロスについての賢人たちの対話をプラトンがまとめたもので、少年愛や両性具有についても語られている。「コリュバンテス」は、ギリシャ神話の女神キュベレの信奉者たちのことで、楽器を打ち鳴らして踊り狂う儀式を行った。
ギリシャの神殿を現代的にデフォルメしたような装置。まず、美しいヴァイオリンの独奏を男性のペアが踊るのだが、その動きは見事に音楽を表している。さすが、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルを務めていた振付家だ。そして最も感動的だったのは、女性同士、男性同士、女性と男性(ローレン・カスバートソン、平野亮一)の3組のペアがブルーの濃淡を効かせた照明の中で、三組三様に踊る第4楽章。繊細な弦楽の響きから妙なる愛の旋律が、舞台にかかった虹のように描き出される。5つの楽章の造形のコントラストも完璧と思わせ、時にユーモアも秘める、という余裕も見せた。ダンサーたちは、白い衣装にそれぞれ異なった形に黒い布のベルトをあしらっていたが、それはまるで音符たちが音の奏でながら踊っているようでもあった。

英国ロイヤル・バレエでは、アシュトン、マクミラン、ビントレーという20世紀を代表する振付家の後継者が、21世紀のバレエの創造する振付家として確実に成長していることをこのトリプルビルを見て、まざまざと実感させられた。彼らは伝統と創造の2本の柱をしっかりと組み立て、クリエイティヴな21世紀のバレエを作り、世界のカンパニーを着実に一歩リードしている。集客に囚われて(というより他に基準が持てない)、バレエ芸術の核である振付家の育成に一向に取り組もうとしない、どこかの国の国立劇場とは天と地ほどの開きがあるのである。

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Yugen. Artists of The Royal Ballet. © ROH, 2018. Photographed by Andrej Uspenski.

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Tristan Dyer in Liam Scarlett's The Age of Anxiety ©ROH 2014. Photographed by BIll Cooper

ロイヤル・バレエ『バーンスタイン・センテナリー』

『幽玄 Yugen』

■振付:ウェイン・マグレガー
■音楽:レナード・バーンスタイン(「チチェスター詩編」)
■指揮:クン・ケセルス
■出演:フェデリコ・ボネッリ/ウィリアム・ブレイスウェル/ハリー・チャーチーズ/メリッサ・ハミルトン/フレンチェスカ・ヘイワード/桂千里/ポール・ケイ/サラ・ラム/カルヴァン・リチャードソン/ジョセフ・シセンズ/高田茜

『不安の時代 The Age of Anxiety』

■振付:リアム・スカーレット
■音楽:レナード・バーンスタイン(交響曲第二番「不安の時代」)
■指揮:バリー・ワーズワーズ
■出演:サラ・ラム/アレクサンダー・キャンベル/ベネット・ガートサイド/トリスタン・ダイアー

『コリュバンテスの遊戯 Corybantic Games』

■振付:クリストファー・ウィールドン
■音楽:レナード・バーンスタイン(「セレナード(プラトンの饗宴による)」)
■指揮:クン・ケセルス
■出演:マシュー・ボール/ウィリアム・ブレイスウェル/ローレン・カスバートソン/ティエニー・ヒープ/平野亮一/マヤラ・マグリ/マルチェリーノ・サンベ/ヤスミン・ナグディ/ベアトリス・スティックス=ブルネル

<公開> 2018年6月8日(金)よりTOHOシネマズ 日本橋ほか、全国順次公開

※ディノスシネマズ札幌劇場、フォーラム仙台、中洲大洋映画劇場でも公開いたしますが、公開日が異なります。詳しくは公式サイトをご確認ください。

■公式サイト:http://tohotowa.co.jp/roh/

 

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[ライター]
関口 紘一

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