ベジャールの『第九交響曲』復活のドキュメンタリー映画『ダンシング・ベートーヴェン』

『ダンシング・ベートーヴェン』は、20世紀を代表する振付家のひとりモーリス・ベジャールによるバレエ『第九交響曲』を、2014年11月に東京でモーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団が合同で上演するまでの9か月を、双方の本拠地ローザンヌと東京を舞台に描いたドキュメンタリー映画である。1999年を最後に上演が途絶えていたこの大作バレエを15年ぶりに復活させるという一大プロジェクトの過程が、両バレエ団およびズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の入念なリハーサルの様子と、主要なダンサーたち、ベジャール・バレエ団の芸術監督ジル・ロマン、東京バレエ団芸術監督(当時)の飯田宗孝らのインタビューでつづられていく。

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バレエのドキュメンタリー映画というと、作品自体がわずかしか収録されておらず物足りなく思うこともあるが、この映画は違う。『第九』の根幹の部分のリハーサルと本番をしっかり見ることができる。監督のアランチャ・アギーレは1980年代にブリュッセルのムードラ(ベジャールが設立した舞踊学校)で学び、2009年にベジャール没後のバレエ団の奮闘を描いたドキュメンタリー『ベジャール、そしてバレエはつづく』を発表した。ベジャール・バレエの内側にいた人物であるため、全編にベジャールの世界への深い理解と愛が感じられる。

数々のインタビューを行っているのは、ジル・ロマンの娘で女優のマリヤ・ロマン。ジルと元ベジャール・バレエ団員のキーラ・カルケヴィッチの間にブリュッセルで生まれた。いつもそばに両親とベジャールがいる環境で育ち、ファンからも「べべ・ベジャール」(ベジャールの赤ちゃん)と呼ばれて親しまれていたという。彼女は両親にもインタビューしており、特にキーラとの対話には、母と娘ならではの親密な空気が流れている。

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マリア・ロマン

この映画ではいくつかの家族の姿が描かれる。ジル・ロマン一家に加え、妊娠がわかって降板したダンサーのカテリーナ・シャルキナと『第九』の主役であるオスカー・シャコン夫妻に新しい家族の誕生を心待ちにする彼の母。そしてベジャール・バレエ団、東京バレエ団、メータとイスラエル・フィル、栗友会合唱団もそれぞれがひとつの家族といえるだろう。これら4つの家族は、ソリストの歌手も加えて様々な国籍のアーティストから成る総勢350人もの大家族となり、力を合わせて『第九』を創り上げていく。まさに第4楽章の「歓喜の歌」の歌詞、「ひとつになれ、人類よ!」の体現だ。

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ベジャールが2007年11月に亡くなって10年がたち、この『第九交響曲』『ロミオとジュリエット』など、ベジャールの代表作の多くを主演・初演したカリスマ、ジョルジュ・ドンの死からも25年が過ぎた。『第九』の1964年の初演からはもう50年以上になる。しかし2014年の『第九』は少しも色あせていなかった。円と正方形、直線が描かれただけの床で、舞台装置もなく、シンプルな衣装のダンサーのエネルギーのみで『第九』は圧巻の「見る音楽」となった。振付家や縁の踊り手がいなくなっても、すぐれた作品は生き続ける力をもつ。この映画を見れば、ベジャールが残した『第九』は後世に伝えられなければならない20世紀バレエの傑作だ、という思いがきっと強く残ることだろう。

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『ダンシング・ベートーヴェン』
振付:モーリス・ベジャール
監督:アランチャ・アギーレ 
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲『交響曲第9番 ニ短調 作品125』
出演:マリヤ・ロマン、モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団、
   ジル・ロマン、ズービン・メータ
配給:シンカ  協力:東京バレエ団/後援:スイス大使館
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015 (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015

ステージ & ワークショップ/シネマ

[ライター]
森 瑠依子

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