エヴァン・マッキー Text by Evan McKie/訳:香月圭 
[2013.07.10]

エヴァン・マッキーがシュツットガルト・バレエ団の衣装製作部長のディアーネ・エックマンにインタビューしました。

エヴァン・マッキーのシュツットガルト通信 連載第11回
(Principal at Stuttgart Ballet シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)

チャコットDance Cube読者の皆様、こんにちは! ディアーネ・エックマンが担当する仕事は、劇場では最も裏方の仕事ですが、賞賛されない英雄で、踊りに命を吹き込むために絶対に欠かせない部分を担っています。 今回、Dance Cubeの夏の特別企画として、おもしろいこと請け合いの質問を、彼女に尋ねてみることにしました…! すてきな夏をお過ごしください。またすぐにお会いしましょう! 
-----シュツットガルトのエヴァンより


エヴァン・マッキー(以下、E):チャコットDance Cubeの読者に、あなたがしている仕事が何か、説明していただけますか?

ディアーネ(以下、D):そうですね、シュツットガルト国立劇場の衣装・メイクアップ部には、195人の職員がおり、私はすべての活動のちょうど中枢にいます。ダンス部門と、ダンサーたちのための衣装を作る作業チームとの間の適切なコミュニケーションを図るのが私の仕事です。私は、ダンサーや振付師が、衣装について希望することを、作業チームが理解できる専門用語に言い換えることができ、作業の最善を図ることができます。また、衣装の染色から帽子やアクセサリーまですべてを手配し、必要な生地を注文したり、バレエ部と衣装製作間の妥協点を見出すことがよくあります。私にとって重要なのは、それぞれのプロダクションに与えられた予算と限られた時間のなかでやりくりすることです。また、衣装係や仕立職人、靴職人、帽子職人、染色技術者から、シュツットガルト・バレエ団のダンサーや執行部まで、それぞれの仕事がこの部署に要求することについての深い知識を持っていなければなりません。途方もないと思われそうですが、情熱をもって取り組んでいます。

E:週にどのくらい働きますか。

D:週40時間です。でもあっという間に週50時間になってしまいます。週末に仕事を持ち越すことも多いです。

E:大変だったプロダクションを教えてください。

D:ユルゲン・ローゼが担当したものはどれも大変でした…『オネーギン』『眠れる森の美女』など。彼はとても想像力豊かなデザイナーで、バレエ団とはとても長い付き合いなので、最難関レベルに挑戦します。品質や正確な色に極限までこだわって、数十年前の初演時に彼が最初に用いた生地や材料にできるだけ忠実なものを探すのです。衣装を直す際は、細部は非の打ちどころがなく、完璧に合わないといけません。また、クリスチャン・シュプックの『オルフェ』も、とても複雑でした。クリスチャンとエマ・ライオットによるコンセプトとデザインは、贅沢で豪華な時代物の衣装でした。とてもたくさんのスパンコールと大量の刺繍が含まれているので、計算すると、私たちの予算をオーバーすることが分かりました! つまり、私は毎朝4時に起き、スパンコールの縫いつけや刺繍を担当してくれる新しい供給者に会いに行き、豪華に見え、なおかつ、予算内あるいは予算に近い素材を使う方法をリサーチするのです。些細な点すべてにおいて妥協しなければならない、と衣装デザイナーに思わせないようにするのも、私の仕事です。そうに感じさせては、デザイナーの創造力を押さえ込んでしまい、多大なフラストレーションの元となってしまうからです。
最近、デミス・ヴォルピの人気小説をバレエ化した『クラバット』で、プンプットという正体と衣装を変え続けるキャラクターの衣装を作らなければなりませんでした。魔法が現れる瞬間に、一つ一つの衣装が全部合わさって、また別の一つの衣装になるのです! 4~7秒間の衣装変えを私たちがどのように継ぎ目がなく簡単に見せたか、それ以上はお伝えできませんが、これまで担当したなかで最も複雑な衣装だった、ということは言えます。

evan1307.jpgシュツットガルトの劇場で執務中のダイアナ・エックマン © Roman Novitzky

E:衣装作りが簡単な作品はありますか。

D:グレン・テトリーの『春の祭典』は、ダンサーがほとんど何も身に着けないバレエ作品ですが、それでも、生地はすべて、とても特別な方法で染めなくてはなりません。バランシン作品のような「レオタード・バレエ」は、皆さんが思っているほど簡単ではないのです! ダンサーたちから、一人一人、自分独自の体にぴったり合うよう、頼まれますから。

E:あなたのお仕事で、人に気づかれない部分はありますか。

D:この仕事全体は、たいていの人たちから誤解されていると思います! 私が仮縫いの場にいないときは、終日腰かけてコーヒーを飲んでいると思っている人は多いです! 主人だってきっとそう思っているに違いない!(笑)

E:どのようにしてこの仕事に就いたのですか?

D:昔から演劇とファッションがずっと好きでした。衣装専攻学生として学校を卒業する頃、ある女の子のために(日本の)マンガの衣装を作りました。シュツットガルト国立劇場の衣装部総監督がその場にいたことがわかり、「制作アシスタント」として仕事をしないかと私に声がかかったのです。私が劇場に入った頃、バレエの部署では、『ドン・キホーテ』の新しいプロダクションの準備で多忙を極めていました。その特別な時期に、とにかく人手が必要だったため、私はオペラの部署で衣装ミストレスとして働く機会を与えられたのです。早足のステップアップで、その仕事を6週間担当しました。ところが、バレエ衣装部の制作マネージャーが突然妊娠してしまったのです! その頃には、歌手やダンサーとの必要な作業の経験を積んでいたので、今の仕事を与えられたのです。すべてがあっという間に起こり、ありがたいことだと思っています。

E:これまで訪ねた他の劇場とくらべて、シュツットガルトはどう違いますか。

D:これまで拝見した、たいていの劇場よりレベルが高いと思います。私たちは皆、現場で作業しますから、物事がとても早く進み、誰もが新しい挑戦に、熱心に取り組み続けます。共同作業はとてもうまく行っており、お互い学ぶことがあるのです。条件もとてもよく、継続的に自分を生かす機会がたくさんあります。また、私たちの劇場には、「装飾部」という、すべての劇場では一般的でない部署があります。それぞれの部署が、それぞれの技術によって高度に専門化され、作品の質の高さを物語っているように思えます。

E:これまで仕事を一緒にした中で、最も難しい衣装デザイナーはどんな方々ですか。

D:才能が非常に優れたデザイナーとの仕事の上での課題は、彼らが必要としているものを予想し、作品の完成に向けて決定的な、彼らが不在の数週間、彼らに代わって物事を考える、という点です。デザイナーは忙しく、仮縫いと舞台リハーサルのときに飛び込んで来て、飛び出して行く、といった具合ですから! また、ユルゲン・ローゼの衣装には、もう何年も特別に注目しています。クリスチャン・シュプックのバレエ作品で、衣装を担当するエマ・ライオットが、毎回提案する壮大なコンセプトと時代物の衣装はいつも楽しみにしています。ジョン・ノイマイヤーも、私たちに最上レベルのクオリティーを期待するので、その期待に応えなければ!

E:面白いデザイナーはどの方々ですか?

D:エマ・ライオットとはいつも楽しく仕事しています。ウェイン・マクレガーのデザイナーの皆さんとは仕事するのが楽しいです。

E:あなたのお気に入りの衣装は?

D:衣装作りは私の仕事ですが、好きでないのは、バレエ作品やダンサー自身から焦点を奪ってしまう衣装です…これが私の嗜好性です。グレン・テトリーの『ヴォランタリー』と『春の祭典』は大好きです。衣装が「目立ちすぎ」ない代わりに、それぞれの作品の動きと雰囲気を支える必要な部分となっているからです。『春の祭典』の衣装はナディーン・バイリス、『ヴォランタリー』はルーベン・テル=アルトュニアンによるものです。それから、ユルゲン・ローゼの『オネーギン』には心を奪われてしまいました。すべての衣装が華麗で、時代を感じさせないように思えました。

E:「ダンサーの衣装の仮縫い」の過程とは、どのようなものですか。

D:とても面白く、私の日常のルーティンワークのなかで大きな部分を占めます。ダンサーの道具であり楽器となるのは、彼らの肉体なので、仮縫いのプロセスも慎重に進めます。何が身体にとって見栄えがし、何が見栄えしないか、様々な意見があります! 面白いのは、レオタードやタイツには、どの生地が一番快適で使用に適しているか、それぞれのカンパニーによって意見が違うことです…もっと面白いのは、バレエ・ダンサーの身体についてもそれぞれのバレエ団が独自の考えを持っていることです!! それぞれの劇場に個性があり、ご想像のとおり、私は劇場の個性をとても楽しんでいます。

evan.jpg Evan  McKie エヴァン・マッキー

エヴァン・マッキーはシュツットガルト・バレエ団プリンシパル・ダンサーおよびカナダ・ナショナル・バレエ団の専属ゲスト・アーティストである。これまでパリ・オペラ座、東京バレエ団、チリのサンティアゴ・バレエ団、ソウルのユニバーサル・バレエ団に客演した。
マッキーはカナダ人で、1983年トロントに生まれる。「ダンス・ヨーロッパ・マガジン」の「批評家選出」リストに過去10年間で何度もノミネートされる。また、芸術的功績を称し、アプリアルテ賞も受賞した。
マッキーはヴィジュアル・アーティストでもあり、時には執筆も行う。アメリカの「ダンスマガジン」の名誉顧問委員を務める。
エヴァンは、チャコットのウェブマガジンの執筆者になり大変喜んでいる。

Twitter http://twitter.com/EVANMcKIE
YouTube http://www.youtube.com/watch?v=XcOjAqnzJQY&sns=em
WEB Site http://www.evanmckie.com/
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