エヴァン・マッキー Text by Evan McKie/訳:香月圭 
[2013.06.10]

私の身体を大切に扱う方法

エヴァン・マッキーのシュツットガルト通信 連載第10回
(Principal at Stuttgart Ballet シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)

イサドラ・ダンカンが「ダンサーの肉体は、精神の明快な現れである」と述べ、また彼女の身体について、「私のモットーは、限界がないこと」と述べたことが、引き合いに出されたことがあります。何かに注いだ努力とエネルギーは、たいてい、本当に自分に返ってくるものです。この第一の例が、人々がどのように自分の身体を扱うかを示しています。体は私たちに生きる意味を与える器であり、特にダンサーは、私たちの人体構造が様々な要因にどのように影響を与えるかを鋭敏に気づいています。私たちダンサーは、いかなる時にもできる限り肉体的に最高のレベルで、リハーサルを行うだけでなく本番を踊ることを期待されています。たいていの運動選手は、肉体の生来の本能を知覚する方法を探そうと、常に感覚を研ぎ澄ましており、その限界を超えるのです。私はいつも、自分の身体とともに踊り、体が影響を与えること、身体が反応することとともに踊ります。身体というものは、征服するのが生易しくはありません。なぜなら、身体は生きていて、いつも変化しているからです。しかし、私は、常に自分の心と身体の構造を一致させようとしているのに気づかされます。

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心がすべて!
もし私がすごく夜更かしして寝なかったとしたら、私の理性は、様々なステップや状況に遭遇するときも「正気を保っていなければならない」と自分に言い聞かせなければなりません。さもなければ、私の情緒システムはあまりにもでたらめになり、私の踊りと気分は最悪になるでしょう。
私たちダンサーは「完璧な」朝食を摂っておらず、「気分がすぐれない」と思わせる痛みがあることがよくあります。しかし、リラックスし、集中して「なぜ」自分が一流の場所で踊るのかという申し分のない理由を思い出すように、心を鍛えるのは可能なのです。
かつて私は、新しい振付家のオーディションや、技術的に挑戦することを強いる役を準備するときにストレスを感じていたものでした。しかし、落ち着いて安定した調子であるべき唯一のものは、心であることに気づいたのです。カナダ・ナショナル・バレエのあるコーチは、心がリラックスしていれば、身体も自然に反応すると、よく私に思い出させてくれました。心がストレスを感じていたり緊張していれば、身体は動かなくなってしまいます。自分の心を休めるために、ばかばかしいTV番組を見たり、本をたくさん読んだり、静かな散歩に出かけたり、ただ何か(何でも!)したりと、いろんなことをします。普段ならこんなことはしないでしょう。稽古場の外に出て、写真など普段とは異なる創造的なことをすることによって、私は自分の頭のバランスを再び取り戻すこともできるのです。人生のなかで、あるときには、心の健康のために、瞑想も始めることがあるかもしれません。

身体の調整
より良いダンサーになるために、何が自分に効くのかを、私たちは探さなければなりません。もちろん、自分の好きな教師とのレッスンは欠かせませんが、たいていのダンサーは、トレーニングのほかにもいろんな方策を探っています。
成長するにつれて、私が得意で楽しめたスポーツは水泳だけでした。(ボールやパック【アイスホッケーなどで用いるゴムの円盤】を使う球技も面白かったけれど、自分にボールが来るのを突っ立って待つのが嫌いでした…正直に言うと、代わりにピルエットをしたかった。)
とにかく、自由時間には、今でも水泳をする時間をたっぷりとります。そのあとのサウナや蒸し風呂、冷たいシャワーが大好きです。シュツットガルトには、行ってみたい鉱泉がたくさんあります。ジムに行くのも好きです。なぜなら、身体が取り組むのにいつもと違う環境だからです。足首-膝-腰の脚部のためにクロストレーナーの時間をたっぷりとります。
週に一回はウエイトトレーニングをするのが好きです。以前はよくケガしていましたが、ピラティスと出会ってからは、効き目が届きにくいインナーマッスル(深層筋)を強くするのにとても効果的だと分かりました。それは、私のようなダンサーにとっては、ぜひとも必要な発見でした! 私の背中と腰はしなやかで、前後左右にとても動き過ぎる二重関節ですが、ピラティス(特に、改良を加えた後継者たち)のおかげで、翌日バーについた私は新しい人間に変わっていました。ジャイロトニックスが好きな人もいれば、ヨガを好む人もいます。しかし、私はピラティスと、そのエクササイズがどのように作られ、これほど組織的に体系化されていったかを楽しく学んでいます。

食べ物
私は食に関心があります。外食にはしょっ中出かけますし、ツアーに出たときは、それぞれの街の新しい所の味を試してみたいのです。例えばイタリアでパスタやチーズといったものを食べているときと、日本料理のような、乳製品は少なめで、そのぶん魚や牛肉、米などを主体とした料理を食べている時とを比べてみて、自分の身体がそれぞれどういった異なる反応を見せるのかというのも興味深いところです。それぞれの文化の、その国の料理は身体によく、それらを直接堪能できるのは、すばらしいことです。自分で料理をするときは、その地方で育ったオーガニックな食物をたくさん摂るようにしています。とてもスマートな体型を維持しなければならないときは、鶏肉や魚、野菜を摂る機会を増やします。
ヌレエフ版『眠れる森の美女』や『オネーギン』を初めて踊ったときは、身体の回復を早めるためと、翌日のリハーサルに備えて筋肉を整えておくため、乳清たん白質シェイクをよく飲みました。
でも、正直に言うと、食べたくてたまらないときは、チョコレートや、ときにはハリボーグミ・ベアを一気食いするのが、本当に、本当に、本当に大好きなんです!!! ファンや友人からいただいたチョコレートは、劇場の特別な引き出しの中にしまってあり、ときどき、そこを急襲します! 揚げ物だけは控えますが、時間があれば、『カップケーキ戦争 Cupcake Wars』(全米のケーブルTVの番組。カップケーキ作りを競う)や、ドイツの『プロミ・ディナーpromi-dinner』(有名人たちが集まり、それぞれに料理をふるまう)のような料理番組を見るのが好きです。『プロミ・ディナー』では、有名人たちが作るディナーが大失敗だったりするときもあります!!!! 
私がディナー・パーティーを催すときは、よくラクレットというスイス料理がメニューに上ります(ふかしたじゃがいもに溶かしたラクレットチーズをからめて食べる料理)。食卓の上で、自分で作れるからです! これまで学んだもっとも大切な教訓は、朝食を摂ること!! 代謝を高め、一日を通して心と身体から最高のものを引き出すのに必要なものです。


ダンサーは、アドレナリンやストレスのせいで、ハイになったり落ち込んだりするときに、身体がどのように感じるかということに、とても敏感なので、身体を実際に「制御する」、あるいは「抑制がない」状態にする必要性を満たす方法を模索し続けるのは、ダンサーによっては普通のことです。ドラッグというものは誰にとっても危険なもので、いい結果に終わることはめったにないと思います。過去のダンサーたち、そして現在でも何人かはドラッグの刺激を受け過ぎて、いくぶん自身を見失っているのを私たちは皆見てきました。彼らの未来が幸あれと祈る以外、私がとやかく言う問題ではありません。
アルコールについてですが、私はたくさん飲めますが、酔うと態度がとても大きくなります。特にロシアでは、とても変な目に遭いました。でも、いつでも飲酒するわけではありません。好きなのは、とてもおいしいジントニックか重厚で豊かな味わいの赤ワインで、毎日飲まなくても、私の筋肉はそれでいいのです。カフェインは私の生活の大きな部分を占めていますが、果たしてコーヒーが運動選手にいいのかどうか疑問です。コーヒーを大量に飲みすぎると、私自身は気分がいいのですが、私の身体は数時間不安定になり、よくありません。緑茶は好きで、毎日いつでも飲みます。集中するのに効果的なところが気に入っています。それに、デトックス(解毒)するのにはいい方法だと思います(^0^) イブプロフェンを大量に摂るのは、腱の健康のためには、よくないのですが、ときには踊るために必要になるときがあります。免疫システムのためにエキナセアを大量に摂り、筋肉の回復のためにビタミンCを摂ります!

見て学ぶ
私は、自分の身体をどう扱うか、(そしてどう扱うべきではないか)について最良のアイディアを他人から得ます! 友人がレッスンでどう動くか、そして運動選手が試合や競技の前にどのようにウォーミングアップをするのかを見るのは面白いです。皆それぞれ必要なことは異なりますが、お互いから多くを学ぶことができるのです。人はいざ知らず、私はボディローラーやその類をそれほど使いません。なぜなら、私はそれほど凝り固まることがほとんどないからです。足や足首、肩、そして曲がる部分はどこも固定するエクササイズに時間をかけます。
自分のお気に入りの理学療法士がどのように私をマッサージするのかを観察し、彼らに何をしているのかを教えてもらいます。そうすれば、マッサージ師から離れた場所に自分ひとりでいても、自分自身の身体をどのように扱うのか、わかりやすくなります。また、私のテクニックは、何年間にも渡り、レッスンでお気に入りのダンサーたちを観察することによって改善してきました。私たちは皆、自分の身体を大切に扱う方法を模索していますが、それらの方法を取り入れることによってさらに多くのことを得ているのです。毎日の作業ですが、それから得られるものはたくさんあるのです。

※訳文に一部誤りがございましたので修正いたしました。(2013.6.12)

evan.jpg Evan  McKie エヴァン・マッキー

エヴァン・マッキーはシュツットガルト・バレエ団プリンシパル・ダンサーおよびカナダ・ナショナル・バレエ団の専属ゲスト・アーティストである。これまでパリ・オペラ座、東京バレエ団、チリのサンティアゴ・バレエ団、ソウルのユニバーサル・バレエ団に客演した。
マッキーはカナダ人で、1983年トロントに生まれる。「ダンス・ヨーロッパ・マガジン」の「批評家選出」リストに過去10年間で何度もノミネートされる。また、芸術的功績を称し、アプリアルテ賞も受賞した。
マッキーはヴィジュアル・アーティストでもあり、時には執筆も行う。アメリカの「ダンスマガジン」の名誉顧問委員を務める。
エヴァンは、チャコットのウェブマガジンの執筆者になり大変喜んでいる。

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