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関口紘一 
[2017.10.31]

ベートーヴェンの『第九交響曲』が、モーツァルトの『魔笛』が、歌舞伎の『忠臣蔵』が、不世出の振付家、ベジャールによって甦る

20世紀バレエ芸術の巨匠、モーリス・ベジャールが楽聖と称えられたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『第九交響曲』に振付け、世界初演したのは、1964年、ブリュッセルのシルクロワイヤルであった。踊ったのはベジャール率いる20世紀バレエ団。当時のベジャールは『ボレロ』(1960)『ドン・ジュアンを求めて』(1962)『緑の女王』(1963)『ファウストの劫罰』『火の鳥』(1964)などを次々と発表し、圧巻のアーティスティックなイマジネーションを展開し、ダンスのジャンルをはるかに超越して、世界中の尖鋭な芸術家たちの注目を一身に集めていた。また、機会あるごとに「20世紀は舞踊の世紀である」と発言し、バレエ芸術を高らかに称揚し、次々と未だ見たこともないような輝かしい舞台を作り、ヨーロッパを中心に絶大な人気があった。

BBL117.jpg 「ボレロ」photo/Marc Ducrest

そしてベジャールの先鋭な芸術感に敏感に反応する20世紀バレエ団のダンサー、とりわけ若い男性ダンサーたちの活き活きと躍動する美しさは、まさに目を見張るものがあった。振付家モーリス・ベジャールの鮮烈な美意識による天才的振付が、ダンサーの身体を極限まで美しく見せていたのである。その中心にいたのがジョルジュ・ドンだったことは言うまでもない。
『第九交響曲』は、そんな時代に生まれたバレエであった。ところが、ベジャールは過去を振り返ることを嫌い、常に未来に向かって進んでいくことを信条としていたので新作に注力し、合唱とオーケストラ、歌手、80人余りのダンサーによる圧倒的な作品だった『第九交響曲』も、1978年のクレムリン宮殿公演を最後として、いつの間にか過去の評判だけが一人歩きする作品となってしまった。
私がベジャール作品に大いに傾倒し、編集長としてダンスマガジンを創刊したのは、1984年の暮れだったが、そのころ既に『第九交響曲』は、再演不可能と言われ、幻の作品と噂されていたのである。しかし、再演不可能と言われれば言われるほど、観客の「なんとか見たい」というエネルギーは充満し、ベジャールの下にも届いたのであろう。ついに、1999年パリ・オペラ座で再演を果たす。しかし、ベジャールが逝って、ふたたび『第九交響曲』は幻と化した。ところが様々の紆余曲折を経て、この傑作はフェニックスの如く甦った。それも巨匠ズービン・メータの指揮と、日本では唯一ベジャール作品を熱心に継承してきた東京バレエ団とモーリス・ベジャール・バレエ団の共同制作と言う、至高の形の上演により2014年に再演された。誠に世紀の傑作と言うに相応しい宿命を背負い、甦るべくして蘇った舞踊史上特別のバレエ、と言うべきだろう。
映画『ダンシング・ベートーヴェン』は、この2014年の『第九交響曲』の再演を、モーリス・ベジャール・バレエの本拠地と東京バレエ団の拠点に9か月に渡ってカメラをもちこんで撮影した、アランチャ・アギーレ監督渾身のドキュメンタリー映画である。ここでは、生命の誕生の歓喜と人類が平等に生きることの至福が、堂々と力強く踊られていく過程が、じつに闊達に捉えられているのである。

BBL096.jpg 「魔笛」photo/Gregory Batardon

また、今年11月22日はベジャール没後10年である。それを記して<ベジャール10年祭>が、モーリス・ベジャール・バレエ団を迎え、東京バレエ団とともに様々な公演を行う。
まず、モーリス・ベジャール・バレエ団の日本公演は、Aプロは『魔笛』、Bプロは『ボレロ』『ピアフ』、ジル・ロマン振付『アニマ・ブルース』と『兄弟』である。(11月17日〜29日 東京文化会館)
そしてモーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団の合同公演は、ジル・ロマン振付『テム・エ・ヴァリアシオン』とベジャール名作のコラージュによる「ベジャール・セレブレーション」。(11月22日、23日 東京文化会館)
さらに東京バレエ団による ベジャールの『くるみ割り人形』。(12月16日、17日 東京文化会館)となっている。
また、WOWOWのテレビでベジャール関連の放映もあり、「バレエ界を変えた男、モーリス・ベジャール特集」(11月5日)、「バレエ・プルミエール」ゲスト出演:柄本弾、東京バレエ団『ザ・カブキ』の放映も予定されている。

BBL6120.jpg 「ベジャール・セレブレーション」photo/Lauren Pasche

この絶好の機会に、ベジャール作品をいっそう深く体験し、ベジャールにならって未来を見据えて、21世紀のバレエの展望を描いてみてはいかがだろうか。

『ダンシング・ベートーヴェン』
振付:モーリス・ベジャール
監督:アランチャ・アギーレ
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲『交響曲第9番 ニ短調 作品125』
出演:マリヤ・ロマン、モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バ レエ団、ジル・ロマン、ズービン・メータ
配給:シンカ
協力:東京バレエ団/後援:スイス大使館
(c)Fondation Maurice Béjart, 2015  (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015
12月23日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA他にて公開

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BEETHOVEN_sub3.jpg BEETHOVEN_sub4.jpg
BEETHOVEN_sub5.jpg © Fondation Maurice Béjart, 2015  (c)Fondation Béjart Ballet Lausanne, 2015