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児玉初穂 
[2017.05.27]

東京バレエ団がプティの『アルルの女』のリハーサルを公開し、ボニーノ、斎藤監督、ダンサーたちが語った

東京バレエ団は9月に「20世紀の傑作バレエ」と題したトリプル・ビルを上演する。作品はローラン・プティの『アルルの女』、イリ・キリアンの『小さな死』、モーリス・ベジャールの『春の祭典』の3作。前2作はバレエ団初演、さらに『アルルの女』はバレエ団にとって初めてのプティ作品となる。
『アルルの女』は1974年、マルセイユ国立バレエ団で初演された。ドーデの戯曲を、登場人物を絞って舞踊化したもので、ビゼーの付随音楽から組まれた2つの組曲を使用している。今回リハーサルのために、プティ作品のアーティスティック・ディレクターであるルイジ・ボニーノと、アシスタントのジリアン・ウィッテンガムが来日、彼らによる公開リハーサルと記者懇親会が、5月23日東京バレエ団で行われた。
ボニーノはマルセイユ国立バレエ団に所属し、プティの下で35年間、ダンサーとして、またアシスタントとして過ごした。ウィッテンガムはミラノ・スカラ座で10年間プリンシパル・バレエミストレスを勤めた後、6年前ボニーノのアシスタントに就任、世界各地でプティ作品を手掛けている。ボニーノは2週間前から主役ペアを、ウィッテンガムは1週間前からコール・ド・バレエを指導している。

1705_0007.jpg 上野水香 Photo:Kiyonori Hasegawa 1705_0016.jpg 川島麻実子、柄本弾 Photo:Kiyonori Hasegawa

公開リハーサルでは、主役の上野水香、川島麻実子、柄本弾、上野の相手役ロベルト・ボッレのアンダー秋元康臣、男女コール・ド・バレエによる通し稽古が行われた。指導者席にはボニーノ、ウィッテンガム、斎藤友佳理東京バレエ団芸術監督。ボニーノは英語で指導し(通訳:水田陽子)、20年来の教え子上野とは、フランス語でコミュニケーションを取った。
『アルルの女』第1組曲、第2組曲のパストラル、メヌエット中間部以降を、柄本と川島、第2組曲の間奏曲、メヌエット前半を、上野と秋元が踊る。ボニーノは座ったまま、「ブルブル」とか「シュシュ」といった擬音語で指示を出し、ダンサーはそれに敏感に応える。時折曲を止めて、プティ独特の動きのニュアンス、リフトやサポートの方法について指導した。上野と秋元が抱き合う場面では、「大きく腕を開いてしっかり抱き合うように」とのコメント。通し稽古は2回目とあって、主役とアンサンブルのタイミングについても細かい指示が与えられた。秋元のアラベスクを支える女性アンサンブルには、「怖がらずにしっかり触れて、サポートして」。時には冗談も。「ヤスは軽いからリフトは簡単、ダンはお寿司食べ過ぎ、お茶だけ飲みなさい(笑)」など。
主役2組は、それぞれのアプローチをすでに掴んでいるようだった。柄本と川島が佇み、触れ合うだけで、ドラマが立ち上がる。プティの振りが感情を通して消化され、動きに違和感がない。柄本はその場を生きる力、相手と関わる能力が全開となり、そこにいない相手(アルルの女)を追い求める激しさのみならず、目の前にいるヴィヴェットへの包容力をも感じさせた。終幕のソロは、ボニーノの「Very good」という評に尽きる。役を生きた力強さがあった。川島はやや和風のしっとりしたヴィヴェット。愛する人に拒絶される哀しみのなかにも、フレデリを見守る母性のようなものを滲ませている。
一方、上野と秋元は、動きの鮮烈さで役にアプローチした。上野がステップを踏むだけで、プティ独特の動きが空間を異化する。役の感情で動くというよりも、上野の身体を役に与えるといった趣である。プティに見出された歴史を背負った肉体が、そこにあった。

1705_0008.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

記者懇親会には、ボニーノ、ウィッテンガム、斎藤、上野、川島、柄本が出席し、挨拶と公演への意気込みを述べた。

ボニーノ「『アルルの女』は73年、ロイパ・アラウホとルディ・ブリアン(美しかった)が初演しました。ミラノ・スカラ座、ナポリ、フィラデルフィア、ロシア(ワシーリエフが踊った)、ニュージーランド、ロンドンでも上演されました。プティの作品はドラマティックな面にファニーな要素が入りますが、この作品には入りません。人生、愛、人に受け入れられるかどうか、という内容を含んだ、ディープで受け止めるのが難しい作品です。ダンサーは本当に感情をこめて相手に触れなければなりません。
プティからは全てを学びました、35年間です。初めて踊ったのは『コッペリア』の兵士。それまでプティを知りませんでしたが、ステップを踏んだとたんに、恋に落ちました。音楽性、感情、幸福、愛、ユーモアにあふれています。プティが亡くなって(11年没)淋しいですが、この仕事には責任を感じています。最善を尽くすしかありません。プティがやっていたことを忠実に再現するのみです。
(東京バレエ団のダンサーについて)ダンサーたちはひどい、嫌い。ウソウソ(笑)。ここに来られて幸せです。何よりも(斎藤)ユカリがここにいることが素晴らしい。プティは技術だけでなく、感情を出さなければならないので、難しいのですが、ダンサーたちは学ぶのが早いし、集中してくれます。脚を閉じるのも難しい、腰が痛くなるかも(と実演)。
(主役ダンサーについて)ミズカは18歳くらいから知っている、マミコは初めて、ダンが最初ミズカと一緒に踊った時、『アルル』をやったらと言いました。ボッレはスカラ座で18歳から知っています。コール・ドでしたが、プティがパ・ド・ドゥ(のソリスト)に引っ張った。ガラでも『シャブリエ・ダンス』を踊らせました。ファンタスティックで美しい、スターだけどスターぶらないナイスボーイです。」

ウィッテンガム「20年前スカラ座のバレエミストレスの時、『ノートルダム・ド・パリ』でプティのアシスタントをしました。10年間スカラのスタッフをして、ローマ・オペラに移り、カルラ・フラッチと一緒にやっていました。6年前にルイジから、アシスタントにならないかという話があって。夢のようでした、ルイジを尊敬していましたので。(東京バレエ団の)スタジオは静かですね。通常よりも早いスピードで教えています。感情を取り入れるのはあらかた終わり、これから細部を直すところです。やりやすい受け入れ態勢で助かっています。」

斎藤「(プティ作品を入れた理由)昨年のクレムリン・ガラでボッレと水香ちゃんが『アルルの女』の抜粋を踊ったのですが、そのリハーサルに参加させて頂いたのがきっかけです。その時も秋元がアンダーを踊りました。見ているうちに、女性ダンサーには女優になってもらいたいと思い、(柄本)弾にもこれを踊らせたいと思って、導入を決めました。麻実子も現時点で踊るのにふさわしい役ですし。正直な気持ち、ゲストなしでもできると思っています。ルイジもそう言ってくれていて、近い将来実現させたい。(今回踊らない)秋元にも、全てを教えて下さったことに感動しました。
この作品はカルフーニとガニオで見ています。胸が締め付けられるように苦しくなりました。その後、あちこちでプティを見ても胸に刺さるものがない。プティ作品は奥深さを追求するものではないのかとも思ったのですが、今回(リハで)何回泣いたか分かりません。私も水香も麻実子も弾も、皆が泣きました、ルイジの指導で。ルイジがダンサーを愛してくれているのが嬉しい、感謝しています。この作品は99パーセント内面が現れたものです。ダンサーたちには今、変わって欲しい。ルイジについて行って欲しいとさえ思っています。」
(これに対し、ボニーノは「ユカリに踊って欲しい、ユカリは第3キャスト!」とコメント)

上野「牧阿佐美バレヱ団のコール・ド・バレエの時、『アルルの女』のキャスティングがありました。18歳で入ったばかりだったのに、主役級のクラスで、ポアントでやるように言われました。プティはいろんな役を与えて、私を生かそうとしてくださった、育ててくださいました。一番印象的な思い出は、クラスでジャンプした時、小さなスタジオに連れて行かれ、もう一回やるように言われました。『こうではいけない、パとパの間に隙のないよう、そしてクリーンに踊るように』。これが私のベースになっています。ルイジは作品に関わるすべてのこと、バレエに関わる大切なことを教えてくれました。
『アルル』は作品としてもよく知っていて、アンダーもさせて頂いたのですが、ロベルトとパ・ド・ドゥを踊った時、素敵な作品だと改めて思いました。カルフーニとルグリのパ・ド・ドゥを見ていますが、その時のカルフーニが輝いていて素晴らしかった。どのように踊るのかイメージしか分かっていなかったのを、今回細かいところまで教えて頂いたことが、自分にとって大きな経験です。今後は心の表現ができるよう、変わっていかなくてはならないと思っています。改めて新鮮な気持ちで作品に取り組んでいます。」

川島「プティは初めてです。ロビンズ、キリアンなど、新たなものに挑戦したいと思っていましたし、『アルルの女』も踊ってみたいと思いました。これまで抜粋しか見たことがなく、男性のイメージが強かったのですが、今回全幕を踊ってみて、感情的な役割が大きいことが分かってきました。友佳理さんには『形にしないように』と言われています。自分の現実、自分自身の気持ちを反映しないとだめだと分かっているのですが、考えるだけで出し切れない自分がいる。苦しい、けどもっと知りたい、もっと踊りたいという気持ちです。9月までに掘り下げて、相手に向かえるか、ということと、同じようにやってしまうので、それをどう打ち破るかが自分の課題です。こうしたことを他の作品でも追求したいと思っています。」

柄本「プティ作品は以前に、水香さんと『ジムノペディ』と『シャブリエ・ダンス』を踊ったことがあります。その時は“形”をやることだけで精いっぱいでした。『アルルの女』はこれまで踊った『ザ・カブキ』の由良之助や、『ジゼル』のアルブレヒトとは違い、いない相手を求めつつ、いる相手を拒絶する、その距離感がとても難しい作品だと思います。体力的にはハードな作品です。昨日初めて通しでやってみて、終わった後、20分は立てませんでした。毎日踊って体力をつけるように言われています。何よりも、内側からストーリーを語れるようになりたいと思っています。」

先の川島の言葉に対し、ボニーノが「ダン、マミコに嫌いだと言ってやって」と振ると、柄本はすかさず「昨日、麻実子に(嫌いだと)言ってくれと言われました」。さらに斎藤が「自分のお母さんに、お前は嫌いだと言われたと思ってやるの」とコメント。ボニーノは「本当にリアルにやって欲しい、本当に押しのけられたように、愛している人に拒絶されたように」と熱血指導を忘れなかった。翌日帰国するボニーノは最後に、「できるならヴィヴェットとしてこの作品を踊りたい。フレデリも最後に派手な見せ場があるが、ヴィヴェットがとても大事。感情を全て出して、フレデリを振り返らせないといけないから」と作品の真髄を語り、記者懇親会を後にした。

 

1705_0009.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa