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秀 まなか 
[2009.11.20]

女性ダンサーのパリ・オペラ座昇格試験は若手の躍進が目立った

毎年、年越しを意識するころになると、パリ・オペラ座バレエの団員たちに試練の時が訪れる。昇進試験だ。パリ・オペラ座には、上から、エトワール、プルミエ・ダンスール(女性はプルミエール・ダンスーズ)、スジェ、コリフェ、カドリーユの五階級があり、舞踊監督の指名で昇格するエトワール以外は、この昇進試験を受けない限り、昇進はない。例年12月に行われることが多いが、今年は『ジョワイヨ』と『ミルピエ/ポール/マクグレゴール』の公演の合間を縫って11月18日と20日の2日間に亘って行われる。
男女別、各階級ごとに、課題曲と自由曲で争われ、審査員は10人。今年の顔触れは舞踊監督のブリジット・ルフェーブル、メートル・ド・バレエ、舞踊監督補のパトリス・バール、メートル・ド・バレエのクロティルド・ヴァイエ、振付家のピエール・ラコット、ノヴォシビリスク・バレエの芸術監督のイーゴリ・ゼレンスキー、プルミエール・ダンスーズのエヴ・グランシュタイン、プルミエ・ダンスールのアレッシオ・カルボン、スジェのベアトリス・マルテルとジェラルディン・ヴィアール、コリフェのアメリー・ラムルーだ。
まずは、18日に行われた女性ダンサーの昇進試験の結果をお伝えする。プルミエール・ダンスーズ1名、スジェ3名、コリフェ3名の空席を勝ち取ったのは以下の通り。

プルミエール・ダンスーズ:リュドミラ・パリエロ
スジェ:アマンディーヌ・アルビソン=ピヴァ、エロイーズ・ブルトン、サブリーヌ・ウェストルマン
コリフェ:ロール=アデライド・ブコー、オーバーヌ・フィルベール、ヴァランティーヌ・コラサント


コリフェへの昇格を願って受験した19人のカドリーユに与えられた課題はグソフスキーの『グラン・パ・クラシック』。あの超絶技巧のヴァリアシヨンをカドリーユの課題曲にするとはさすが、オペラ座だ。
昇進を果たした3名のうち、日本のファンに馴染みがあるのは、オーバーヌ・フィルベールではないだろうか。『マニュエル・ルグリのスーパーバレエレッスン』の『ジゼル』で登場した21歳の美女である。ちょうど日本で番組が放送された2006年12月に、本国で上演されていた『ジゼル』ではペザント・パ・ド・ドゥをマティアス・エイマン(現・エトワール。当時コリフェで直後の試験でスジェに昇進。)と踊り、これは、と目を見張ったことが忘れられない。回数を重ねるごとに、どんどん良くなり、他日に同役を踊ったミリアム・ウルド=ブラーム、ローラ・エケといった実力者以上の拍手をもらった日もあったほどだ。だが、これほどの逸材でもその後は役に恵まれず、試験にも続けて失敗。今年、自由曲に『ロメオとジュリエット』から1幕の舞踏会のヴァリアシヨンを選んだ彼女が、やっとコリフェの称号を得たかと思うと、オペラ座のレヴェルの高さを改めて痛感させられる。
このクラスのコンクールのための指導者は元エトワールのエリザベット・モーランである。
ジョン・ノイマイヤーの『くるみ割り人形』から2幕のルイーズのヴァリアシヨンを課題にした、コリフェクラスの受験者は12人。公演で舞台に現れる度に、目を奪われずにはいられないロレーヌ・レヴィやエレオノール・ゲリノーを差し置き(彼女たちは次点で落選)、トップで昇進を果たした20歳のアマンディーヌ・アルビソン=ピヴァは去年コリフェに昇進したばかり。2年連続で昇進を果たしたことになる。長身で身体が柔らかい彼女は、2006年の入団直後から注目を浴び、ダンス雑誌で<アマンディーヌの一日>と題した特集を組まれたこともある。今年5月には1度だけだが、5組の男女が集うナチョ・デュアトの『ホワイト・ダークネス』でエトワール、プルミエール・ダンスーズに交じって堂々と踊り切り、この9−10月の『ジゼル』では、ドゥ・ウィリに4回、ペザント・パ・ド・ドゥに1回、抜擢された。
同様に、2年連続で昇進したのは2007年入団のエロイーズ・ブルドン、18歳。バレエ学校時代に主役を踊り、入団試験もトップで通過した優等生で、入団後も一度も足踏みすることなく、昇進するという快進撃を続けている。どことなくロイヤル・バレエのアリーナ・コジョカルに似ている彼女は、入団当初から群舞の端にいても、目立つ存在。全く身体に無理をかけずに、理路整然としたアカデミックな踊りを醸し出すからだ。これからソリスト級の役に使われるに違いない、期待の逸材である。
2人の自由曲はそれぞれ『白鳥の湖』の2幕の白鳥のヴァリアシヨンと『ラ・バヤデール』の2幕のガムザッティのヴァリアシヨンだった。

最難関のプルミエール・ダンスーズの課題曲はジェローム・ロビンスの『アザー・ダンス』の第1ヴァリアシヨン。スジェ8人の精鋭たちの中から、1席の空席を勝ち取ったのは、自由曲でローラン・プティの『カルメン』から寝室のヴァリアシヨンを踊ったリュドミラ・パリエロである。26歳の彼女も着々と昇進のコマを進めている出世組と言えよう。
2003年に入団し、2006年にコリフェに昇進。2007年の『くるみ割り人形』では、舞踏会のワルツの芯や、雪のソリストを臆することなく務めて、直後にスジェに昇進する。2008年は空きがないため、プルミエール・ダンスーズの試験が行われなかったが、ジョゼ・マルティネスの『天井桟敷の人々』では主役のギャランスに抜擢された。今年9月−10月の『ジゼル』でも、大活躍だ。怪我で降板したウルド=ブラームに代わってペザント・パ・ド・ドゥの第1キャストを務め、ドゥ・ウィリや、ジゼルの友達も演じた。これだけでも十分な活躍だが、一番の功績は、何といっても10月1日のミルタ役だろう。第2幕、ミルタのソロの大詰め、ディアゴナルでのグラン・ジュテで、ミルタ役のエケが膝を脱臼し、下手に引っ込んでしまった。(2004年2月の『ジゼル』で、当時のミルタ役、ナタリー・オーバンも全く同じ箇所で怪我をしてしまったことが思い出され、見ていてぞっとした。)マネージュでは音楽だけが鳴り、観客をハラハラさせる状態に陥ったが、数分後、ドゥ・ウィリに扮していたパリエロがミルタ役の代役で登場した。以後はシャリーヌ・ジザンダネがポツンと一人でドゥ・ウィリならぬ、ユンヌ・ウィリを演じることになったのだが、その違和感をパリエロの存在感がきっちりと埋めていた。
このパリエロの昇進はもちろん順当でケチをつけるつもりはないが、マティルド・フルステが3位で落選という結果には驚かされた。飛び級でエトワールに昇進してもおかしくないほど4−5月の『オネ−ギン』でオリガを熱演していたことを思うと、フルステの落選は残念でならない
若手の躍進が目立った女性ダンサーの昇進試験だったが、20日の男性ダンサーの昇進試験はどうなるだろうか。空席はプルミエ・ダンスール2席、スジェ2席、コリフェ3席となっている。