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[2012.11.14]

ダンスとマイムがゆったりと美しく組み合わされた東京小牧バレエ団『白鳥の湖』

日本で『白鳥の湖』全幕が初めて上演されたのは1946年。小牧正英の演出・振付によるものだった。それから66年後の2012年11月には、東京小牧バレエ団が佐々保樹の演出・振付(プティパ/イワノフ、小牧正英による)の『白鳥の湖』全幕が上演された。
これを機に、日本では『白鳥の湖』全幕が、実際、どのような演出・振付で初上演されたのか、に関心を持つことも日本バレエ界にとって必要なことではないかと思う。そこで松尾明美バレエ団で、このヴァージョンとほぼ同じだったと思われる『白鳥の湖』のベンノ役を踊られた経験をもつうらわまこと氏に、今回の公演の印象を書いていただいた。本来は公演評のページで掲載するものだが、筆者のご協力が得られたので観客諸氏の印象の薄れないうちにと思いレポート欄に掲載することにした。
なお、東京小牧バレエ団の菊池宗総監督によると、小牧バレエ団には『白鳥の湖』の三つヴァージョンが残されており、今回公演は1959年のマーゴット・フォンテーンとマイケル・サムズをゲストに招いて上演したもの、とのことだった。(関口 紘一)


東京小牧バレエ団『白鳥の湖』佐々保樹 演出・振付
うらわ まこと

1211komaki0973.jpg 撮影/飯田耕治

『白鳥の湖』といえば、だれでも知る古典バレエの名作で、内外多くのバレエ団が上演しています。そのせいか、もちろんみんな一定のレベルにはあるのですが、心を強く打たれる舞台に出会うことがむしろまれです。
そのなかで、このたびの東京小牧バレエ団の『白鳥の湖』は【嬉しい舞台】でした。それにはいろいろな理由があります。
まず、演出というか、作品に対するコンセプト(基本的な考え)です。それは、振付が初演のままかどうかは別としても、プティパ/イワノフによる初演の頃の趣が感じられるからです。詳しく説明するのはたいへんなのですが、まず、初演後120年近く、今日までいろいろな改訂が加えられました。個々の振付者独自のものは別として、現在の基準は原振付以外に2つあります。ともに1950年代前半のもので、一つはソ連時代のいろいろな改訂をキーロフ(マリインスキー)劇場のセルゲーエフが整理したもので、ハッピーエンドにし、できるだけマイムをカットして踊りを主体とした演出。もう一つはダンチェンコ劇場のブルメイスティル版。最初にオデットが白鳥にされる場面、そして最後に人間に戻る場面を付け加えるなど、ストーリーを分かりやすくしたものです。
これに対して、今回の東京小牧の佐々保樹演出は、戦後小牧正英が上海から持ち帰った資料により、東京バレエ団として1946年に初演、その後小牧バレエ団が継続した版、つまり上の2つの改訂以前のコンセプトによるものです。それは基本的にはダンスとマイムをうまく組み合わせて説得力ある舞台の流れを作ること。例えば、王子を思いやる貴族で友人のベンノの役割を明確にして、第1幕では母親である王妃に結婚を命じられて落ち込む王子を思いやり、白鳥狩りを勧めます。そして次の幕では、王子とオデットの愛をしっかり守り、アダージョでははじめに一部オデットをサポートした後、静かに去って2人(オデットも夜は人間)だけにする心遣い、そして最後にオデットが悪魔ロットバルトに連れ去られた時も王子を励ますのです。この演出は今やほとんど見られません。それ以外でも第一幕のパ・ド・トロワの意味(王子を楽します)、あるいは第3幕の宮廷の場では民族舞踊のダンサーたちが王妃にきちんと礼を尽くすなど、全体にとてもていねいに演出されています。そして最後、湖に身を投げたあと、シモテ奥から現れる天国で結ばれた2人に向かって、白鳥たちが斜めに列をつくり膝をついて手を差し延べるフィナーレは、照明も加わって心理的にも形状からも、きわめて情緒的で美しいものでした。これは、古典バレエとは、ダンスとマイムがともにゆったりと美ししく組み合わされて相乗効果を発揮すべきものであるという私のバレエ観に沿うものでした。
もうひとつ、私事ですが、今から60年ほど前、私の初舞台が『白鳥の湖』の第2幕のベンノ。そしてオデットは小牧演出を最初に踊った松尾明美だったという体験がこの演出への思いを強めたことも付け加えておくべきでしょう。

さて、演出だけでなく舞台のできもなかなかのものでした。オデット/オディールはボストン・バレエのプリンシパルの倉永美沙。バランスの取れた姿態で、役や状況を十分心得た巧みな演技や技術で、まさにトッププロの仕事。王子のヤロスラフ・サレンコも同じタイプ、良いコンビネーションで作品を支えました。ベンノはもと新国立劇場バレエ団のグリゴリー・バリノフ、ロットバルトは原田秀彦、ともに過不足なく役割を果たしました。若手も進境をみせる女性出演者、モンゴールダンサーを含む男性ゲストも、きちんと演出にしたがって統一感のある舞台ををつくっていました。さらに女性で特筆したいのは、爪先や靴音についての意識が感じられたこと、当然とはいえ、こころに残りました。
(2012年11月3日 新国立劇場 中劇場)

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撮影/飯田耕治(すべて)