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川島 京子
[2015.08.26]

「吉田都×堀内元Ballet for the Future」公演記念 堀内元特別講習会

8月12日より3日間、チャコット勝どきスタジオにて、堀内元特別講習会が行われた。
この講習会は、「吉田都×堀内元Ballet for the Future」公演記念として開催。バランシン・テクニックをベースとした20年以上の指導経験から編み出された堀内元のメソッドを学ぼうと、連日満員の参加者が汗を流した。
参加者は10代〜20代を中心とした、まさに次世代を担う若手ダンサーたち。その中には堀内の帰国を待ち望んでいたリピーターたちも多く含まれる。2時間半という長丁場のクラスは、すさまじい熱気に包まれながら一瞬のうちに過ぎて行った。
講習会のタイトルに「バランシン・テクニックをベースとした」とあるだけに、レッスンにはバランシンらしい特徴が散見され、とても興味深い。6番ポジションや、膝を内側に向けるパッセといったアン・ドゥダンの要素が含まれたり、バランシンがブルノンヴィルの影響で取り入れた足先の細かい動きの訓練も多用されている。さらに、動き以外にも驚くのは、音楽のとり方だ。レッスンピアニストは時折完全に伴奏を止める。ダンサーは音無しで動き続ける。そして、動きの無いところで再び伴奏が始まる・・・。堀内は、「音楽をフレーズで踊るのではなく、ビートに乗っかって踊ってゆくのがバランシン・テクニック」だという。バランシン作品は、最初から最後までビートを一つでも逃さないよう、カウントしながら踊らなくてはいけない。だから教えるときも、ダンサーにカウントさせるために、ピアニストにメロディーを弾かせない。ダンサーはどうしてもメロディーを聞いてしまうからだ。これは、堀内の師であるスタンリー・ウィリアムスや、今でもピーター・マーティンスが採用している方法だという。
また、レッスンを通して、いわゆる難しいアンシェヌマンは一切含まれていない。堀内は、「バランシン・メソッドというのは、基本は反復運動。タンジュもひたすら16回前へやって、16回横へやって、16回後ろへやって。ひたすらデヴェロッペもあげて8カウント待って・・・」という。しかし、これには、堀内自身の考えも反映されている。最近の日本の指導者が、教える際コンビネーションを考えることばかりに力を注いでしまい、まるで複雑なアンシェヌマンを覚えることがレッスンになってしまっていることへの警鐘だ。「順番を追うことではなく、どれだけきれいに足を上げられるか? どれだけきれいに回れるか?というテクニックを向上するのがクラスだ」という。

150606bftf02.jpg 「Ballet for the Future」トークイベントより
吉田都、堀内元

(C) DANCE CUBE by Chacott

バランシン・テクニックという名称は、あまりにも有名であるが、実は日本でその実体はあまり知られていない。現在、堀内元は、それを日本で教えられる正真正銘唯一の人物である。そうした意味でも、この講習会が如何に貴重であるかは言うまでもない。しかし、堀内が目指すのは、決してバランシンを踊るためだけのメソッドではない。堀内元は、NYCBプリンシパルの頃、かのデヴィッド・ハワードの勧めで指導を始め、以来20年以上アメリカと日本で指導をしてきた。歴代の名教師に学びながら、そしてトップダンサーとしての自らの経験も反映させ、堀内元オリジナルのメソッドを培ってきたのだ。そんな堀内メソッドの極意の一つに、どんな作品にでも耐えられる力強い体つくりがある。堀内がレッスンを通して最もこだわるのが、基本姿勢だ。堀内のレッスンでは、ポールドブラの位置が肩からまっすぐの位置になるよう、極端に胸を開かせる。堀内は、「体をペラペラな1枚の薄い紙ではなく、肩を後ろに開いて、背筋を中心に体を1本の丸い柱にするような感覚」だという。これは自分自身の怪我の経験から編み出したもので、堀内は、肩のけがによって一旦ダンサーとしてのすべてを失い、そこからどうしたら再び踊れるかという、無からの作業を経験した。その中で彼が発見したのが、背中の重要性であった。前からの衝撃にも横からの衝撃にも強い、この形にすることによって、すべての動きが再び可能になったのだ。
「今回、吉田都さんと踊って、ものすごい強靭な背中をしていることに気付いた。また少し前に、熊川哲也さんとリハーサルをしたときも彼の背中の力強さを感じた。彼らによってこれが立証されたと思った。気が付いてみると、人間というのは、強くまっすぐな背中によってしっかりとした動きができる」。

さて、まもなく、待望の「Ballet for the future」が開幕する。公演に向けて、メッセージをお願いした。
「今、日本はコンクールブームで、観客もダンサーも、どうしてもテクニック志向になってしまっている。コンクールやフェスティバルでは、究極のところ、誰がいっぱい回って誰が一番長くバランスがとれたか、というのが拍手のバロメーターになってしまっている。そうではなく、バレエというのは総合芸術である。作る側つまり演出振付家である僕がいて、その気持ちをしっかりと汲んで踊ってくださる世界的スターの3人がいる。ただスターだけがドンとでるのではなく、ただ振付家だけがドンと出るのではない。その絶妙な組み合わせによって、作品が何倍にも深みをもって作り出される。僕はそれを目指している。若い子たちに、そうした舞台を観てもらうことによって、バレエとは、バランスごっこではない、テクニックで拍手をもらうことではない、ということをわかってほしい」。

そして、もう一点、今回の来日で堀内元が示唆するのは、バレエ公演の興行の在り方だ。「この公演は、チャコットが主催となって、さまざまな枠組み作りや企画の工夫によって、興行として成立させようとしている。日本のみなさんには、この公演のそうした「全体」を見てほしい。そして、これが日本のバレエを作る上で模範になってくれたらいいかなと思う」。

若いダンサーたちにとって、堀内元といえば、アメリカで長く活躍し、NYCB、セントルイスバレエ団であまりに大きな功績を収めた、すこし遠い存在という印象があるかもしれない。しかし、彼は貝谷バレエ団出身の父・堀内完、東勇作バレエ団出身の母・都築秀子という日本バレエ界のサラブレットとして生まれ、幼い頃から類まれなる才能を発揮し、日本バレエ界の期待を一身に集め、日本バレエの未来を背負ってきた人物である。その彼が、今回、吉田都さんと一緒になって、偉大なる功績と経験を日本バレエに還元しようとしてくれるのがこの公演である。「Ballet for the Future〜次代へのメッセージ」をわれわれはしっかりと受け止めたい。