佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
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東京バレエ団がマラーホフ版『眠れる森の美女』を日本初演

 ベルリン国立バレエ団芸術監督のウラジーミル・マラーホフが自ら演出し、昨年10月に披露した『眠れる森の美女』が、東京バレエ団により日本初演された。デジレ王子はもちろんマラーホフで、オーロラ姫は、この1月、ベルリンでこの役を踊ってきた東京バレエ団の吉岡美佳。マラーホフは、プティパの原典に基づき、物語の骨格を受け継ぎながら、随所に独自色を打ち出していたが、総じてメルヘンの世界を強調していたように思う。

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幕が開くと、そこは咲き誇るバラの生垣で囲まれた庭園。時代や場所を特定せず、全幕通してバラの庭園という装置で一貫させた。プロローグでは、生垣の前に吊るされたバラが絡まる七つの大きな球が半回転すると、中から妖精やカラボスが順次現われる趣向。オーロラが、糸紡ぎの針ではなく、バラの棘を刺して倒れるように変えたことにより、バラに囲まれて育つオーロラは常に棘を刺す危険にさらされていることになる。大きな変更はほかに、狩りの場面や「パノラマ」を省き、代わりに「パノラマ」の音楽を第一幕が始まる前に置き、幼いオーロラに呪いを掛けたバラを持って近づこうとするカラボスと、これを防ぐリラの精のやりとりを見せ、成長したオーロラの登場につなげたことだろうか。
デジレ王子は妖精が遊ぶ森に誘い込まれたように飛び込んできてリラの精に会い、オーロラの幻に魅了されて救出に向かう、と筋道はきちんと付ける。だが、婚礼の祝宴の最中に演奏を中断し、カラボスに舞台をねたましげに横切らせた意図は何か、謎を残した。

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マラーホフは、柔らかな跳躍で空中に美しく弧を描いて登場。妖精たちに囲まれて踊り、それに続くソロで、自分を引き付ける不可思議な力をいぶかる心の内を、首を傾げ、腕や上体を宙に漂わせるように使って細やかに伝えた。グラン・パ・ド・ドゥも格調高く踊ったが、さりげないようでいて実に巧みに吉岡をサポートしたのには感心させられた。
吉岡は、ローズ・アダージョでは緊張のためか硬かったが、やがてしなやかさを取り戻し、安定した演技を見せた。最初に現われた時から既に成長した王女のように見えたが、メルヘン調が強いこのプロダクションでは、やはり十六歳の初々しさを出して欲しかった。リラの精の上野水香は、技の見せ場はないものの、凛とした態度と太陽の温かさでオーロラを守って好演。カラボスの芝岡紀斗は切れ味鋭い演技で舞台を引き締めた。ほかに、フロリナ姫の小出領子とシンデレラの井脇幸江が華を添えた。
(2月18日・東京文化会館)


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<マラーホフの贈り物 2006> Aプロ

 第五回を迎えた<マラーホフの贈り物>のAプロ。マラーホフは、ドイツ、ロシア、アメリカのバレエ団から七人のプリンシパルを招き、東京バレエ団の参加も得て、多彩な演目を披露して楽しませた。幕開けは、マラーホフとABTのJ・ケントによる『ザ・グラン・パ・ド・ドゥ』。黒縁メガネのケントがバッグを手離すまいと、左右に持ち替え、あげく口にくわえて踊れば、マラーホフは彼女の片手、片足を持って振り回し、共に相手に逆らい、体をぶつけるなど、絶妙なタイミングの演技で笑わせた。二人はほかに東京バレエ団と共演し、『白鳥の湖』の第二幕を踊った。ケントは腕や体を典雅に操り、脚を打ち振わせ、しっとりとオデットの情感を表現。マラーホフは的確なマイムやサポートで応えた。

 ミュンヘン・バレエ団のL・ラカッラとC・ピエールは現代作品を踊った。『椿姫』(カニパローリ振付)では、ラカッラがヒロインの期待や喜びを全身から滲ませて秀逸。ポアントの美しさは抜群で、足先の動きが言葉になる。ピエールも流麗な流れに乗って青年の情熱を燃え上がらせた。『ライト・レイン』(アルピノ振付)では、異国風の音楽に合わせて、ラカッラが、しなやかな体をフルに生かし、彫像のように次々とポーズを決めていくのに目を奪われた。ベルリン国立バレエ団のP・セミオノワとA・シュピレフスキーが最初に踊ったのは『菩提樹の夢』(ショルツ振付)のアダージョ。スポットライトに浮かび上がった男女が、もたれ合い、離れてはまた絡み合う様を抒情豊かに綴った。“黒鳥のパ・ド・ドゥ”では、セミオノワがグラン・フェッテにダブルを連続して入れ、会場を沸かせた。

 ボリショイ・バレエ団のM・アレクサンドロワとS・フィーリンは『ファラオの娘』と『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥで、古典の様式を鮮やかに具現してみせた。特に後者でフィーリンが見せた強靭な跳躍は見事だった。マラーホフは、お馴染みの作品『ヴォヤージュ』で最後を締めた。白いパンツに上着をはおって現われたマラーホフは、何かを求めてか振りきろうとしてか、腕を横や天に差し伸べ、身をかがめ、また相手を確かめるように手を振り、キスを投げ、急に険しい顔にもなる。繊細な心の軌跡をストレートに伝え、今ある自分を慈しむように映った。
(2月24日、ゆうぽうと簡易保険ホール)


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