関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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 明けましておめでとうございます。寒いですね。観測史上の記録を更新しつづける寒波の襲来。鹿児島や広島などにも積雪して、まるで「日本列島雪景色」です。でも日本だけじゃなくて、ヨーロッパでも雪が降り寒波がやってきているそうです。地球が温暖化して、今まで以上に水蒸気が発生し、それが雪になって降っているとか。それなら温暖化に歯止めがかかるといいんですけど。ともあれ、年が明けてダンスの舞台はいよいよ熱くなってます。

『くるみ割り人形』を探して、その1

 昨年の年末もまた多くの『くるみ割り人形』が上演され、クリスマスの楽しさに彩りを添えた。よく知られているように『くるみ割り人形』は、1892年12月18日にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演された。この時は、チャイコフスキーのオペラ『イオランタ』とのダブル・ビルで、クリスマスのための子供向けのバレエとして上演された。

『くるみ割り人形』が子供を中心とした童話の世界を描いた作品であることは、チャイコフスキーの音楽を聴けばすぐに理解できる。またこのバレエは、劇中でクリスマスツリーが巨大化することに表されているように、主人公クララの少女から大人への成長の物語である。しかし『くるみ割り人形』のヴァージョンは、世界中のバレエ団の数と同じくらいある、と言われるくらいに様々なものがある。マーク・モリスやマシュー・ボーンのようなコンテンポラリーな振付家が、「偶像破壊」的な『くるみ割り人形』を創っていることも有名である。
 レフ・イワノフ振付の初演版『くるみ割り人形』は、金平糖の精をアントニエッタ・デリ=エーラ、コクリューシュ王子をパーヴェル・ゲルト、ドロッセルマイヤーをティモフェイ・ストゥコルキンが踊り、バレエ学校の生徒たちがくるみ割り人形(セルゲイ・レガート)、クララ(スタニスラフ・ベリンスカヤ)、フリッツ(ワシリィ・ストゥコルキン)を踊っている。


昨年末に観た『くるみ割り人形』では、イワノフ版の復元を明記しているから当然だが、NBAバレエ団のヴァージョンはこれと出演者の構成が同じである。復元にはイレム・ドージャ(ブタペスト・バレエ学校校長)があたったが、雪の景の振付はナタリア・ボスクレシェンスカヤが担当した。初演時の写真に見られるように、白いむく毛の小さな玉を髪に飾ったコール・ド・バレエが、雪の舞う姿を美しく表していた。また、ドロッセルマイヤーは甥を連れて登場するが、彼と出会った印象がクララの夢に影響を与えている。第2幕はクリスマスケーキの中の世界のイメージで展開しているし、全体に子供のために創られたバレエ、ということがよく分かる舞台だった。金平糖の精は、シュツットガルト・バレエ団のプリンシパル、マリア・アイシュヴァルト、王子はNBAバレエ団のセルゲイ・サボチェンコだった。
(12月24日、メルパルクホール)
 
 井上バレエ団の関直人振付もイワノフと同じ配役である。くるみ割り人形の王子は大倉現生、王子はオーストラリア・バレエ団ソリストの藤野暢央が踊った。金平糖の精の島田衣子が細かいステップを余裕を持って踊り、繊細な表現力と素晴らしい踊りを見せてくれた。雪の王子とスペインを踊った井上陽集、花のワルツの中尾充弘も良かった。全体にすっきりとした洗練された演出で、ピーター・ファーマーの美術と衣装も見事だった。
(12月17日、文京シビックホール)

 東京シティ・バレエ団の石井清子版も「イワノフの原型による」とクレジットされている。石井の振付では、クララ役のバレリーナが第1幕のねずみと玩具の兵隊の戦争のシーンと雪の国のシーンでは代わり、お面のくるみ割り人形もハンサムなくるみ割り人形(チョ・ミンヨン)に変身する。クララは夢の中で自分が成長した姿を見る。さらにお菓子国では、コクリューシュ王子(黄凱)と踊る大人の女性の金平糖の精(志賀育恵)を見る。これは少女クララの憧憬を映した演出であろう。石井振付は子供たちをとてもよく踊らせているが、これはチャイコフスキーの曲想を尊重した演出と言えるだろう。また、志賀育恵の金平糖の精も細やかな表現を心がけており、江東区でバレエを育てる会が協力していることもあって好感のもてる舞台だった。
(12月23日、テアラこうとう)



『くるみ割り人形』を探して、その2

 新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』は、1934年にキーロフ・バレエに振付けられたワイノーネン版に基づいてガブリエラ・コームレワが演出している。イワノフ版は2幕だがワイノーネン版は、ネズミと鉛の兵隊の戦いと雪のシーンを独立した幕とした3幕構成となっている。また、少女マーシャには大人のバレリーナが扮し、くるみ割り人形から変身した王子と第3幕でグラン・パ・ド・ドゥを踊る。全幕を通して主役が主役らしくメインを踊る構成となっている。そのためマーシャがねずみの王とくるみ割り人形が戦った際に、スリッパを投げつけて助けた、というエピソードをマイムで説明するシーンはカットされている。かつての旧ソ連のバレエは、マイムを外して、すべてを踊りで進行するという傾向があった。
 マーシャはヴィシニョーワ、王子はフェジェーエフが踊った。主役のダンサーから演出、指揮者、舞台美術・衣装、照明までクリエイティブなセクションはすべてロシア人である。日本のナショナル・シアターとしてここまで必要なのであろうか。日本の現在のクラシック・バレエの水準に照らして一考の余地があるかと思われる。
(12月16日、新国立劇場)

 小林紀子バレエ・シアターも原振付として、ワイノーネンをクレジットしている。演出・再振付は小林紀子で、いつもこのカンパニーのスティジングを行っているジュリー・リンコンが監修となっている。ドロッセルマイヤーにもらったくるみ割り人形がネズミの攻撃からクララを守る。そして彼はドロッセルマイヤーによってくるみ割りの王子に変身する。ラストはクララが見守る中で、金平糖の精とくるみ割りの王子がグラン・パ・ド・ドゥを踊る。ワイノーネン版だがイワノフ版の1部を取り込んだようなヴァージョンだった。くるみ割りの王子は英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、エドワード・ワトソン、金平糖の精は島添亮子だった。
(12月27日、メルパルクホール)

 松山バレエ団の『くるみ割り人形』は、クララの森下洋子、王子役および演出・振付の清水哲太郎はもちろん、演出・振付、美術から指揮、演奏まですべて日本人であり、昨年見た中では唯一のすべて<国産>の舞台だった。あらゆる事象で急速にグローバル化が進行しているのだから、今時、<国産>などというのはナンセンスなのだろうか。
 クララの森下洋子は、最後にくるみ割り人形が変身した王子とグラン・パ・ド・ドゥを踊る。少女クララは、ドロッセルマイヤーに貰った醜いくるみ割り人形を慈しみ、ねずみの軍隊との戦いを経て、王子を愛する女性へと成長する。王子と別れのパ・ド・ドゥを踊ったクララは、すべてが夢であったことを知る。しかし終幕では、ドロッセルマイヤーを見送るクララの肩に、雪の女王にもらったショールが掛けられる。クララは夢を見たのに違いないが、彼女が少女から大人の女性に成長したことも事実である。クララの肩に掛けられたショールがそれを証明しているのである。このクララ役を森下洋子が見事に完璧に踊っている。また、ねずみの王には七つ頭が付いていたが、バランシン版で登場するねずみの王もまた七つの頭を持っていた。バランシンはサンクトペテルブルク時代に『くるみ割り人形』に出演したことがあり、恐らく当時のねずみの王様を記憶していたのだろう。
(12月21日、ゆうぽうと簡易保険ホール)
 

 

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