渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe
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パトリス・バール振付『ドガの踊り子』の再演、パリ・オペラ座バレエ団

 2003年4月に初演されたパトリス・バール振付『ドガの踊り子』が年末の12月8日から30日までガルニエで再演された。
 オルセー美術館に展示されているドガの踊り子のブロンズ像のモデルは誰かという探索から生まれた、プロローグとエピローグ付き2幕のバレエ。音楽ドゥニ・ルヴァイヤン、装置エツィオ・トッフォルッツィ。
 舞台には、ドガの時代、つまり19世紀末のパリ・オペラ座の舞台裏の様子が再現され、ドガのモデルとなった少女に、その母親、少女が憧れるエトワール舞踊手、メートル・ド・バレエ、定期会員、そしてドガ(黒衣の男)という主要登場人物を中心に舞台は展開する。ソリストにはそれぞれ、踊りの見せ場が設けられているが、例えば、エトワールとメートル・ド・バレエのカップルは、終始舞台に登場するので、最も目立つ存在となり、肝心の主役である踊り子の陰が薄くなってしまった感がある。従って、どちらかと言うと『”ドガの踊り子”を巡って』といったタイトルの方が当てはまりそうな内容である。題材としては非常に面白いものの、ドラマトゥルギーがいま一つ。

マチュー・ガニオ

 それでも、エトワールたちの踊りの饗宴は、やはり見応えがある。初日は、可憐な少女の役にぴったりのレティシア・プジョルと、ドガをミステリアスに演じたウィルフリード・ロモリ、支配的な少女の母親を好演したエリザベト・モランなど、初演の時と同じ顔ぶれが中心を務め、それぞれの人物像を的確に表出していた。今回注目されたのは、初演時のジャン=ギヨーム・バールに替わってメートル・ド・バレエに扮したマチュー・ガニオ。つけひげで舞台に現れると、父親のドゥニ・ガニオにそっくりなのがほほえましい。実際、マチューの名前をドゥニと書き間違える批評家も時々いるのである。相手役のエトワール舞踊手を演じたイザベル・シアラヴォラとの組み合わせもよく、19世紀的なロマンティックな雰囲気を十二分に出していた。またヴァイオリニスト役のジル・イゾアールの目の覚めるような機敏なパが印象に残る。


マチュー・ガニオ

プジョル&ロモリ

シアラヴォラ&ガニオ

オペラ座エトワールたちの競演、ヌレエフ版『白鳥の湖』

 ガルニエでの『ドガの踊り子』とほぼ平行して、バスティーユでは、チャイコフスキー曲、ヌレエフ演出、振付の『白鳥の湖』が始まった(12月12日から1月12日まで23公演)。
 ヌレエフ版の特徴は、王子が夢の中で見た出来事が現実となるという、王子の潜在意識に焦点を当てた点で、そのために通常主役はオデット=オディールに集約されるところ、王子とロットバルト(家庭教師ヴォルフガングが変身した姿)が加わったトリオの構図で展開される。ソリストのみならず第一幕の乾杯の踊りを男性のコール・ド・バレエに踊らせるなど、男性舞踊手の人材豊富なオペラ座ならではの出し物と言えよう。つい一ヶ月前にマリインスキー・バレエの『白鳥の湖』がシャトレ座で上演されたばかりなので、どうしても比較してしまうが、マリインスキー版が、一昔前の絵本を開いたような非現実の奥ゆかしさを感じさせたのに対し、このヌレエフ版は、登場人物の心理的葛藤の扱いなど現代に通じるものがあり、見終わった後の余韻が違う。音楽のテンポが、全体にマリインスキー版よりやや遅めだが、このテンポでないと、込み入った振付は踊りこなせないだろう。またコール・ド・バレエは、マリインスキーのような一糸乱れぬアンサンブルとは異なり、一人一人がソリストといった主張が踊りが現れているのがオペラ座の特徴だろう。

  さて3年ぶりの上演となった今回は、様々な配役が組まれているが、初日と2日目の模様をご紹介しよ
う。
 12日初日のオデット=オディールはアニエス・ルテステュ、王子がジョゼ・マルティネズ、ロットバルトがウィルフリード・ロモリ、翌13日は、マリ=アニエス・ジローとエルヴェ・モロー、カール・パケットのトリオだった。


ルテステュ

ルテステュ&マルティネズ

 初日は、収録のカメラが入っていたせいか、全体に気合いが入り、バレエ団全体が一丸となって、活気あるステージを作り上げていたのが印象深い。ルテステュ&マルティネズのペアと言えば、94年まだプルミエの頃、二人が初めて共演した『白鳥の湖』の瑞々しくも完璧な舞台が未だに忘れがたい。現在では、共に貫禄が加わり、ルテステュは、現在オペラ座のオデット=オディールの第一人者としての自信にあふれた舞台を見せ、久々の舞台復帰となったマルティネズは、絶好調のルテステュの勢いにやや押され気味だったものの、品格あるノーブルの典型を見せてくれた。ロモリは、第3幕のソロは少々きつそうに見えたが、悪のヒーローとしての強烈な役作りはこの人ならでは。


ジロー&モロー
 二日目に登場したジローのオデットは、腕の羽ばたきが強すぎ、大味なのが気になったが、逆に黒鳥では、妖艶で情熱的な持ち味が生き本領発揮。ルテステュと同じく、グラン・フェッテはダブルを入れて回る余裕も。なお大晦日にニコラ・ル・リッシュと共演した際は、ポール・ド・ブラがずいぶん柔らかくなり、踊りも要所を決めるなど、確実にこの役を自分のものにしつつあるようだ。

 王子のモローは、前回初めて踊った時に比べ、演技にも落ち着きを増したが、何よりテクニックの切れ味が素晴らしい。第1幕のソロでの弓を手にしたトゥールの鮮やかさ、アラベスクの伸びやかなライン、第3幕のトゥール・アン・レールからアラベスクに移るポーズの美しさなど、旬の魅力にうっとりさせられる。なぜいつまでもエトワールに任命されないのか不思議である。
 パケットは、どちらかと言うと王子様タイプだが、そこはかとなく妖しい雰囲気を醸し出すなど、舞台での存在感を増してきたのがたのもしい。

 初日の第1幕のパ・ド・トロワは、ノルウェン・ダニエル、ドロテ・ジルベール、エマニュエル・ティボー、四羽の小さな白鳥は、ジルベール、マチルド・フルステー、ミリアム・ウルド=ブラーム、ファニー・フィアットという配役。まずティボーの舞い上がるような跳躍が見事だったが、女性ソリストたちは、進級試験を控えた時期だったためか、すでに競争が始まっているかのようなテンションの高い踊りを堪能させてくれた。
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