パリ・オペラ座では、5月11日から6月3日までオペラ・バスティーユで、ヌレエフ版『ドン・キホーテ』3幕が再演された。
既報の通り、5月20日の公演で、バジルを踊ったマチュー・ガニオが終演後、エトワールに任命されたのが大きな話題で、これを機に、シリーズ全体が白熱したムードに包まれてた。
今回のキャスティングは、キトリとバジルに、初日ペアのレティシア・ピュジョル&バンジャマン・ペッシュをはじめ、アニエス・ルテステュ&マチュー・ガニオ、ドロテ・ジルベール&エマニュエル・ティボー、エレオノラ・アッバニャート&カール・パケット、オレリー・デュポン&カルロス・アコスタ(ゲスト)、ルテステュ&ロベルト・ボッレ(ゲスト)という若手中心の組み合わせ。エリザベト・モランとクレールマリ・オスタが今シーズンお休みで、ジャン=ギヨーム・バール、エルヴェ・モロー、デルフィーヌ・ムッサンらエトワールやプルミエに故障者が続出した結果、スジェ級の若手にチャンスが回ってきたものと見られるが、この思いきった抜擢が成功し、若手世代の実力のほどを大いに示す結果となった。
その皮切りになったのがマチュー・ガニオのバジルで、当初5月14、17日の2回の予定が、ムッサンの降板によりキャストが交替、20日も踊ることになり、この3回目の公演で見事エトワール昇格となった。全幕主演は初めてで、ソリストの経験も今年1月のグリゴローヴィチ振付『イワン雷帝』で抜擢されたクルブスキー公のみということで、さすがに1回目の公演は、若干緊張が感じられたが、彼のバジルには、多少のミスなど気にならないほどほかに見るべき魅力が溢れている。エトワールのルテステュと並んで踊っていても、彼の方に視線が行ってしまうのは、エトワールになるために生まれてきたような彼の天性の才能だろう。
<ドン・キホーテ>ルテステュ&ガニオ |
<ドン・キホーテ>第3幕 ルテステュ&ガニオ |
エトワール任命の日には、演技にも余裕が出てきて、休憩時間には、ファンの間で、今日は何かが起こってもおかしくないというような期待が高まっていた。その日は、祭日というのに、開演前に総監督のユーグ・ガルがエリック・ヴュ=アンを伴って、舞踊監督のブリジット・ルフェーヴルとともに、入り口で、仏テレビで最も人気のあるキャスター、クレール・シャザルを出迎えるという、何やら、物々しい気配が漂っていた。エトワールの任命があるかないかは、まずガルの臨席が不可欠なのである。さらに客席には、オペラ座首脳陣や教師陣、それにエトワールたちが勢ぞろいしていた。
マチュー・ガニオの魅力は、何と言ってもノーブルな舞台姿と軽やかなパにある。どちらかと言うと、街の床屋のバジルより、デジーレ王子やジークフリート王子の方が似合いそうなタイプである。そして一番自然に役に同化できそうなのが、ローラン・プティのバレエではなかろうか。まだ、膝の調子が完全でないのか、着地がやや不安定だったのが心配だが、これだけ容姿の点で非のうちどころのない人は珍しく、テクニックはこれから磨いてくれればいいと思ってしまう。
キトリのルテステュも、やはりプリンセス・タイプなので、1幕は街娘としては軽快さを欠き、演技がやや淡白に映ってしまうが、チュチュ姿になってからの第2幕以降は、自信に溢れたテクニックで、全くの独壇場。エトワールの貫禄を示した。ただ、マチューの相手役としては、やはり大きすぎる。
さて、それから3日後の日曜日、もう一組のスターが誕生した。スジェのジルベール&ティボーである。ガニオがスジェから飛び級でエトワールになったので、奇跡よ再び!との期待が寄せられたのである。残念ながら、結果的に任命はなかったものの、この二人の舞台には、かつてのパトリック・デュポンとモニク・ルディエールのペアを思わせるパワーとスペインの炎を感じさせ(ちなみにジルベールのお母さんはスペイン人)、このところしばらくなかったような興奮と熱狂をもたらした。
ティボーは、いまだにスジェの地位だが、人気と実力から言って、事実上のエトワールといってもおかしくない。出てくるだけで舞台が華やぐ上、彼には、ニジンスキーはかくやと思わせる並外れた跳躍力がある。バジルは、彼の資質が最高に発揮された役柄であった。
一方、キトリのジルベールは、まだ20歳という若さにもかかわらず、全幕ものの主演は初めてというのが信じられないほど落ち着いている。エトワールになる日もそう遠くないだろう。この人の特技は、ルディエールと同じく安定したバランス力で、第2幕、ドルシネア姫のヴァリエーションでは、さりげなく爪先立ちで静止してしまう場面が2ケ所あり、これだけで割れるような拍手が沸き起こった。客席で見ていたエトワールたちも真っ青(?)というところか。
このように、アイドル的人気を巻き起こした二人だったが、ただ1回の共演というのが本当に残念だ。
ガニオのエトワール任命の日以来、コール・ド・バレエに至るまで、舞台全体に驚くほど活気がみなぎり、公演は佳境に入った。キトリの友人を踊ったミリアム・ウルド=ブラームとマチルド・フルステー、森の女王のオーロール・コルデリエ、キューピッドのフルステー、ジュリアーヌ・マティス、ジプシーのアレッシオ・カルボーネなど、若手がどんどん伸びているのがよく分かる。
5月下旬から6月初めにかけての終盤は、ゲストのボッレとアコスタが登場、オペラ座に旋風を巻き起こして、シリーズの最後を華やかに締めくくった。
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