『白鳥の湖』が振付けられた時は、今日のようにオデットとオディールを同じダンサーが踊るように構想されていなかったことは良く知られている。その後はオデットとオディールを同じダンサーが踊ることのほうが、むしろ普通になった。
それは、白鳥に象徴される清純な面と人を騙し陥れようとする黒い悪の面が、一人の人間の中に共存しているおもしろさが感じられて観客に受けたからであろう。
ヌレエフが振付けた『白鳥の湖』は、そうした2面性を二元論にまで拡大して、正と悪、現実と幻想をドラマティックに展開している。
冒頭、王子ジークフリートが夢うつつの中、オデットがロットバルトに囚われて白鳥に変えられるシーンを見せる。そして現実のジークフリートを導く家庭教師がロットバルトなのである。夢と現実が混交して、夢のシーンなのか現実のシーンなのかはっきりしないこともある。
ジークフリートに扮するのは、ジョゼ・マルティネスだが、結婚を目前に控えて、この夢と幻想の境界が曖昧に感じられていく若者をうまく演じている。オデット/オディールは、アニエス・ルテステュが踊っているが、ルテステュも悲劇の王女とジークフリートを誘惑する女性を巧みに踊り分けている。ロットバルトと家庭教師には、カール・パケットが扮し、彫りの深い表情を生かして独特の悪の魅力を漂わせている。
そのほかにも、パ・ド・トロワにエマニュエル・ティボー、ドロテ・ジルベール、白鳥たちの踊りにエミリー・コゼット、ナポリの踊りにジェレミー・ベランガールなどオペラ座のスターダンサーが踊っている。
(荒部 好)
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