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関口 紘一 
[2017.06.30]

A.プレルジョカージュが共同監督のW.ミュラーとともに『ポリーナ、私を踊る』のフランス映画祭上映に合わせて来日した

ヨーロッパを代表する振付家、アンジュラン・プレルジョカージュが『ポリーナ、私を踊る』の共同監督でパートナーのヴァレリー・ミュラーとともに来日。フランス映画祭4日目の6月25日午後、長編映画として監督2作目となる『ポリーナ、私を踊る』が有楽町朝日ホールで上演されたのちに登場、トークショーを行った。

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プレルジョカージュは、マース・カニンガムやドミニク・バグエなどのカンパニーでダンサーとして踊っていただけに、スラリとした細身の紳士だ。ミュラーは2014年に喜劇映画『LE MONDE DE FRED』を監督し、フランスで公開し好評だった。知的な雰囲気を漂わす美女であり、二人はとても感じの良いカップルだった。
プレルジョカージュは観客の質問に対して、まず、尊敬する芸術家、マルセル・デュシャンの「観客がどのように見るかによって作品は完成する」という言葉を援用。質問者の解釈をまず受け入れ、そして「私はこう思う」と言って説明したので、一方的でないとても良い交流が生まれた。一方、ミュラーは女性としての立場を保ちながらストーリー的な説明を分かりやすく加えた。(映画のストーリーは http://www.chacott-jp.com/magazine/news/other-news/201710.htmlをご覧ください)
そして、恐らくこの映画を観た多くの人たちの心を動かしたであろう、少女時代のポリーナが父に狩りに連れていってもらい、大きなトナカイの死を幻視する雪の中の美しいシーンの捉え方に質問が寄せられた。
ミュラーは「神がみていたのかもしれない。主人公ポリーナの自由な心が想像の中に現れた」と述べた。プレルジョカージュは、「トナカイは師(最初の教師、ボジンスキー)を暗示している。ラストシーンでは師が戻ってきた」と、ポリーナが初めて振付けたダンスをモンペリエのディレクター(プレルジョカージュが扮している)に披露するシーンと合わせて語った。

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ミュラーとプレルジョカージュは、この映画製作にあたっては、ダンスをしっかりと踊れるダンサーあるいは俳優を求めてロシアなどで600人以上にオーディションを重ね、キャスティングしたという。その中からポリーナ役のアナスタシア・シェフツォワを見つけた。その時、彼女はバレエ学校を卒業し、マリインスキー・バレエ団へ入団していた。そしてこの映画のオーディションを受け、プレルジョカージュとミュラーが監督する映画への初主演の道に進んだという。
『ポリーナ、私を踊る』の成功の大きな要因の一つは、アナスタシア・シュフツォワという素晴らしい主演者を見つけたことだ。主人公のポリーナとアナスタシア自身のダンスに対する想いが、まるで重なり合っているかのように、雪が一面に残るロシアの原発のある地方都市でのバレエから、明るい太陽が輝く南仏のエクサンプロヴァンスでのコンテンポラリー・ダンスへ、そして現代ヨーロッパの坩堝(るつぼ)ようなアントワープでは自身でダンスを振付けることへと発展していく。もちろん、家族の問題などを通して主人公のバックグラウンドもしっかりと描かれており、主人公の存在感が現実と融合して、リアリティを裏付けている。

もうひとつ、この映画の中ではクラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスが対立的に捉えられていないということ。ダンサーとして舞踊家として成長していくポリーナに、最も重要なことを教えたのは最初のバレエ教師、ボジンスキーだ。そしてポリーナ自身の身体に潜んでいる「自然」が、ある日、トナカイの姿となって啓示を与え、彼女は様々な舞踊体験を重ねて次第に目覚めていき、再びトナカイと出会う。
プレルジョカージュは言っている。「クラッッシク・バレエは厳格で技術ばかりであり、コンテンポラリー・ダンスは自由だ、というお決まりの図式があるが、そうではない。クラシック・バレエは厳格なテクニックを通して自由を得る。コンテンポラリー・ダンスで自己を解放するためには、実は大変な厳格さが必要であり、それを理解していない人が自由だと勘違いしている」と。
この映画のマスコミ向けの解説は、バレエの歴史を引き出しフェニミズムを通して解釈している。しかしそれでは概念的な見方となり、『ポリーナ、私を踊る』の活き活きと現実に生き抜いていくダンサーがリアリティをもって描かれている、という素晴らしいところが抜け落ちてしまうのではないか。
近年の映画は、CGなどを駆使したバーチャル感覚が大いに受けているようだが、『ポリーナ、私を踊る』は、代役を拒否して、身体の存在感を重要視し、ダンスをモティーフとして見事なリアリティにより作られている。この『ポリーナ、私を踊る』の成功は、映画作品としてもダンスの映像化としてもその意義をしっかりと認識する必要がある、と私は思う。ダンスの側で発言する人が、それを見逃してはなるまい。

また、この機会にアジュラン・プレルジョカージュとヴァレリー・ミュラーに単独インタビューさせていただいた。それは10月の映画公開時に掲載する予定。

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『ポリーナ、私を踊る』
10月28日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷 他 全国ロードショー
配給:ポニー・キャニオン