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関口 紘一 
[2012.02. 1]

新シーズンはビントレーの色調がいっそう際立ち、注目の日本人たちも登場
新国立劇場新シーズンラインナップ発表

ディヴット・ビントレー芸術監督が3シーズン目を迎えた新国立劇場バレエ団の2012-13シーズンのラインナップが発表された。新国立劇場は総支配人を置いていないので、芸術監督がかなりプロデューサー的な役割を担っているのであろうと推測される。
バレエのラインアップによると、ビントレー/ドリーブ『シルヴィア』、アシュトン/プロコフィエフ『シンデレラ』、コラリ、ペロー、プティパ/アダン『ジゼル』、プティパ、ゴルスキー、ファジェーチェフ/ミンクス『ドン・キホーテ』という4作のグランド・バレエ、そしてバランシン、ビントレー、サープの<ダイナミック・ダンス>とバランシン『シンフォニー・イン・C』、ビントレー『E=mc2』『ペンギン・カフェ』のトリプルビルが2公演、となっている。

120201news2_01.jpg 2012-13シンーズンのラインアップを発表するビントレー芸術監督

目玉はビントレー監督の『シルヴィア』全幕の新制作だが、そのほかにもビントレー色が濃厚に感じられる。例えば今シーズンもチャイコフスキーのバレエの上演はない。これは日本のバレエ団ではなかなか特徴的なことと言えるだろう。ビントレー監督が就任した2010-11年のシーズンにもチャイコフスキーのバレエはなかった。さすかに昨シーズンは『白鳥の湖』『くるみ割り人形』が上演されたが、またも今シーズはその姿を消してしまった。
私は彼にチャイコフスキーは嫌いか、と尋ねたことがあるがそんなことはない、という。しかし振付けたことはないのではないか、というと、『チャイコフスキー組曲』を創ったことがあるということだった。他に『くるみ割り人形スィーツ』があるが、これはチャイコフスキーというよりデューク・エリントンだろう。しかし、言われてみるとマクミランもチャイコフスキーを使った著名なバレエは少ないのではないか、アシュトンにはないかもしれない。これは20世紀を代表する振付家としては、バランシンとの大きな違いだ。バランシンは同国人ということもあるだろうが、チャイコフスキーへの敬愛を常に表明しており、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』や『セレナーデ』『バレエ・インペリアル』『モーツァルティアーナ』など後世に残る傑作を創った。これはおそらく、プティパ/チャイコフスキーが確立した19世紀のグランド・バレエに参加していたバランシンと、そのほか舞踊家のキャリアの違いからくるもかも知れないし、あるいは芸術観の違いからくるものなのかも知れない。そしてビントレーは明らかに、アシュトン、マクミランなどに近い芸術意識を持っているものと思われる。
ビントレーはまた、「私はみんながバレエにしようとしない題材をバレエにするのが好きだ」とも言っている。それはカフカの『変身』をバレエにしたりすることに現れているのだと思うが、今シーズンのトリプルビルには『E=mc2』(イー・イコール・エム・シー・スクウカェアード)が入っている。これは2009年に初演された作品で、佐久間奈緒が初演を踊っているが、アインシュタインの方程式をデヴィッド・ボダニスの同名の著作に基づいてバレエにしたもの。音楽はマシュー・ハインドソン。四つのパートで構成されていて、Eはエネギー、Mは質量、Cは光速度をダンスで表し、原爆などの問題も取り上げているという。確かにあまりダンスの素材となることはない。
しかしそういう題材をダンスにしたい、という関心の持ち方、その発想自体がビントレー作品を特徴となっている。そうした視点から『シルヴィア』全幕を見れば、ビントレー振付の特徴の一つを理解することができるかもしれない。

『シルヴィア』近年では、アシュトン版が英国ロイヤル・バレエ団で上演され、パリ・オペラ座バレエ団でノイマイヤー版が上演され、さらには英国ロイヤル・バレエ団が日本公演で上演、また2010年には東京バレエ団もアシュトン版を上演したことは記憶に新しい。
ビントレーはこの作品を、1992年に英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団でプリンシパルを務めていた吉田都をタイトルロールとして振付け、2009年の改訂再演の際には佐久間奈緒が主役を踊った。今回は新国立劇場の新制作によりシーズンのオープニング作品として、改訂再演の際に主演した佐久間奈緒とツァオ・チーをゲストに招く。新国立劇場バレエ団からは小野絢子と福岡雄大のペアが踊る。

2012〜13シーズンのダンス公演では、注目の日本人振付家の作品が登場する。まずは特異な和のイメージを展開する舞踊家、森山開次の『曼荼羅の宇宙』。金森穣と中村恩恵の作品を新国立劇場バレエ団のダンサーが踊る<Dance to the Future 2013>。DANCE PLATFORM 2012は、キミホ・ハルバートが主宰するユニット・キミホの新作、高谷史郎/ダムタイプの『明るい部屋』。平山素子によるラヴェル、ドビュッシー、サティをとりあげた<音楽3部作>の公演も予定されている。さらには、新国立劇場バレエ団のダンサーが振付けた作品を発表する場も設ける予定もあるそうだ。
日本人振付家がいっそうクオリティの高いダンスを創造することを期待したい。

120201news2_02.jpg 「シルヴィア」佐久間奈緒とツァオ・チー
photo/Bill Cooper
120201news2_03.jpg 「シンデレラ」小野絢子
撮影/瀬戸秀美
120201news2_04.jpg 「ペンギン・カフェ」さいとう美帆
撮影/鹿摩隆司