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関口 紘一 
[2017.01.19]

新国立劇場バレエ団が、2017-18シーズンのラインナップを発表

新国立劇場が開場20周年記念に当たる、2017-18シーズンのオペラ、バレエ、ダンス、演劇それぞれの部門のラインナップを発表する記者会見を開いた。オペラの飯守泰次郎、演劇の宮田慶子の両芸術監督は、このシーズンをもって退任することが決まっている。
いつものように、分厚いボックス型のプレスリリースが配布された。部門ごとの演目紹介を中心として編集された冊子と公演チラシが入っている。
オペラの飯守監督、舞踊の大原永子監督、演劇の宮田監督がそれぞれ次の2017-18シーズンのプログラムの編成について、説明を行った。

1701nntt01.jpg 大原永子 舞踊芸術監督

プレス資料には、2017-18シーズンの新国立劇場の主催公演の一覧表が入っていて、オペラが10本、バレエが6本、ダンスが4本、演劇が8本の次のシーズンのラインナップが一覧できる。舞踊部門は、バレエが6本(ウエイン・イーグリング振付の新制作『くるみ割り人形』、アシュトン版『シンデレラ』、「ニューイヤー・バレエ(『パ・ド・カトル』『グラン・パ・クラシック』『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』『シンフォニー・イン・C』)」、ダレル版『ホフマン物語』、牧阿佐美版『白鳥の湖』、イーグリング版『眠れる森の美女』)、ダンスが4本(山海塾『海の賑わい 陸(おか)の静寂』、高谷史郎『ST/LL』、大駱駝艦・天賦典式『罪と罰』、森山開次『サーカス』)となっている。
3人の説明を聞き終わって感じたことは、決してケチをつけるわけではないが、やはり、バレエのプログラムが弱い、ということ。「弱い」とは、日本のバレエ芸術中心的存在であるはずのこのカンパニーに創造性を高めて行こう、という意欲があまり感じられない、というこである。
新制作はウエイン・イーグリング振付の『くるみ割り人形』だけ。他はニューイヤー・バレエを含めてすべて再演。全6演目中にチャイコフスキーが3作ある。『くるみ割り人形』の新制作は2009年に牧阿佐美元芸術監督が振付けたヴァージョンがあるが、新制作版を季節をちょっとだけ早めて上演を予定している。どうやらそれは、地方に最も売れそうな演目をツアー用に組み立てることが狙いらしい。むろん、そうした種々の工夫も必要だろうが、それはアーティスティックな問題とは別のものであり、芸術監督の主要な仕事ではない。そしてイーグリングは既に『眠れる森の美女』でチャイコフスキーを振付けているが、その結果をどのように捉えているのか、彼にはモダンな感覚がある、というのだが、振付というものをどいうレベルで考えているのだろうか…。イーグリングとダレルを導入したらもう振付家は払底してしまったのだろうか。せめてニューイヤー・バレエに新しい舞台を実現できる振付家を導入しようという意欲を示すことはできないのだろうか。バレエの創造の最も基本を担う振付家が、そしてその作品が見当たらなくなってしまったら、カンパニーはどこに向かって舵を切れば良いのだろうか。

芸術監督から構想が出ないのであれば、新国立劇場側は厳しく芸術監督にヴィジョンを提出するように迫るはずである。しかし、新国立劇場側の意見も曖昧模糊としたものだった。館長とも相談しているが子供バレエに力を入れたい云々と。しかも、長期プランはある、と確かに言っていた。しかし、それは何も示されてはいない‥‥。
いったい、私たちは日本のバレエの観客に、新国立劇場バレエ団のシーズンプログラムの特徴をなんと伝えればいいのだろうか。

この新国立劇場バレエ団の未来へのヴィジョンが、よく判らない大きな要因は、おそらく、観客動員数の統計によるのではないか、と私は推察する。
例えば、2012年から2014年までのバレエの有料入場者数が発表されているが、それをごく単純に見ると、チャイコフスキー・バレエの入場者数が最も多く安定している。中でも『くるみ割り人形』が最も多い。続いて『白鳥の湖』『シンデレラ』『ロミオとジュリエット』となる。『眠れる森の美女』はこの期間には上演されていない。
そうしてみると、チャイコフスキーの3作品に『シンデレラ』を配した「鉄板」のプログラムが編成されてくるわけである。

(左から)宮田慶子演劇芸術監督、
飯守泰次郎オペラ芸術監督、大原永子舞踊芸術監督
 

大原永子芸術監督はバレエのプログラム説明に際して、近年は新国立劇場バレエ団のダンサーに表現力がついてきて嬉しいが、気を緩めずに充実させたい、と言っていた。しかしそれは、ビントレー前監督が、オリジナル新作の全幕ものの振付を完成させていく体験をダンサーたちにさせたこと、それまでレパートリーになかったいわゆる〈ハード・バランシン〉やバレエリュス作品あるいはビントレー自身の作品を数多く踊らせて、新しいキャリアをたくさん積ませたこと、ダンサー自身にも振付のチャンスを与えたこと、さらに外国人ダンサーをゲストに迎えることなく新国立劇場バレエのダンサーだけで充分に集客して公演を成立させることができる、という自信を与えたことなどによることが大きかったのではないだろうか。
今回のプログラムのように、チャイコフスキーを中心とした古典名作バレエに最小限のコンテンポラリー・ダンスの再演だけを踊っていたら、今日の小野絢子や福岡雄大、米沢唯は生まれたろうか。ダンスの4演目でも踊る機会はないようだし。
もちろん、ビントレー時代からダンサーを教えている大原監督の手腕も大いに貢献しているだろうけれど、大原監督自身が言うように、ダンサーの表現力はそんなに突然成長するはずはないのだから、何を踊ってきたか、はもっとも重要である、と私は確信する。
ここでは論を進めるために単純化して言ってはいるが、つまり、優れた新国立劇場バレエ団のダンサーが踊るチャイコフスキーや古典バレエの集客を支えていたのは、ビントレー前監督のプログラムを踊ってきた経験によるところが大きいのではないか。
単純に客入りの良い演目を並べるのが、少なくとも国立のオペラハウスを拠点とするバレエ団のプログラムの編成ではないだろう。もう少し広い視野を持って取り組んでいただきたい、と切望する。

▼新国立劇場 2017/2018シーズン バレエ&ダンス ラインナップ詳細はこちら
http://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/170112_009745.html